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博報堂「TEKO」とデロイト トーマツが協業を発表 — “団塊ジュニア世代”の実務家が考える、これからの企業成長の形

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2019年11月、博報堂は同社の「TEKO(テコ)」とデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)が協業し、日本企業による共創コンソーシアムの企画、運営サポートに関するサービスを始めると発表した。

「TEKO」は2017年にクライアント企業の成長に直結するクリエイティブの提供を目指し、専門性の異なる4人のクリエイティブディレクターとマーケティングディレクターの合計5名で発足した博報堂の社内専門組織。今回の協業にはクリエイティブ面での「TEKO」の強みと、DTFAのファイナンス面での専門性を融合させることで新しい価値を生み出そうとする狙いがあるという。

それぞれの組織で協業を推進する、博報堂「TEKO」の大澤智規氏、DTFAの伊東真史氏に、広告界のクリエイティビティがこれからの日本社会にどう役立つのか、その考えを聞く。

—大澤さん、伊東さんの現在の組織内での役割についてお話ください。

伊東:私はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(DTFA)でM&A案件の様々なお手伝いをしています。企業が他社の買収や提携を考える時、多くは自社が保有していない経営資源を活用して成長を求めるという背景があります。そうした背景が今回の協業にも影響しています。

博報堂「TEKO」
エグゼクティブクリエイティブディレクター 大澤智規氏

大澤:私は「TEKO」発足以前は、博報堂のクリエイティブディレクターとして広告制作の仕事をしていました。今は広告のクリエイティビティは、より企業経営の川上から活用できるはずと考え、「TEKO」で活動しています。

—なぜ、2社が協業することになったのでしょうか。そのきっかけとは?

大澤:同じクライアントさんの仕事をしていて、たまたま現場でかち合うことがあり、その時に「何か、一緒にできそうですね」という話で盛り上がって…。コンサルティング会社も「TEKO」も専門性が異なるだけで、クライアント企業の事業を成長させて、価値を高めることで報酬をいただくという点では一緒。かつ、ファイナンスの専門家であるDTFAさんとクリエイティブの専門家である僕たちが一緒になった方が、より有益な提案ができるのではないかという話になりました。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレート ファイナンシャルアドバイザリー ライフサイエンス・ヘルスケアリード パートナー 伊東真史氏

伊東:本当に、たまたまお会いしたことから始まった話でしたよね。クライアント企業にしてみれば目的を達成してくれるのであれば、ファイナンス視点でもクリエイティブ視点でもどちらの提案でも構わないはず。加えて、企業を取り巻く環境がより複雑化しているので、個々の専門家に頼むのではなく、すべてをまとめて提案してほしいと考えるようになってきていると感じていました。そこでこの2社がタッグを組むことで、新しい突破力が生まれるのではないかと考えました。

大澤:また新事業をつくり、企業を成長させていこうとした際に、最近は1社だけで、できることに限界が生まれているように感じていました。今回のプロジェクトの最初の企画では「健康と地域」に着目したコンソーシアムの立ち上げを予定しているのですが、このコンソーシアムというスタイルが、これからの新事業開発には適しているのではないかと考えています。

—社内の文化が全く異なりそうな2社ですよね。

大澤:これまで1年近く、対話を続けてきましたが、資料のつくり方ひとつとっても、まったく文化が違うものだなと思いました。

伊東:私たちの場合、クライアントさんに提案する資料にしても「TEKO」に比べて圧倒的に言葉が多い。業務の特性上、正確に伝えることが重要なため、どうしても文章の量が多くなってしまうことがありますね。

大澤:広告ではコピーで、一言で言い表すとか、ビジュアルにして一枚の絵で表すとか、数十年間、そういうことを叩き込まれているので、表現方法は違います。DTFAさんと話すようになって、クライアントさんがそれぞれ言語の異なる2社から提案を受けて、それを自分たちの経営の言葉に翻訳して咀嚼してくれていたのだと、その苦労がわかりました。特に経営トップの方は、それを一人でやっていたんだな、と。

伊東:私もそう思います。また文化の違いというかアプローチにも違いがありますよね。私たちのようなアドバイザリー会社は、分析能力や課題が明確になったときの突破力に強みがある。他方で、「あそこに北極星があるから、まずはあそこを目指そう」という感じの物事の進め方は必ずしも得意ではない。なので、「TEKO」と一緒に、複数の企業が参画するコンソーシアムの構想を両社で形づくっていけることに期待しています。

大澤:僕たちクリエイターは理想主義者。なので、広告会社の提案は基本的に遠くのゴールを描きます。その方が生活者に受け入れられると考えているからです。では、具体的にそのゴールにどう向かっていけばよいのか。それを考えるのが得意なのがコンサルティング会社。なので両者が組むのは、互いにないものを補完しあえていると思いますね。

伊東:複数の企業が参画するコンソーシアムの場合は特に、コンソーシアム内のマネジメントが非常に難しくなっていきます。その点、M&Aの仕事を通じて、常に利害調整や契約交渉、リスクポイントの洗い出しやその対応策の検討などに関わってきたDTFAの強みが生きるのではないかと考えています。

—二人は「企業の成長」という言葉をどのように定義しているのでしょう。経済環境が変わる中では、成長の定義も変わっていくのではないかと思いますが。

伊東:私の本業のファイナンスの世界でいえば、企業の成長とは企業価値を高めることです。しかし今の時代に健全な形で利益を上げ続け、企業価値を高めるためには、働き方改革を含め、組織として社会倫理に基づいた活動が必要とされている。私たちの言葉ではエコシステムと呼んでいるのですが、自分たちの企業だけ一人勝ちすればよいという時代ではなくなっています。

いま必要なのは個々の企業が提供できる価値によって社会課題を解決していきながら、日本社会に還元する仕組みも伴う成長のあり方が必要とされているのではないでしょうか。

大澤:僕も伊東さんと同じような考えです。加えて、これからの企業成長を実現するために必要な新規事業は、日本人ならではの知恵が生きるサービスにあるのではないかと考えています。例えばAmazonが普及したら宅配の荷物が増えて、より容易に荷物を受け取れるようにするための新しい商品やサービスが生まれるといった類の新事業です。グローバルで浸透する新しいサービスに付随して発生する、ちょっとした困りごとを解決することに新事業の種があるように感じています。

—二人は同世代ですよね。日本の経済に対する問題意識とか、同じ世代だからこそ共通する感覚があるように思いました。

大澤:確かに、それはありますね。リーマンショックは語れるけれど、バブル景気の時代のことは今ひとつよくわからない世代。

伊東:団塊ジュニア世代の私たちは、繋ぎの世代という気がしています。親世代は終身雇用が当たり前で、60歳ぐらいで定年を迎えるのが一般的。そして、その世代のことを理解しているし、その後の日本が劇的に変化した後のことも理解している。

大澤:僕たちの上の世代と下の世代では価値観が違いますよね。バブルを経験した世代の方は新規事業というと100年に一度起きるかどうか、という大きなイノベーションを想像することが多いように思います。

例えば、アップルのスティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出したような。でも下の世代は、先ほど説明したような、新しいことが生み出されていくからこそ引き起こされたちょっとした不具合を解消するようなアイデアを新規事業につなげているように思います。例えばデジタルが普及して、「もっとつながりたい!」と思う人が増えていく中で、ミレニアル世代の経営者であるマーク・ザッカーバーグがFacebookを生み出したようなことです。

—今後の具体的な協業後の展開について教えてください。

伊東:健康、高齢化、地域の過疎化など日本の社会にはたくさんの課題があります。総論では多くの企業が、こうした課題を解決しなければいけないといいますが、でも「総論賛成、各論では躊躇」のようなところがあって、実際にこの総論に1社で取り組んで課題を解決していくのは難しい。そういう意味で、より大きな統合の核になるのは社会課題なのではないかと考えています。まずは「健康と地域」という社会課題に関連したコンソーシアムからプロジェクトを始めていきます。

大澤:「健康と地域」に着目したコンソーシアムは今春の立ち上げを目指しています。

このプロジェクトを通じて、僕たちがやろうとしていること、それは大きな意味での統合型コミュニケーションです。マーケティング領域での統合コミュニケーションの、「その先の統合」に取り組みたいと考えています。つまりは経営レベルでの企業のコミュニケーションの統合。しかも1社だけでは解決し得ない課題も多いので、世の中に対して価値ある提案をするためには、他社を含めた、より大きな統合が必要となっている。その支援ができたらと考えています。