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『アスリート✕ブランド』 — はじめに

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『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と「あとがき」、そして、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

はじめに

エアレース、BMXフラットランド、フリースタイルモトクロス(FMX)。どれも一度も聞いたことがない、観たことがないスポーツだった。

長田新子『アスリート×ブランド 感動と興奮を分かち合うスポーツシーンのつくり方』宣伝会議
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レッドブル・ジャパンに入社した2007年にブランド・コミュニケーション統括として取り組むことになったスポーツコンテンツがこれらだった。割といろいろなスポーツに接してきたとは思っていたが、あまりにも想像を上回る競技と映像のインパクトに衝撃を受けながら、様々なスポーツシーンやアスリートとの長旅が始まった。知ったかぶりもできないことは十分承知で、わからないので教えてもらいながら、とにかくアスリートと向き合い、しかしながら自分なりに解釈し、どうやったらシーンを拡大できるのか、ファンを獲得できるのか、この日本で熱狂的なイベントができるのか、もちろんブランドとしてどう成長できるのかを真剣に考えて10年以上取り組んできた。

レッドブル・ジャパンを辞めてから約2年。自分自身そこまでだとは思っていなかったが、“レッドブル=イベント”という強いイメージがあることを実感している。今でも多くの人から「イベントをたくさんスポンサーしていますよね?」「予算があるからできるんですよね?」「どういう基準で種目を選んでいるんですか?」といった質問を受ける。

自分のキャリアを振り返ると、長らく外資系通信会社でBtoBをメインとしたマーケティング担当として日本に製品を導入することや、広報部の責任者として企業の価値向上に努めてきたが、同じグローバル企業でも全く業界が異なる消費財メーカーへのチャレンジはどうなるのだろうかとレッドブルに入社当初は不安だらけだった。いまだに覚えているが、入社当日にスーツを着て登社した時に、完全に場違いだと思った。あまりにも全てが今までの常識を超えていて、一体自分はここで働けるだろうかと愕然としたことを鮮明に覚えている。

それは今から約13年前の2007年にさかのぼるが、当初レッドブルというブランドについて私の周りのほとんどの人は知らず、そもそも入社自体を多くの人に止められるか、あるいは全くわからないので反応がなかった。それでもその業界と会社に入ろうと思ったのは、商品が1種類しかないながらも、新しい市場やブランドを創造することへのモチベーション、様々な分野でのマーケティング活動へのチャレンジや、そしてF1を含めたコアスポーツやアスリートを中心にブランドを日本に浸透させることができる可能性に共感を得たからだ。もともと私は好奇心旺盛、いわゆるミーハーで、さらにスポーツをしたり観戦したりすること、音楽ライブ鑑賞なども大好きである。レッドブルの前の職場はグローバルでNO.1企業ながら、日本というマーケットの特異性によりグローバル手法がなかなか浸透できず翻弄する日々だった。そんな経験も活かせるのではないかと思った次第だ。

設立間もない無名なブランドが、世界有数の飲料市場規模を持つ日本で、競合他社と熾烈な戦いを繰り広げながら、みんなに愛されるブランドになっていくためにチームで挑戦し、さらに業界を超えて何かを成し遂げられる、これ以上の機会はないと思い決断した。万が一ダメでも自分がチャレンジした分きっと何かが見えるだろうという気持ちで入社し、その後10年以上もそこで従事することになったのは、市場の変化のみならず、会社としてコアなシーンと正面から地道に向き合い、ファンが拡大していく瞬間を目の当たりにしたからだ。

レッドブルといえば、スポーツやカルチャーイベントを多数開催していることをご存知の方も多いだろう。なかでも本書で特に着目して語りたいのは、比較的知名度の低いスポーツ、とりわけエクストリームスポーツとのかかわりのなかでのマーケティングについてだ。まだ競技人口もファンも少ないマイナースポーツを、レッドブルはこれまでも多く支え、共に育ってきた。既にメジャーなスポーツやタレントなどと一過性の取り組みを行うのではなく、誰も振り向かなかったカルチャーをコミュニティごとサポートし、一歩踏み込んでかかわり続けてきたからこそ、レッドブル・ブランドは成長してきたし、また同時に、例えば小さかったマイナースポーツがやがてオリンピック競技にまでなるという驚くべきシーンの発展さえも、一企業として、あるいは一マーケターとして、彼らと共に体験することができた。

マーケターというと、明日の売り上げを作るための短期的な視点での活動を課せられている人も多く、仕事に疑問を抱えるマーケターから質問や相談を受けることも多い。もちろん事業を成功させること=明日の売り上げを作ることでもあるのだが、それ以上に本書では、より中長期的なビジョンを持つことで“シーン自体をつくっていく”、それが企業やブランドの成長に繋がるということの大切さを説いてみたいと思っている。また、地道にファンを拡大していくことで市場創造していこうとする意思のあるマーケターたちが、自身で部門長や経営者と向き合い、企業自体のマインドシフトをしていこうとするその後押しに、本書が少しでも役立てばいいなと思っている。

表面的な付き合いではなく本質的にアスリートやファンと歩みを共にし、且つ、企業のビジョンや社会的意義を常に意識しながら、ブランド価値を高めていく。この哲学をもって、読者の皆さん、特にファンづくりやイベント開催に悩むマーケターの皆さんのマインドシフトへと繋がる、その一助となればうれしく思う。

加えて、キャリアとして全く違う分野への転向に悩んでいる人も多くいる。通信会社から飲料メーカーへという自分自身も悩んで選んだキャリア選択だったが、逆に言えば違う業界から来たからこそ影響を与えられたことも多く、意思やモチベーション、今まで積み上げてきた経験、ネットワークや個性がさらに強固なものになっていったことも伝えられたらと思っている。

目次

第1部

第1章 ブランドのビジョンを見つめ直す
第2章 アスリートと組んでブランド価値を高める
第3章 アスリート支援の実際
第4章 イベントを主催する
第5章 イベントを通じたコミュニケーションの切り口
第6章 シーンとコミュニティのこれから、社会との接点

第2部

対談1
室屋義秀さん レッドブル・エアレース・パイロット/エアロバティック・パイロット
「共鳴し、周囲を巻き込む、アスリートとブランド担当者の熱量」

対談2
木村弘毅さん 株式会社ミクシィ代表取締役社長
「支援を始めた企業から見たスポーツとアスリートの可能性」

対談3
金山淳吾さん 渋谷区観光協会代表理事/渋谷未来デザインプロジェクトデザイナー/EVERYDAYISTHEDAYクリエイティブディレクター
「アイデアとクリエイティビティで変革できる、従来型のゴールとルール」

対談4
塚田邦晴さん ファーストトラック株式会社代表取締役社長
「互いの熱量で心を揺さぶり合う、企業とアスリートの理想的な協働」

まとめ

全てに共通する私の哲学

あとがき