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「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜

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前回記事「愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜」はこちら

最近の若者は、「欲望のない世代」と言われて久しい現在。
車も持たない、海外にも行かない、消費欲もない……とメディアではよく言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。「事実は欲望がないのではなくて、上の世代の人たちが“欲望”と思っているものが、若い人たちのそれとは違っている」と話すのは、ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』作家であり、今年30歳を迎えた白岩玄さん。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹、ミスチル……と、現代の若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあると断言します。
「最初に欠落があり、そこに何かがハマることでコミュニケーションは起こっている」――。この連載では、「今、人気&話題になっているものが、なぜ支持されているのか」について、30歳小説家視点から解析していきます。

【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜

白岩玄(小説家)

季節イベントに巻き込むには、「モテ」が必須

毎年エイプリルフールに、ネットの世界ではちょっとした祭りが開かれている。いろんな国の企業が自社PRのためにウソの広告を作っていて、それをみんなで見て楽しむという遊びが数年前から行われているのだ。ツイッターやフェイスブックなどのSNSでは、ユーモアのセンスがある人たちが面白いウソの画像や文章を作り、それらがリツイートされている。

こういった「くだらない遊びを本気でやる」エイプリルフールは、最近日本でも秋のイベントとして定着した「ハロウィン」とよく似ているところがある。表現方法が「ウソか仮装か」の違いだけで、どちらもまず「楽しさ」を求め、その上で「いかに(出来の良さで)注目を集められるか」を競っているからだ。素晴らしいウソをついた人に対する賞賛は、クオリティーの高い仮装をした人に向けられるそれとかなり近いものがある。

とはいえ、日本でエイプリルフールとハロウィンのどちらがより人気があるかと言えば、今はハロウィンに軍配が上がるだろう。理由は単純で、一般の人がその二つのイベントに参加した際に得られる「モテ」の分量が、ハロウィンの方が大きいからだ。

どういう意味? と思った人も多いと思うので説明する。まずエイプリルフールはそもそもウソをつくのが難しい。企業や一部のセンスがある人たちのように、すべての人が秀逸なウソをつけるわけではない。だから多くの人たちは、家族や友達間でそんなにレベルの高くないウソをつき合うことになる。これはお遊びにはなるかもしれないが、どうしても「ぬるさ」がつきまとう。中には「はいはい、エイプリルフールでしょ」と言われて終わってしまう人もいるだろう。

その点ハロウィンならば、仮装をするだけである程度の注目を集めたり、好感を得たりすることができるのだ。やろうと同意したもの同士で仮装するのもあって、エイプリルフールのように冷たくあしらわれることもない。この「注目や好感を得られる分量が多い」という部分において、一般の人たちにとってのハロウィンはエイプリルフールよりもフィードバックの多いイベントになっている。

もうひとつは、ハロウィンの方がエイプリルフールよりも「若い女の子たちをうまく取り込んでいる」という面がある。ハロウィンには本格的な仮装ではなく、女子的に見てかわいい仮装をするという楽しみ方があるのだが(女の子たちは普段とはちょっと違う、魅力的な自分になる機会を求めているのだろう)、エイプリルフールにはそういった「若い女の子たちが喜ぶ要素」がない。

女の子がみんなで集まってウソをつこうとはならないし、仮装のように、ある程度のクオリティーが保証された衣装(エイプリルフールの場合は「ウソ」)が売られているわけでもないので、誰もが簡単にイベントを楽しめないのだ。

だからもしエイプリルフールがハロウィンと同じくらい人気が出ることがあるとすれば、それはこの「モテの問題」をクリアしたときだろう。

たとえばハロウィンにおいて街の中のクラブなどで仮装パーティーが開かれているように、エイプリルフールでも「ウソつきパーティー」なるものを開催したらどうだろうか。そのパーティーでは、職業や年齢といった個人のプロフィールをいくらでも詐称していいことにするのだ(「私は医者です!」と言い張ったりする)。だまし合いで遊ぶというか、ウソか本当かわからないのを楽しむ空気ができてしまえば、普通に男女で会話をするよりも話が弾むかもしれない。

世間の人たち(特に若い人)がイベントにモテを求めているのは、それが今自分の価値を確かめるのにもっとも手っ取り早い手段だからだ。社会が進むべき道を見失っている現代では、自分のことを肯定できるイベントだけが人気を集める。あらゆる人がモテに興味をなくしたら、この国の多くのイベントは、まず間違いなく商業的にダメになってしまうだろう。


若者攻略本。

AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹……若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあった!ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』で、若者のリアルな心理を描いた30歳作家が、“欲しがらない世代”の欲望を解説します。

白岩玄
1983年、京都市生まれ。高校卒業後、イギリスに留学。
大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科卒業。
2004年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
05年、同作は芥川賞候補になるとともに、日本テレビでテレビドラマ化され、
70万部を超えるベストセラーとなった。2009年『空に唄う』、2012年『愛について』を発表。
今年3月28日、初の実用書となる『R30世代の欲望スイッチ~欲しがらない若者の、本当の欲望』を発表した。

【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜