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カンヌのグランプリも狙っていた — ジェラートの国でも反響「ガリガリ君」値上げ動画の裏側

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3月に一斉に報じられた、「ガリガリ君、25年ぶりに値上げ。60円から70円へ」—。価格改定など一連の報道件数は300媒体を超え、米国やアジア、ヨーロッパにも広がっている。月刊『広報会議』9月号では、この「値上げ」報道とお詫び動画について総括。PRにおけるクリエイティブの役割について考えている。

赤城乳業は3月11日に25年ぶりとなる価格改定を発表し、4月からアイス菓子「ガリガリ君」の価格を60円から70円に値上げした。4月1日には日経新聞に全面広告と60秒のテレビCMを出稿、会長・社長をはじめ社員が神妙な面持ちで頭を下げ、消費者に対するお詫びの気持ちを示した。

この動画はネット上で一気に広がり、YouTubeの再生回数は累計230万回に(現在は非公開)。反響を受けメディアからの取材も殺到し、6月下旬までの報道件数は価格改定について142媒体、値上げCMは177媒体にのぼる(ともにのべ媒体数)。

ジェラートの国・イタリアで反響

「2月から5月末にかけてYahoo!ニュースのトップに5回登場し、5月にはニューヨーク・タイムズの特派員の取材を受け一面に掲載されたほど。このほかイタリアやブラジル、アジア諸国のメディアでも報じられました」と営業本部マーケティング部長の萩原史雄氏は一連の反響を振り返る。

海外メディアからの評価は、良い意味で想定外だった。「最も注目を集めたのは、ジェラートの国であるイタリア。イタリアの企業はアイスの価格が数倍になっても一切謝罪しないのに、日本は素晴らしい!と書かれていました。ブラジルの媒体では(赤城乳業の社長の)井上創太を、ブラジルの大統領に!という声まで。タイや中国では『これぞ日本品質!』といった称賛の声をいただきました」。

メーカーによる「値上げ」はネガティブに捉えられがちだが、国内でも好意的な論調が大半だった。萩原氏は「批判的な報道を覚悟していた。今期の販売本数は93%程度まで落ちるだろう、という予測もあったほど」と打ち明ける。「だからこそ危機感を持ち、この10年で積み上げてきた『ガリガリ君』のPR活動の集大成を!という気持ちで臨みましたね。25年に1回しかない『値上げ』というニュースバリューとともに、基幹フレーバーである『ソーダ味』をPRする絶好の機会にしたいという思いもありました」。

消費者が物語をつくり上げた

ガリガリ君の年間売上のピークは2013年の4億7000万本で、2015年は4億1000万本。ここ数年は「コーンポタージュ」「ナポリタン」など意表を突いたフレーバー展開で話題を生み出してきたが、2016年は「ソーダ味を徹底的に売っていく」と決めていた。「よって今回は取材依頼があったメディアはひとつ残らず受けました。結果的にテレビは全局で取り上げられています」。その結果、4月の売上本数は10%増に。さらに「10%増を記録した」という事実も積極的に発信し、ビジネス媒体で報じられている。

値上げに関する報道と同時期に、赤城乳業ではもうひとつ大きな節目を迎えている。4月1日、「ガリガリ君の生みの親」である2代目の社長から、3代目へトップが交代したのだ。まさに企業の変革期の渦中に公開した動画だったが、萩原氏は「流した瞬間に世界が変わった」と評する。 

「25年間値上げをせずに耐えてきた、というストーリーを消費者の皆さんが自然発生的に語ってくれた。さらにその様子をメディアが次々と報じるという流れが生まれて、社内は一斉に安堵したと思います。制作していた当初は『ここまで頭を下げる必要はない。こんなCMを流したらお叱りの声が殺到するのでは』という懸念の声もありましたし、公開するまでは正直、不安の方が大きかったですから」。

思い切ったクリエイティブ表現であるだけに、社内で話が流れそうになったこともある。「ガリガリ君」のプロモーション費は売上の2%以下としており、予算上の制約もあった。そこで萩原氏は粘り「本当に実施すべきと思うのはどの案ですか?」と井上秀樹会長に尋ねた。最終的に、会長が指差したのがこの企画だったのだ。

 動画が撮影されたのは3月16日。値上げに関する報道が出た直後で、経営陣をはじめ社員は世の中の反応に対して不安を抱いていた。「誰もが真剣な表情で、自然と神妙な空気が流れました。あの日だからこそ、出せたリアルな表情だと思います」。

「70円で売らなければ失礼だ」

もうひとつ、予想していなかった嬉しい反響があった。CMを見たある小売チェーンのトップが「ガリガリ君を70円で売らなければ失礼だろう」と受け入れてくれたことだ。「通常、小売店はメーカーの価格改定に対して売価を上げないように粘るもの。一連の報道で値上げの背景を知ってくれたんだなと。これは感動しましたね」。

ただひとつだけ残念に思っていることがある。それは、6月に開催された世界最大の広告賞「カンヌライオンズ」のフィルム部門にこの動画を出品したものの、受賞に届かなかったこと。「普段は長尺のCMを制作しないので、カンヌは初のチャレンジ。価格に対する感覚はグローバルでは理解されにくいのかもしれない。もしもグランプリを獲っていたら、PRのストーリーとしては完璧でしたね (笑)」。

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