コピーライターの仕事というと、テレビCMのキャッチフレーズなどを連想する人が多いと思いますが、ネット通販やカタログにある商品コピーも、書いているのはコピーライターです。同じコピーライターの仕事でも、前者は一行のキャッチフレーズ、後者は本文をメインとする長い文章。制作の過程はまったく別物のようにも思えますが、実はそんなこともないのです。
そもそもコピーライターという仕事を有名にしたのは糸井重里さんだと思いますが、その糸井さんは、以前に取材でお会いした時にこうおっしゃっていました。「一本の短いコピーをクライアントに受け入れてもらうためにも分厚い企画書をつくったり、相手を説得するために勉強したりと膨大なエネルギーと時間がいる。報酬のほとんどはそっちにかかるほどで、作業自体はとても地道。キャッチコピーはトイレでハッとひらめく!という人がいるけれど僕には信じられない」。
糸井さんが最終的な作品として出力する一行のキャッチフレーズにも、それを売り込むための膨大な「ボディコピー」がセットされていたということですね。
通販コピーは、このボディコピーこそが主役です。短いタイトルコピーだけでは商品を買ってもらえませんから、本文で詳しく説明して読み手を口説く。通販コピーの本質は「説得」です。相手を信用させて、なるほど!と共感させる。そして最後には商品を買ってもらう。そのために何を言えばいいのか? どう書けばいいのか?
ここに、コンビニで買ってきた箱ティッシュがあります。その箱裏に書かれていたコピーがこれ。
暮らしにグレードを求める皆様の最高級ティッシュです。厳選した純粋パルプを独自の技術で磨きあげ、最高レベルの肌ざわりを実現しました。デリケートなお肌を持つ女性や本物を愛する皆様にお使いいただきたいティッシュです。優しい肌ざわりのティッシュ。肌に触れた感触がちがいます
どうでしょう、あなたはこのコピーに「説得」されるでしょうか? たとえティッシュの品質がこのコピーの通りだとしても、文字通りに信じるとは思えませんよね。これは通販コピーではありませんが、いわゆる「広告人」が書くコピーの典型で、似たような文章をネット通販やカタログでもよく見かけます。
広告人は、商品を見ると、ついホメようとします。ホメれば売れる、ホメて当り前、ホメないと不安…というふうに発想が慢性化しています。一方の消費者たちは、広告だからある程度のマユツバは仕方ないと割り切っていて、そもそも書いてあることの半分は信用していない。そのくらい、広告の送り手と受け手のコミュニケーションには大きなギャップがあるのです。
僕の場合、通販の商品コピーを書くとき、コピーライターではなくルポライターになったつもりで仕事を進めます。すると、何が変わるか?
たとえば 、
- コピーライターは、「インパクト」を追い求める。
- ルポライターは、「真実」を追い求める。
- コピーライターは、「資料」で情報を集める。
- ルポライターは、「取材」で情報を集める。
- コピーライターは、デメリットを「書きたくない」
- ルポライターは、デメリットも「書く」
という具合に、文章責任に対する意識が変わって、売る側として何を伝えたいか?より、読む側が知りたいことは何だろう?と考えるようになるのです。デスクワークも減ります。コトバを駆使してあれこれ文章を捻くり出すような作業より、実際に商品をいじったり、競合品を調べに量販店へ行ったりする時間が増えます。メーカーのパンフレットには一応目を通しますが、根拠の薄い自画自賛が多いのであまりアテにしません。気になることは電話で聞くか直接訪問して確かめます。商品の性能や使い勝手に対する疑問を一つずつ潰していく。説得するのはまず自分自身! そんなイメージです。
今日の消費者を説得するには、客観的な事実の積み重ねが必要です。なのにコピーライターたちは、コトバを巧みに操ることで読み手を丸め込もうとするクセが直らず、いつしか自らのコトバが信用されていないことにも気づかないほど感覚が麻痺してしまったのです。広告が失った「信頼」を勝ち取るために、とくに商品を伝えるコピーライターは、一度、広告人としての衣を脱ぎ捨てて書いてみることをお薦めします。きっと糸井さんも企画書を綴る時は広告人とは別の人格で書いていたと思います。
事実を追求しながら、疑問を解消して、よし、これなら自分でも納得できる!と感じられるコピーができたら、ぜひ第三者にも読んでもらいましょう。「うん、よく調べて書いてあるね。これなら信用できるよ!」。そして、続けてこう言われるかもしれません。「でもさぁ、この文章、ぜんぜん面白くないよね!!!」
笑わそうとして書いているわけではないから仕方ありませんが、正しいだけの「つまらない文章」に人はけっして動かされません。最終的には商品を買ってもらうのが目的なのに…さて、どうしましょう? 続きは次回!
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