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産業財にパッケージデザインは不要か?

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パッケージのメディア特徴は購買に近いことだ。パッケージを見る人は、商品の購入をその場で検討している人である。それだけ、販売促進におけるパッケージデザインの役割は大きい。パッケージデザインを手掛けるアイ・コーポレーションの小川亮氏に、優れたパッケージを紹介してもらう。

ここでは、『販促会議』2013年8月号に掲載された連載「販促NOW-パッケージ」の全文を転載します。
(文:アイ・コーポレーション 代表取締役 小川 亮)


一般消費者が購入しない、いわゆる産業財にはパッケージデザインはいらないのだろうか。

消費財と産業財の最も大きな違いは「買い手に商品知識があること」と「情緒的価値を求めないこと」の2点だろう。消費財の場合、売り手と買い手に商品知識の差が大きいため、買い手はパッケージから情報を収集し、自分に合う商品かどうかを判断しなければならない。原材料や製法などの情報だけでは商品価値を判断できないことも多く、パッケージデザインの色や写真なども商品価値をイメージさせるために重要な役割を担う。

一方、産業財の買い手には商品知識があるため、パッケージには必要最低限の情報が記載されていれば十分である。製造企業名、原材料、製法といった情報で商品価値を判断できる。価格についても十分な知識があるために、撮影やイラスト、色数などを抑えて、パッケージデザインにはなるべく費用をかけずに、その分商品価格を安くする方が有効である。

一般的にはこのような考え方が主流だろう。しかし、そこに新しい視点を提供してくれるのが、ギリシャの建築材料メーカーであるペトロコル社の住宅用セメントだ。建築現場で使われることが多いこの住宅用セメントのパッケージには、セクシーな女性のイラストが配されている。このパッケージは、どのような効果を狙ってデザインされたのだろうか。

ペトロコル社

ペトロコル社「Spatula putty」のパッケージは、パッケージデザインの世界的なアワード「ペントアワード」で2009年にプラチナ賞を受賞している。ここで挙げた産業材のパッケージデザインの効果は、建築現場だけでなく、医療現場や飲食店、機械修理の現場など、あらゆる業界で共通して発揮されうる。

まず、同商品が使われる場所を想像してほしい。男ばかりで無味乾燥の建築現場だ。このデザインを担当したマウスグラフィックス社は、「セメント袋を運ぶというルーティンワークを明るくした」と語っている。これが一つ目の効果だろう。

二つ目の効果は、現場の作業員たちが、商品を大切に扱うようになったこと。デザインには、使う人を自然に目的に沿った行動へ誘導する力があり、これを“アフォーダンス”と呼ぶ。デザイナーがこのことを意図していたかどうかは不明だが、施主にとっては無駄な建材費が省けてありがたいことだろう。

三つ目に、識別性を高める効果がある。同商品は、種類によって描かれた女性の衣服の枚数が異なり、中にはヌードのイラストもある。これは、厚塗りが必要なセメントとそうでないセメントの違いを表現している。産業財の場合、購入時は買い手に知識があるが、使用時には人手不足や急ぎの作業、夜間の使用など、さまざまなシーンでの誤使用が懸念される。パッケージデザインは、こういった場合の識別性の向上にも効果を発揮する。

また、あなたはこの粋なデザインを見て、ペトロコル社がどんな企業だと思うだろうか。きっとユニークな社長がいる素敵な企業に違いない。優れたデザインは、企業のファンも増やすのだ。実はそれが最大のデザイン投資効果かもしれない。「我が業界にパッケージデザインは必要ない」と考える業界関係者が多い商品こそ、いち早くデザインに投資して差異化するチャンスがあるかもしれない。

■プロフィール
小川 亮氏(おがわ・まこと)
慶應義塾大学卒業後、キッコーマンに入社、宣伝部・販促企画部・市場調査部に勤務。同社退社後、慶應義塾大学大学院ビジネススクールにてMBA取得。現在、パッケージデザイン会社のアイ・コーポレーション代表取締役。飲料、食品、化粧品などの商品企画やパッケージデザインを多数手掛ける。


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