今、ネット広告の世界に足りないこと——消費者の「動機づけ」になる提案をデジタルで実現するには?横山隆治氏×山本直人氏【後編】

今、ネット広告の世界に足りないこと——消費者の「動機づけ」になる提案をデジタルで実現するには?横山隆治氏×山本直人氏【前編】はこちら

ネット広告の登場以降、効率を求めるあまり、刈り取り型の施策に終始しすぎではないか。本来マーケティングには刈り取るだけでなく、潜在ニーズを顕在化する提案が必要、そんな観点から、ネット広告、デジタルメディアの活用可能性を4月に著書「テレビCMを科学する」を刊行する横山隆治氏と広告・マーケターの人材育成に精通する山本直人氏が議論する。

検索ワードだけでは文脈まで理解できない

山本:動機づけって、かつての広告制作では「生活提案」という言葉で実践されていましたよね。この生活提案は、百貨店の広告が元気だった80年代ぐらいには盛んに行われていたと思います。

横山:そうですね。

山本直人氏

山本:それがバブルの崩壊後、生活提案の背後にある構造が消費者に見透かされてしまった。ただ、僕は今の状況では企業も商品の提案性を、もう少し信じてもいいのではないかという気がします。ブランド管理がしっかりしすぎて、そこからはみ出してはいけないと思い込んでいる人が多すぎるという印象を持っています。タグラインかは変えられないと思いますが、文脈に合わせてメッセージをもっと柔軟に作り替えてみても良いと思いますし、トライアルしたほうが良いですよ。これはマス広告ではできないことです。

横山:今の状況はプロダクトマネージャー制、ブランドマネージャー制の弊害のでもありますよね。

山本:僕もそう思います。弊害というか限界かな。

横山:そうですね。限界と言った方がいいかな。

山本:ブランドマネージャー制が浸透し始めたのは、2000年頃ですよね。あの当時は、ネットがメディアの中心にはなかったので、マス広告で一つのイメージを頭の中に記憶させることが可能だったからこそ成立しえた、マス発想の名残りがどこかにある。

横山:人口減少社会で新規開拓が難しく、既存顧客のライフタイムバリューの向上が重視される時代。商品単位、ブランド単位のサイロ型マーケティングには限界がありますよね。

ユーザーの文脈に合わせてコミュニケーションする

山本:思いつきの話ですが、検索した時にネット広告が問い直したらどうなるのかな?と思うんです。例えば、「箱根」と検索している人に対して、「本当に箱根で良いの?」と言ってみたり、「ゴールデンウイーク 旅行」で検索した人に、「どこも混んでいますが、旅行でいいの?」という広告が出るとか。

横山隆治氏

横山:バナー広告の自動生成の技術もあるので、こういう文脈に対してはこういう言葉で返すといったプログラミングをすれば、実現可能と思いますよ。テレビCMは、最大公約数的に受けるメッセージを開発すればよかったわけですが、オンラインの世界ではユーザーの文脈を理解して、その文脈に適したメッセージを出し分けることも可能ですよね。それなのに、結局は一つのメッセージを最も、効きそうな人を見つけてきて配信するという方向にばかり行っている気がします。

ユーザーの文脈を理解して、上手にコミュニケーションを返してあげる。検索行動に対して何を投げ返すか。もっとダイナミックにいろいろ変化させられる方が効果も高いですよね。

山本:ネットの世界では、その人の検索行動を文脈と呼んでいるわけですよね。その人が何に関心を持っているかは文脈ではあるけれど、検索する言葉も状況によって意味が変わってきます。一番わかりやすいのは「バカだね」と言って怒られる時と、許される時があるって話なのだけれど。検索した「言葉」だけを見ていても、その背後にある真の意味での文脈までは理解できていないのではないか、と。

横山:今は単純に検索キーワードに対して、広告を出しているだけなので、1対1の話題性しか成立していませんよね。ユーザーの文脈を理解し、そしてコミュニケーション上の文脈をどのように設計していくかは、課題になっていると思います。デジタルの中でも、改めて消費者の動機づけを考えるべきだし、そこでパブリッシャーも自分たちの役割を再度見つけることができるのではないでしょうか。

山本:ただ、以前のように編集者の勘と気合で提案してもダメですよね。年間ローテーションでトレンドを発信しているだけだって、消費者が見透かしてしまっていますから。

横山:データを見ることが大事になりますが、パブリッシャーの人たちは単純に記事のアクセス数を参考にし、「データばかり見ていると記事がゴシップとアダルトネタばかりになるじゃないか」という反論を受ける。

山本:最初の提案は、パブリッシャーの勘に基づくものでもいいわけですよね。入り口はそれであっても、出した後に検証して、そこでデータを活用しようという話で。今は勘で提案をする人と、検証する人が違うところにいる感じがします。

横山:ネット広告は、刈り取りの目的にばかり使われますが、調査を兼ねた活用可能性もあるわけです。大海原にソナーを落として、魚群を発見するようなことも可能。広告に反応した人がターゲットになるわけで、潜在層が何に反応するか、調べるためのマーケティングツールでもあるなと思うのです。マーケティングって、そもそも潜在層にいる新しいターゲットを見つけ出すと作業が重要ですよね。パブリッシャーも同様で、どんなターゲットがどんなテーマだと動機づけになるのか、検証を行うべき。この辺に、もう一回パブリッシャーがデジタルに対応して新しい価値を生み出すヒントがあると思います。

マーケティング/人材育成プランナー 山本直人氏

青山学院大学経営学部マーケティング学科兼任講師(マーケティング・プロフェッショナル実践Ⅰ・Ⅱ)。1986年慶應義塾大学法学部卒業。同年博報堂入社。制作局コピーライター、研究開発局主席研究員(兼)ブランドコンサルティングコンサルタントを経て人事局人材開発担当ディレクター。2004年8月独立。独立後は、マーケティングスキル、営業能力開発、スキル開発、若年層モチベーション向上等を中心とした人材育成コンサルティング/トレーニング、および商品開発、ブランディング、経営理念開発を中心としたコンサルティング/ファシリテーションを行う。

デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年、旭通信社入社。1996年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを起案設立、代表取締役副社長に就任。2001年同社上場。2008年ADKインタラクティブ設立。同社代表取締役社長に就任。2011年デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。ネット広告黎明期からビジネスの実践とデジタルマーケティングの理論化・体系化に取り組む。
著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)
『新世代デジタルマーケティング ネットと全チャネルをつなぐ統合型データ活用のすすめ』(インプレス)などがある。

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