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コラム

『編集会議』の裏側

“編集者不在”のメディア・プラットフォームの行方

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『編集会議』2016年春号では、「コンテンツ×ビジネス」を特集。ブログやSNSといった個人メディアなどに加え、近年ではプラットフォーム「note」などを通じたコンテンツごとの課金モデル、また「Yahoo!ニュース個人」という新たな勢力の台頭が既存メディアを侵食するかもしれないという予測もある。個人が“書く場”は確実に広がっている一方、“編集”を経ないコンテンツが増加している。その是非とは。ジャーナリストの治部れんげ氏が解説する。

新たに広がる“編集者不在”のメディア・プラットフォーム

編集者が存在しないWeb上の「メディア・プラットフォーム」が注目を集めています。原稿や制作物を寄せるのは、無名の人から著名作家まで多様です。すでに売れている著者までが、メディア・プラットフォームを通じて、記事や小説、エッセイなどを発表し、直接読者・ファンとつながるようになっています。

それに伴い、中抜きされる形になる出版社、編集者の間では、不安や危機感が芽生え始めているようです。「Yahoo!ニュース個人」と「note」という2つのメディア・プラットフォームを例に挙げつつ、機会と課題について考えてみましょう。

文章、写真、イラスト、音楽、映像などを手軽に投稿できるクリエイターと読者をつなぐサービスとして、2016年初頭から活況を呈している「note」。

Yahoo!ニュース個人は「オーサー」と呼ばれる書き手が、原稿の長さ・掲載する時期を問わず、自由に投稿できます。写真や見出し、小見出しといった本来、編集者が担当することの多かったことも、書き手である自分自身でつけます。そして記事は“編集”されることなく、好きなタイミングで公開できます。つまり、運営形式はブログと同様です。ブログと異なるのは、オーサーになるためには、Yahoo!社内の審査があることで、ここにスクリーニング機能が働いています。

本稿を執筆している2月22日時点で、Yahoo!ニュース個人では、「国内」「国際」「経済」「エンタメ」「スポーツ」「IT・科学」「ライフ」の7カテゴリーの記事が公開されています。「ニュース」と銘打っているように、報道、ジャーナリズム、ノンフィクション志向のメディア・プラットフォームとも言えます。筆者も「次世代中心主義」をテーマに枠を持ち、月1本ペースで、子どもやジェンダーに関する記事を書いてきました。

noteはクリエイター向けのプラットフォームです。Yahoo!ニュース個人との共通点は編集者がいないこと。クリエイター向けとは言えど、どんな人でも、記事や制作物を自由に投稿できます。「マンガ」「コラム」「小説」「写真」「音楽」の5カテゴリーを扱っています。

2つのメディア・プラットフォームに共通する“編集者不在”には、メリットとデメリットがあり、ともに短期的なものと長期的なものに分けられます。順に見ていきましょう。

編集者がいないことによる短期的なメリットは、著者や制作者の経済的リターンが増えることです。原稿料などの決まった報酬を得ることは基本的にはできませんが、印税の10%と比べると筆者への還元率が遥かに高く設定されています。読者からの支持(PV、販売数)は直接、経済的に筆者の報酬につながります。

たとえば、Yahoo!ニュース個人は、広告売上を記事のPVに応じて配分する方式をとっており、筆者が投稿した100万単位のPVのある記事から得られた報酬は、10万円単位に上っています。出張を伴う取材・執筆に費やした時間と労力を回収できる金額と言えます。

2015年12月に、Yahoo!ニュース個人は、オーサーへの還元率を上げることを含む、新しい施策を打ち出しました。これにより、編集者のいるWebメディアより、魅力的な報酬を提示できるようになっています。私の周囲にも、この施策を受けて「Yahoo!で書きたい」と希望するプロの書き手が複数、出てきました。いずれも単著を持つベテランです。

このような人材の移動が起きる背景には、既存のメディアが提示する原稿料が、紙・Webともに、書き手から見て低すぎる現状があります。原稿料相場はメディアにより異なりますが、数千文字の原稿に対して2万円前後という設定が多いようです。もちろん案件にもよりますがこの金額では、手間のかかる取材をして執筆し、家計を支える収入を得るには難しいと感じます。ちなみに、筆者も収入源は執筆・講演・コンサルティングに分散しています。

経済的な魅力は、noteにもあてはまります。The Startup代表取締役の梅木雄平氏が、2月13日付の自身のサイトでnoteでの売上を公開しています。これによると、3000円の本を414冊売って124.2万円となっています。

梅木氏のコンテンツは、スタートアップ企業の資金調達に関する分析、しかも投資先としての有望度合いを格付けするなど、専門性が高いのが特徴で、他のコンテンツと同列に論じることはできません。ただ、読者がお金を払う価値がある、と認めるコンテンツをつくれる人には、売上が丸ごと手元に入る構造がよくわかります。

このように、“編集されない”メディア・プラットフォームを活用することで、売れる=よく読まれるコンテンツをつくった際には、その成果がもたらす経済的なリターンを、編集者や出版社に中抜きされずに、手にすることができます。

長期的なメリットも、経済的なインセンティブで説明がつきます。“編集されない”メディア・プラットフォームは、稼げそうに見えるので、若いクリエイターや作家・ジャーナリスト志望者を多く集めるでしょう。その中から、次のスターが生まれる可能性があります。

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