NewsPicks佐々木紀彦に聞く「5年後、メディアは稼げているか」

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メディア業界で話題を呼んだ『5年後、メディアは稼げるか――MONETIZE OR DIE?』が刊行されたのは2013年。2018年に、その「5年後」を迎える。同書執筆後、「東洋経済オンライン」から「NewsPicks」へと活躍の場を移した佐々木紀彦氏は、“メディアが稼ぐ”ために、この5年でどのような解を見出したのか。

有料メディアでなければ未来はない

—2013年に発売した『5年後、メディアは稼げるか』を執筆してから、2018年で5年が経ちます。まさに「5年後」の年ですね。

この本を出した2013年は、「東洋経済オンライン」の編集長になってから8カ月しか経っていないときだったんですよね。いま思うと、8カ月でよくこんなに偉そうな本を書いたなと(笑)。

—佐々木さんが2012年に編集長に就任した「東洋経済オンライン」は当時、一気に月間5000万PVまで数字を伸ばし、急成長を遂げました。今回は『5年後、メディアは稼げるか』の「5年後」を迎える2018年に向け、その検証の意も込めて伺いたいのですが、とくにネットメディアのマネタイズは5年前当時も、現在においても課題になっています。同書を執筆後、佐々木さんは「NewsPicks」に移りましたが、“メディアが稼ぐ”ために、この5年でどのような解を見つけられましたか。

まず、この本は無料のメディアの編集長をやっていたときに考えていたことを書いたんですね。本の中でも、「有料化のための3つの条件」や「有料化に成功する日本のメディアは?」などで、今後メディアにとって有料化が大事になってくると書いていますが、当時は有料メディアについてはなんの経験もなかったこともあって、予想だけで終わってしまっています。

この本を書いて以降、私が「NewsPicks」での過去3年で挑戦したのは有料のメディアをどうつくるのかということで、それまでの挑戦とはまったく違うものでした。その経験を通じて確信できたのは、「これからのメディアは有料でなければ未来はない」ということです。無料のメディアを否定するわけではありませんが、今後メディアが稼ぐには、できるだけたくさんの人に読んでもらってネイティブ広告を収益軸にするモデルか、有料での課金を軸にするモデルかだと思うんです。そして私は後者のモデルに力を入れていくということです。

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メディアの有料化へのシフトは、日本に限らず欧米のほうが顕著です。アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」、イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」など、名門と言われるメディアの多くは有料化に成功している。さらにアメリカの「ザ・インフォメーション」やオランダ発の「デ・コレスポンデント」などのスタートアップメディアも、有料課金をモデルにして読者を集めています。

伝統メディアであれ新興メディアであれ、質の高いコンテンツを提供して有料読者を獲得するということが、戦略の中心になっているんです。なので、この5年での最も大きな変化であり、かつ私が確信しているのは、ネットメディアも無料から有料の時代にシフトしていくということに尽きますね。

コンテンツよりもシステムが問題

—同書を執筆された5年前は、有料のネットメディアはあまりなく、読者もネット上のコンテンツに対してお金を払うという認識は希薄だったように思います。この5年間で、読者の認識は大きく変化したと感じますか。

少しずつ変化していると思いますし、それを加速させているのがフェイクニュースの問題です。よく食べ物に例えるんですが、読者はこれまで誰がつくったのかわからない色々な添加物が混ざっているジャンクフードなども、とにかく無料だからと食べていた。それが最近は健康志向が強まり、「どんな成分が入っているのか」「誰がつくっているのか」を気にするようになりましたよね。

つまり、無料のネット空間には、おかしなジャンクニュースやフェイクニュースなどが紛れていることがわかり、ニュースを配信しているメディアや記事の書き手に興味を持つ人が出てきました。情報リテラシーの高い読者が増え、お金を出さないと良質な情報が得られにくいことに気づき始めている。ここ5年でそうした意識が徐々に浸透し、とくにこの1年で実際に有料化へのシフトが加速しているのではないかと思います。

—ただ、ネットメディアの有料化が世の中により広く浸透していくには、「NewsPicks」の読者のように比較的情報感度が高い人だけでなく、より大多数の読者の間で認識の変化が起こる必要がありますよね。そうでない限り、メディア全体での有料化へのシフトも難しいように思います。

そのためにはまず、お金を払いやすくする仕組みづくりが大事なのかなと思います。現在は読者から見ても課金しづらいケースが少なくないし、コンテンツ提供側からしても、例えばアプリ内課金での課金売上に対して、3割の手数料をAppleやGoogleに持って行かれてしまう現状がある。気軽に少額決済できるためのインフラやシステムが整っていないということが、大きいのかなと思います。

その点では、近年中国が先行しています。中国では、少額の投げ銭システムが機能していて、記事に対して10円という少額でも課金できる。一人たった10円の課金でも、システムが普及している分、1万人が課金すれば10万円になります。それがエンタメコンテンツだけでなく、報道コンテンツのような堅いものでも機能すればいい。日本でも、読者にとって手軽にお金を払うことができ、かつ払うこと自体が楽しいようなシステムをつくれたら、よりお金が回るんじゃないかなと思います。

これまでなぜ日本で本が売れ続けてきたかと言えば、書店という「売り場」をはじめ、買う側がお金を払いやすい流通のシステムをつくったからです。日本は世界に冠たる本屋大国であり、コンビニでも本を買うことができます。だからこそ、出版業界はこれまで稼げた。それと同じように、いまネット上で必要なのは良いコンテンツをつくるだけではなく、届けて売るためのシステムを構想するプレイヤーが出てくることだと思います。そのシステムをうまくつくれるか否かで、メディアの有料化へのシフトのスピードは大きく変わってくるはずです。

メディアを有料化する5つの法則

「NewsPicks」編集長 佐々木紀彦
1979年福岡県生まれ。大学卒業後、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当し、2012年11月に「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年7月から現職。著書に『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0 2020年の人生戦略』など。

—ネット上で有料メディアを運営していく上では、読者が課金する瞬間をどう捉えるか、同時に継続して課金され続けるにはどうすればいいかが課題だと思います。佐々木さんは最近のインタビューや講演などで、メディアの有料化について次の5つの法則を挙げていますね。

そうですね。①特集化は、いくつかの記事を一つのシリーズにしてパッケージ化することです。記事単体としてではなく、連続性があったほうが課金する動機が生まれやすいですからね。②人物は、ネットにおいては「誰の発言か」「誰の記事か」といったことが重要だという背景があります。③デザインは、1分解説・3分解説やインフォグラフィックなど。読者は忙しいなかで記事を読むので、短時間で読めて理解を促進するデザインの付加価値はどんどん上がっています。

また「NewsPicks」が経済メディアということもあって、④分析の記事はテーマが堅くても読まれますね。⑤スクープにはさまざまなものがありますが、我々が狙っているのは、これまで世の中に出ていなかったファクトを深掘りするものや新たな切り口を提示するもの。その点、やっぱり『週刊文春』や『週刊新潮』はすごいですよ。世論をつくっていますからね。

それらの法則について、「NewsPicks」では例えば「百貨店・アパレルの未来」という特集があります。流通アナリストの山手剛人氏とファッション雑誌編集者の軍地彩弓氏という百貨店やアパレル業界に精通するお二人の対談を記事にしたものですが、対談内容をただ文字に起こすのではなく、なぜ百貨店が衰退したのかについて、新しい視点を盛り込みながら、グラフや表などを使ってわかりやすくビジュアル化しています。

私がよく言うのは「世界最先端をどこよりもわかりやすく」ということです。池上彰さんはそれで成功しましたよね。最先端で難解な事柄を難しい言葉のまま説明することは多くの人でもできますが、メディアとして情報を伝える上では、語彙やデザインを駆使しながら「読みやすさ」「わかりやすさ」を追求していくことが大事なんじゃないかと思います。

いずれにしても、まずは良いコンテンツをつくり、課金してもらうのが基本です。やはり課金をするきっかけになるのも、特定のコンテンツを読むためという動線がほとんどですからね。

……「ネットメディアのマネタイズの難しさ」「読者とのエンゲージメントを強化・深化させる取り組み」「NewsPicksのプロデュース力」「5年前の予見で想定外だったこと」「NewsPicksのメディア人材の獲得戦略と評価」「次の5年後、メディアは稼げるか」など、本記事の全文(1万字インタビュー記事)は『編集会議』最新号をご覧ください。

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