ポスト2020のコミュニケーション「何を」伝えるかが重要に
テレビCMをはじめとしたマスマーケティングが新規顧客の獲得に大きな効果を発揮していた20世紀。その背景には人口増加による市場拡大が前提としてあった。
しかし日本の人口は減少の一途を辿るようになり、従来型のマスマーケティングは限界を迎えつつあるのが21世紀だ。「ますます縮小していくポスト2020の市場において需要創造を図っていくためには、2つの大きな潮流を理解することが必要です」。こう語るのは、ブランディングを支援するビモクリ 代表取締役社長の平野淳氏だ。
ひとつ目は、消費者の意識が成熟化する中で消費者の心を動かすために、以前に増して「必然性」が求められるようになったことだ。機能価値による差別化が難しくなったいま、「なぜ、その商品を買う必要があるのか」「なぜ、その商品を売る必要があるのか」、すなわち、売り手側にも買い手側にも必然性が伴っていることが購買の意思決定において重要になってきている。
2つ目は、昨今のデジタルマーケティングの進化だ。Cookieなどのログデータから個々人のニーズを推測することで、One to Oneマーケティングも可能になってきている一方で、あくまで伝達のツールでしかないデジタルそのものに主眼が置かれすぎていると平野氏。
コミュニケーション戦略は①誰に、②何を、③どのように伝えるかを検討すべきであるが、デジタルによって①と③の環境が整ってきた今、これまで以上に、消費者の心を動かすために「何を」伝えるかが問われるようになったという。
プロダクトを超えた階層から構造化されたストーリーを設計
これまでブランディングと言えば、いかに商品・サービスの優位性を伝えるかといったように“プロダクト”が主語になることが多かった。
しかし平野氏は、消費者の心を動かすためにはプロダクトブランディング戦略を超えて、その上位階層である「コーポレートブランディング戦略」「カテゴリーマネジメント戦略」「需要創造戦略」の4つから、構造化されたストーリーを語っていくことが必要だと話す(図)。
つまり、根本的にブランドが解決しようとする「問題の重要性」、ブランドの属する「カテゴリーの優位性」、商品・サービスを提供する「コーポレートの信頼性」、機能面における「プロダクトの優位性」を一貫したストーリーに落とし込んでコミュニケーションを図ることで消費者の心を動かすことができる。
カードローンの例で言えば他社と比較した際のサービスの優位性を伝えるだけでは足りず、根本的に「借り方」そのものや銀行の顧客に対する考え方から伝えていく必要すらある。フェリー会社であれば旅そのものに対する考え方の変化を捉え、船旅の魅力とは何かなど、フェリーという商品を超えるところから語らなければ需要創造はできない。
しかし、このように構造化されたストーリーを伝えるためには、いくつかの問題がある。
ひとつは、4階層を貫通するストーリーを設計するとなると、それだけで膨大な情報量となってしまうこと。リアル店舗などリッチに情報を伝えられるタッチポイントを持つブランドであれば伝達することもできたが、これまでテレビCMをはじめ伝統的なマスマーケティングに頼ってきたブランドにとっては、ブランドのストーリーを伝えることが難しかった。しかし、この問題についてはデジタルの発展により、コンテンツマーケティングなど新たな伝達手段が登場したことで解決されつつあると平野氏は話す。
もうひとつの問題は、プロダクトの上位階層にある「問題の重要性」や「カテゴリーの優位性」と「コーポレートの信頼性」いったプロダクトブランドを超える根本的な考え方は、当人たちにとって無意識である場合が多く、潜在的であることが多いという問題だ。
成功事例には必ずと言ってよいほど、ブランドの根底にある本質的な潜在価値を伝えることに成功している。それにもかかわらず、潜在価値の探し方は広告会社のクリエイターやプランナーに属人化してしまっている。
そこでビモクリでは、企業内に埋もれてしまっているブランドのもつ本質的な価値を引き出すアプローチを体系化。潜在価値開発®理論に基づく、「潜在価値マーケティング」を確立した。論理的・体系的に潜在価値を開発するため潜在価値マーケティングは属人的でなく、再現性が高いという特長がある。
そして同社では潜在価値を構造化されたストーリーへと落とし込んだのち、消費者に最も効果のある表現を検証した上で、はじめてコミュニケーションを執行する。徹底的に事前検証をすることで、リスクヘッジを図るのは、長年にわたってヤクルト本社で宣伝部長を務め、広告宣伝がいかに大きな投資であるかを理解している平野氏だからこそだ。
潜在価値マーケティングを得意とするビモクリだが、近年は社外に対するブランディングだけでなく、インターナルブランディングも同時に実行する仕事も増えてきている。
潜在価値開発のプロセスは社長や社員へのインタビューや、ヘビーユーザーリサーチが欠かせない。そうして得られた情報を社内に同時に共有していくことで、ブランドの潜在価値を社員が認識し、インターナルブランディングが図れるのだという。
「“ブランディング”は定義が曖昧なままに使われることも多い言葉ですが、私たちには『企業の根本的な考え方を伝え、顧客の意識を変えて、共感や信頼を得て、社会的な存在価値を確立していくこと』という明確な定義があります。これは社内に対しても同じことが言えます。これからの時代においては、こうした丁寧なマーケティングが不可欠になると思っています」。
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