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デジタル時代の「心を動かす」コミュニケーション DM活用の最先端事例を共有

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日本郵便は2016年からデジタルとアナログを組み合わせたマーケティングを提唱し「デジタル×アナログ振興プロジェクト」を立ち上げ、実証実験などを行ってきた。その知見をより多くのマーケターと共有するために、2月12日各界の専門家・先駆者を招いたセミナーを開催した。

セミナー全体の様子。

デジタルとアナログをマージし消費者の無意識に働きかける

日本郵便 諫山親氏。

日本郵便 大角聡氏。

日本郵便の諫山親氏による主催者挨拶と大角聡氏のオープニングセッションに続いて行われた第1部は「センサリーマーケティング」をキーワードに、早稲田大学の恩藏直人氏とオムニコミュニケーションコンサルティングオフィスの鈴木睦夫氏を迎え、事業構想大学院大学の田中里沙氏を聞き手に進行。

国内におけるマーケティング研究の第一人者としても知られる恩藏氏は、議論の前提となる現代の消費者行動について解説した。この10年間でデジタル化は加速し、スマートフォンの登場によるモバイルシフトも顕著だ。

恩藏氏はスマートフォンへの接触時間、通信データ量の増加などを紹介し「マーケティング活動のデジタル化は避けて通れない」と話した。その一方で、デジタルによるデータの蓄積や分析をいくら進めても、消費者の様々な行動の理由を論理的に説明ができないことも多い。説明のつかない無意識的な行動の多くは、人間の五感に起因する。そこで、消費者の五感に訴えかけることで、行動の喚起を試みるものがセンサリーマーケティングだと話す。

人々の感覚を刺激するためには、デジタルよりもアナログのコミュニケーションの方がより効果的だ。実際の研究でも、紙から得た情報はデジタルよりも記憶にとどまりやすいことがわかっている。恩藏氏は「センサリーマーケティングの効果を理解すると、デジタルとアナログの組み合わせの重要性が浮かび上がってきます」と話した。

(写真右から)オムニコミュニケーションコンサルティングオフィス(元イーリスコミュニケーションズ)鈴木睦夫氏、早稲田大学 恩藏直人氏、事業構想大学院大学 田中里沙氏。

鈴木氏は「デジタルとアナログの関係もVSではなくWITH、そして、マージの時代になっていくでしょう。デジタルが当たり前になると、コミュニケーション手段をどうするかではなく、どのような体験を与えられるかを考える必要がある」と指摘した。鈴木氏はまた「マーケティングがどれだけ進化しても変わらないのは、人は心が動かないと行動しないということ。そこでデータやセンサーを使って、どのようにメッセージを伝えると心が動くのかを探るというマーケティングの本質に戻っていく」と話した。

恩藏氏は、センサリーマーケティングの補足として「コモディティ化している時代においては、消費者に提供する情報の量を増やすより、感覚に訴える工夫が必要です。温かいものを手にしたり、重いものを手にしたりすると、私たちの評価や感情は影響を受けます。そうしたメカニズムを理解して、消費者の行動に影響を及ぼすことのできる感覚変数を明らかにして、ビジネスに活用する方法を考えるべきです」と話した。

鈴木氏はこれを受けて「コミュニケーションをデジタルだけに閉じる必要はない。データだけを重視すると事象しか見ないでその先の人を見なくなる。インサイトを見極め、無意識のうちに体験させることを追求できれば、消費者に愛される体験価値が届けられるのではないか」と続けた。

消費者とインタラクティブなコミュニケーションができる「場」

第2部は、博報堂プロダクツの大木真吾氏を聞き手に、「第33回 全日本DM大賞」でグランプリを受賞したディノス・セシールの石川森生氏と、全日本DM大賞の審査委員も務める顧客時間の奥谷孝司氏が登壇し「OMO時代のマーケティングとは」というテーマについてディノス・セシールでCECO(ChiefE-Commerce Officer)を務める石川氏は「日本のECビジネスでは購入の直前、購入することが決まっている人を他社と奪い合う、刈り取りに注力してきてしまった。それゆえ、国内においては小売り市場全体におけるECの規模はまだ小さく留まっている」と指摘。

さらに世界的にみても2017年にEC市場の44%を獲得したAmazonであっても、小売全体でみると、わずか4%のシェアであるというデータを紹介し「ECに閉じている時点で見ているマーケットが小さすぎるし、消費者に提供できているベネフィットの総量も少ない」と話した。

(写真右から)ディノス・セシール 石川森生氏、顧客時間 奥谷孝司氏、博報堂プロダクツ 大木真吾氏。

「小売業においてオンラインというのは、あくまでソリューションのひとつにすぎない。大切なのは、いかにブランド価値やサービスを向上させて顧客に提供できるかであり、それさえ実現できればECか店舗かといったチャネルにこだわるべきではない。選ぶのは消費者であり、事業者側が店舗からECもしくはその逆に誘導を図ろうとする発想はずれていると思う」(石川氏)。

奥谷氏は「デジタルシフトしたといえども消費者は今も日常の大半をオフラインで過ごしている。購買環境においてECが当たり前となっているからこそ、オンラインとオフラインの切り替えにストレスがないようにつなぐことが大事」だと話した。

奥谷氏はそこで重要となるPlace(場)について言及した。インタラクティブ性が強く、消費者とのつながりができるものだと説明し、「場」を意識した施策の例として、オイシックス・ラ・大地が実施した春日部駅での「クレヨンしんちゃん」とコラボレーションしたOOHのキャンペーンを紹介。石川氏は「OOHをする場合、結局は人が多く集まる新宿や渋谷をベースに、KPIは直接的な顧客行動の総量を期待して設計するので、春日部というのは思いもよらなかった」と感想を口にした。

奥谷氏も人が多いところの方が良いとしながらも、コミュニケーションは接点の多さだけではなく、その「場」にストーリーが込められるかといったコンテクストの面が鍵だと話した。

オンライン、オフラインを問わず、コミュニケーションに活用できるツールが多様化している現代において、マーケティングには設計力が求められる。奥谷氏はそこに「丁寧さ」が重要だと指摘。「自分の経験値だけでメディアを選択するのではなく、フラットに見た方がいい」

石川氏はDMを活用した実感についても触れ、「逆説的ですが、紙の良いところはコストがかかることからもたらされている。強いコスト意識が生まれるので、送る相手に合わせて、喜んでもらえる方法を磨き上げる必要がある。以前は、ABテストはWebの専売特許だと思っていましたが、当社に来てすぐに間違いだと気づいた。紙こそ綿密なテストが必要。原料やクリエイティブ、発送にかかるコストを考えると、丁寧につくらざるをえない。結果的に、消費者の元へ届くコンテンツの精度はWebと比較できないものになる。OOHでも同じで、コストのことを考えると丁寧になる。デジタルとアナログのコミュニケーションは、もともと持っているビジネス的な構造が違うと気づけたのが、ディノス・セシールに入ってよかったこと」と話した。


お問い合わせ
日本郵便「デジタル×アナログ」プロジェクト事務局

E-mail:info_dm.ii@jp-post.jp

 

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