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自治体PRはなぜコモディティ化するのか——さあ、PCを捨てて、地方に出よう。

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ゆるキャラ、自虐、面白動画……広報・PRに限ったことではないが、自治体の取り組みは概して“横並び ”になってしまいがちだ。クリエイティブのコモディティ化を脱し、各地域の特徴・魅力を効果的に伝えるための表現は、どうすれば生み出せるのか。

寄稿者

日下慶太
電通 コピーライター・写真家・セルフ祭顧問

電通でコピーライターとして勤務する傍ら、写真家、大阪一のアホ祭りセルフ祭の顧問としても活動中。「商店街ポスター展」 を仕掛け、佐治敬三賞を受賞。ツッコミたくなる風景ばかりを集めた「隙ある風景」 日々更新中。


 

個人の物語、あるいは、エスノクリエイティブ

今、自治体動画が面白い。広告業界のCMプランナーがバキバキ活躍している。確かにそればすばらしい。小林市などたまらない。しかしながら、私も自治体の仕事をしているが、そのムーブメントからは少し距離を置いている。なぜかというと、面白いものをつくったとしても、他のものに埋没してしまうからである(他よりも面白いものをつくれないのではないかという不安も往々にしてあるのだが)。

この動画をはじめ、ゆるキャラ、B級グルメなど、自治体の施策はどうして横並びするのか。それは、次の3点の理由が考えられる。

(1)成功事例を真似るほうが説明を他者にしやすく予算を獲得しやすいこと(市や県議会に予算を通したり、国の補助金・交付金申請をしやすい)。

(2)視察カルチャーの存在。自治体、町おこしに携わる人は視察が大好き。視察に行って、それをそのまま取り入れる。

(3)自治体の世界には、アイデアを “パクる”ことにためらいがないこと。

他のところがこれをやっているのだから、俺たちは違うことをしようという発想の人はあまりいない。正直、私が発案した「商店街ポスター展」(シャッター商店街活性化を目的とした施策。大阪の新世界市場に始まり、文の里商店街、伊丹西台、宮城県女川へと広がっていった)も、無許可でかなりパクられた。自分たちもやりたい、と相談されたことも何度かあるが、その当人に「アイデアをパクっている」という意識はない。そのデリカシーのなさには唖然としながらも、これによって地域が元気になるならば良いかと思う自分もいて、いつも複雑な気持ちになる。

商店街ポスター展が各地で人気を呼ぶのはなぜだろうかと、自分なりに考えて
みたことがある。

  • お金がかからなさそう(実際はそれなりにかかるのだが)
  • 誰でもつくれそう(実は結構手が混んでいる)
  • お店さえあればどんな地域でもできる
  • 自由なものをつくって、かつ、地域に貢献できるということがつくり手の意欲をそそる
  • 地域の人が主人公となる

商店街ポスター展を何度か開催しているが、毎回、濃い個性が出る。それはタレントではない、ごく普通のおっさんが主役となるからである。とある一人の商店主に何度も取材を重ねて、そこからにじみ出た物語や人柄を一枚のポスターにしている。個人の物語の集積が商店街ポスター展なのである。私が携わった限りのポスター展でいうと、大阪市浪速区、阿倍野区、兵庫県伊丹市、宮城県女川町、福井県大野市と、それぞれしっかりと個性が出た。浪速区と阿倍野区は距離にして2キロほどしか離れていないが、やっぱりどこか違うのである。

会社の、ある頭脳明晰な先輩は「ポスター展はエスノクリエイティブだね」と評した。文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法のことを「エスノグラフィー」と言い、近頃はマーケティングでも有効な調査手法として注目されている。我々は図らずも商店街をフィールドワークし、エスノグラフィー的手法でもってポスターというものをクリエイティブしたのだった。市や県というマクロから発想するのとは違う、制作の結果がここには出る。

もう1点、残るということ。これがとても大事だと思っている。新世界市場のポスターは、制作から4年が経つというのに未だ店頭で掲出され、道行く人が足を止める。せっかくお金をかけてつくるのだから、残るほうがいい。イベントをしたり、タレントを起用したり、パッと大きな花火を上げるのもいい。ただ、私は、花火のあとの寂しい町をたくさん見てきたので、極力残るものをつくろうと心がけている。

今あふれる動画も、残るものとその場で消費されるものとに分かれるだろう。その地方の本質をきちんとさらい上げて映像に昇華したものは残り、何度も再生され、きっと市民を勇気づけていくことだろう。

フィールドワークの果てにみえるもの

かくいう私も、実は動画をつくったばかりである。福井県大野市の地方創生のプロジェクトを請け負っている。大野市は人口3万人ほどの盆地。そこでの問題は人口の流出だ。大学がないのもあって、30代が4割流出しており、最終的には自治体がなくなってしまうかもしれない。

その課題を何とかしようという施策の一つが「大野へかえろう 楽曲プロジェクト」だ。「大野へかえろう」というオリジナルソングを制作し、それを高校の卒業式で父兄にサプライズで歌ってもらったのだ。そのプロジェクトのドキュメンタリームービーを制作した。ただ、私は映像をつくりたかったのではない。歌をつくりたかったのだ。ずっと残るような。私は、大野のたくさんの人にエスノグラフィー的に取材を重ね最後に歌詞にまとめた。ぜひ見てほしい。

自治体のさまざまな案件を手がけて思うこと。それは、フィールドワークがとても大切だということ。企画よりも、調査やヒアリングに時間をかけたほうがいい。フィールドワークの果てに、自ずと企画が見えてくる。一度や二度、現地に足を運んで、オフィスの中でパワーポイントをいじくり回していてはダメなのである。さあ、PCを捨てて、地方に出よう。

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地方創生が重要政策に掲げられ、その取り組みの一環で、各自治体の広報・広告活動も活発化しています。一方で自治体のPR活動は、話題になったものがあるものの、“右へならえ”の手法・表現も目立ち、差別化が難しい状況があります。どうしたら、他の地域にはない魅力をPRできるのか……ライバルひしめく“戦国時代”にあって、成功している自治体のケースには、コモディティ化に悩む企業の広告・宣伝のヒントもあります。お楽しみに!