中川淳一郎が語る「誤植はつらいよ」

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広告会社を経て、ネットニュース編集者になり、多数の著作も持つ中川淳一郎氏。常に誤植と隣り合わせの仕事をこなしてきたからこそ語れる誤植エピソードを語ってもらった。

ネット情報での校正は誤植のもと

雑誌・広告・書籍関係の業界人であれば、誤植といえば大抵の場合、後に笑い話になりがちなものである。医師の処方箋指示が汚すぎ、正確な処方箋を出せずに健康被害が出たり、発注量を一桁間違えた結果、会社が潰れてしまったり、というシビアな話はあまりない。

この業界、長ければ数々の誤植はあるが、私の場合、雑誌『TVBros.(テレビブロス)』編集者時代に誤植は時々やらかしていた。何しろ自分で4~6ページ、時に12ページの特集原稿を書き、自分で編集をし、自分で校正をしていたのである。編集長も見るには見るが、最後の最後、大日本印刷の出張校正室でおかしなところがないかを見る程度だったのだから。

2000年代前半、Wikipediaも含め、ネットは誤植だらけだったため、それを参考にすると芸能人の名前や年齢が誤植だらけになっていたのである。

最初はネット情報を信じて校正をしていたのだが、伊東美咲を伊藤美咲と間違えるのはザラで、水野美紀と水野真紀を間違えたりもしていた。モーニング娘。についても「。」を忘れてしまい、「。」なんて余計なものをつけるほうが悪いんだ、ボケ!と逆ギレする始末だった。そんな状況だったため「タレント名鑑を使え」と別の編集者から言われ、ネットでチェックすることはやめた。

『テレビブロス』時代の誤植騒動

雑誌の特集の場合、多数の写真とキャプションを組み合わせることが多いだけに、混乱してしまうことが多い。デザイナーに対して「ラフ」と呼ばれる指示書を出し、それを基に写真とテキストを配置してもらうのだが、そもそも自分が間違えることもあるし、デザイナーがこんがらがってしまうこともある。

「101匹宇宙人大行進」という特集をつくった時は大混乱だった。1950年代から2000年代まで、映画、テレビ番組、アニメ、漫画に登場した宇宙人を紹介したのだが、「アピョーン星人ってこいつか?」「デスラー総統はこれだっけ?」などと若いデザイナーには宇宙人の区別がつかない。

数が多過ぎるものだから結局、編集者も編集長も「まぁ、合ってるだろう」と言いつつも、心の中では「合ってるといいな!」「頼むから合っててね!」と希望的観測から祈っていたのである。

幸いなことにこの特集では誤植はなかったが、一度青ざめたことがある。「カエル特集」をつくったのだが、その中で「善玉ガエル・悪玉ガエル」というコーナーをつくった。そこで、大鵬薬品の液体胃薬「ソルマック」のCMに『ど根性ガエル』が使われていたため、広告代理店に写真をもらった。

しかし、「ソルマック」が私の頭の中ではいつしか栄養ドリンクの「チオビタ・ドリンク」に変わっていたのである。「グイッ」と茶色い瓶の飲料を飲むシーンがシンクロし、完全に「『ど根性ガエル』がCMキャラを務めるチオビタ・ドリンク」になってしまったのだ。

雑誌が出たところで、広告代理店から電話が来た。

「あぁ、中川さん、掲載ありがとうございました」
「どうも! いやぁ、この度はご協力ありがとうございました!」
「それで……。私たちはソルマックの話だと思っていたのですが、チオビタ・ドリンクの話だったのですか?」

――えっ?

ここで私は青ざめた。しかし、電話口の彼はこう続けた。「いや、これで液キャベとか、別の会社の液体胃薬だったら問題でしたが、チオビタ・ドリンクは大鵬薬品さんなので、まぁ、なんとかクライアントには上手に説明しておきますよ」

私は「すっ、すいません! ついつい大鵬薬品さんのCMが日々イメージに刷り込まれておりまして、ソルマックとチオビタ・ドリンクを混同してしまい、ミスってしまいました。本当にごめんなさい!」と電話をしながらペコペコしていた。

結局、広告代理店の彼が激怒しなかったため事なきを得たが、写真とキャプションを間違えると「もうおたくらは出禁だ!」と激怒する取材相手もいる。

ある時、広告関連の案件でとんでもない誤植をブロスの別の編集者がやらかした。もう印刷は終わっており、どうしようもない事態だったが、ここで印刷会社の営業がこう提案してきた。

「あのぉ、今回の件、確かにヤバいですが、クライアントにお渡しする分と、あとはクライアントの本社の近くのコンビニ分の30冊だけ、正しい表記のを刷って配本しましょうか?」

なんと、この営業担当は「誤植潰し」をしようと持ち掛けてくれたのだ! これで誤植がバレなかったら万々歳だが、地方にも同社の営業所が当然あり、そちらでバレるのは目に見えていたため、このオファーは丁重に断り、クライアントから大目玉をくらったのだった。

……「コメント欄のノーギャラ校正人たち」「一文字の間違いが生む悲劇」「真偽不明の誤植伝説」「実際に中川氏が見たとんでもない誤植」など、本記事の続きは『編集会議』最新号をご覧ください。

編集者/PRプランナー
中川淳一郎 氏

一橋大学商学部卒業後、博報堂に入社。コーポレートコミュニケーション局に配属され、企業のPR業務を担当。2001年に退社し、『日経エンタテインメント!』のライター、『テレビブロス』編集者を経て、2006年からネットニュースサイトの編集者に。著書に『電通と博報堂は何をしているのか(星海社新書)』など。

 

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