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医薬品“らしくない”パッケージへの挑戦

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パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2013年9月号に掲載された連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)






限定パッケージのCUTE版(上)とCOOL版(下)。「常に持ち運ぶ」という使用シーンを前提とした、女性のファッション小物のようなデザインが採用されており、ローラさんの顔写真を掲載したり、不必要に目立ったりすることがないように配慮されている。

エスエス製薬の解熱鎮痛薬「イブA錠」のパッケージを、タレントのローラさんがデザインした限定商品が5月に発売された。ラインアップは“CUTE版”と“COOL版”の二つ。このパッケージの活用法には、マーケティング施策として注目すべき点が多い。

まず、ロングセラーブランドの有効な活性化策という点だ。ロングセラーブランドは商品に対する安心感が確保される反面、既存ユーザーの年齢と比例してブランドイメージも年をとり、若い人に「自分のものではない」と思われてしまう可能性がある。若い人たちにも「私向けの商品」と感じてもらうために、今回のパッケージ投入は有効だと考えられる。

二つ目に、ローラさんと商品とのマッチングの良さが挙げられる。生理というデリケートなテーマに対し、常に明るく、時にはクールに振る舞う彼女は本商品カテゴリーにぴったりだと言える。また、ファッションセンスも高く評価されているため、彼女がデザインしたというニュースに話題性があり、多くのウェブメディアなどでも取り上げられている。

三つ目が、広告とパッケージの世界観の連動である。パッケージの背景色を広告でも使用することで、パッケージの世界観と広告によるコミュニケーションに一貫性が生まれ、統合された効果的なコミュニケーションを実現している。

四つ目は、限定デザインを2パターン用意したこと。若い女性が好みに合わせて選べるという視点と、売り場で展開可能な最大限のアイテム数という視点で考えられたラインアップであり、幅広い新規顧客の取り込みを可能としている。

今回の限定パッケージの展開は、こうしたいくつもの点で注目すべき施策といえる。しかし、最も注目すべき点はこの商品が「医薬品」であるということだ。

通常、パッケージデザインには“らしさ”が求められる。ビールであればビールらしさ、牛乳であれば牛乳らしさといった、その商品“らしさ”が存在することで、顧客は安心感や信頼感を覚え、商品の購入を検討する。医薬品はさまざまな商品の中でもかなり保守的なカテゴリーであり、昔からパッケージデザインにおける“医薬品らしさ”は重視されてきた。真面目で識別性が高く、主張は少なめ。ベーシックなフォントを使い、斜体の文字などは避ける。派手さはなくても“真面目”なパッケージが、医薬品としての信頼感をつくり上げてきた。

しかし、医薬品も国内市場では成熟期に入り、日用品ほど簡単に海外マーケットに進出できない現在、さまざまな挑戦をしなければならない状況にある。最近は、医薬品らしからぬユニークな広告展開で成功した商品も生まれている。

同社マーケティング本部の担当者によると、今回の「イブA錠」の挑戦もユーザーから好評で、同商品のシェアアップに貢献しているという。このような挑戦が成功することは、医薬品の今後の在り方、とりわけコミュニケーションの多様性を広げることにもつながるだろう。

■プロフィール
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。


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written by hansokukaigi