「宣伝会議」「100万社のマーケティング」編集長 谷口 優
マーケティングの本質をテクノロジーで実現
テクノロジー偏重に陥りがちなところもあった近年のマーケティングのデジタルシフトの議論に、変化の兆しを感じる。勘から脱却して、データ基点のマーケティングを目指す企業は増えているが、そもそもデータを介して理解しようとしていたのは消費者の気持ち。今年はコミュニケーションの原点に立ち返り、ブランドの志を伝え、マーケティングの本質を実現するためのテクノロジー活用の議論が起きてくると予測する。
人の感情を可視化する
この潮流の中で注目されるキーワードは3つある。1つが科学の力で「人の気持ちを可視化」する取り組みだ。コモディティ化への対応で、ブランドに対する共感を重視する企業が増えているが、共感や熱狂などは数値化が困難な価値であった。人の感情をいかに可視化し、広告やメディアの効果検証、効果予測に生かせるかに関心が集まりそうだ。
2つ目のキーワードが「UX(ユーザーエクスペリエンス)」。これまでも重視されてきたが製造業においてもモノ+コトの体験価値づくりが志向され、またオンラインとオフラインがシームレスにつながるオムニチャネル対応が必要とされている今、ますます重要なブランドの競争軸になっていく。最近、話題のフィンテックも、多様な業種で消費者の体験・コミュニケーション設計に取り込まれる可能性が高く、UXデザインの重要性を理解し、どこまで注力できるかが、競争力を左右するようになる。
ダイバーシティに向き合う
3つ目の注目が「ダイバーシティ」で、真に「消費者の多様性」にどこまで向き合えるかが問われるようになる。欧米企業がマーケティングオートメーションツールを駆使したパーソナライゼーションで日本に先行する理由には、デジタルに対する意識だけでなく市場のダイバーシティに対する理解の深さも背景にはある。日本でも今年は効果・効率の向上の議論だけでなく、ダイバーシティという視点からワントゥワンを目指す動きが出始めてくると予測する。
一方で、コミュニケーションの最前線で一人ひとりに寄り添う、顧客起点の理念が技術によって実現できるようになったからこそ、今年は「ブランドとしての意志」の有無が問われる1年になるだろう。テクノロジーで実現するカスタマーエクスペリエンスだけでは、最終的に“体験”自体がコモディティ化してしまう。
2016年、デジタル時代のマーケは次なるステージへ……。小手先の技術、戦略以前に自社が社会において、どう役立ちたいと思っているのか。ブランドとしての意志あってのマーケという認識が広がると予測する。
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