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「誰も取り残さない」が軸の丸井グループ SDGsは新事業生む風土の醸成につながる

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コロナで多くの企業が経営危機に陥る中、SDGs、つまり持続可能性を高める経営が求められています。一方、組織全体でSDGsに取り組むには関係者一人ひとりの“腹落ち”が必須。あらゆるステークホルダーとの「架け橋」である広報の腕の見せ所です。月刊『広報会議』9月号(7月31日発売)では、各企業の、コロナ禍という窮状すらも乗り越える“骨太”なSDGs施策を紹介。今回はその一部を公開します。

「小売事業」のみならず、エポスカード(会員の中心は20~30代)や家賃保証をはじめとする「フィンテック事業」を一体で事業展開をする丸井グループ。コロナで多くの百貨店が憂き目を見る中、後者の下支えにより2020年3月期の営業損益も黒字に。もとをたどれば、このフィンテック事業、「難しそうな金融サービスをより多くの人が身近に感じられるように」という考えから端を発し、「誰一人取り残さない」というSDGsの考えに通じるコミュニケーションだ。

丸井グループのフィンテック事業は、SDGs的な視点に端を発する。その好例として、「tsumiki証券」では不定期で金融商品に関する勉強会などを開催。 ※写真はイメージ。

本稿では ①『VISION BOOK 2050』の存在 ②自ら手を挙げる組織風土 ③ステークホルダー拡大につなげた好事例、に注目してSDGs的コミュニケーションについて見ていきたい。

まず①は2019年2月、同社は株主や顧客などあらゆるステークホルダーに向け長期ビジョン・長期目標を発表した。それがこの、『VISION BOOK 2050』だ。そこには「インクルージョン(包摂。これまで見過ごされてきたものを取り込む)」というキーワードと共に、2050年までに「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」というビジョンが掲げられた。

その想いを実現させるための具体的なビジネスモデルを掲載したのが同冊子だ。背景には、投資家から「長期ビジョンを策定してほしい」との要望があったという。

「将来世代」も包括、その意図は

2050年に向けたビジョンについて議論し合うサスティナビリティプロジェクトのメンバーら。

本方針の特徴が、配慮すべきステークホルダーに「将来世代」を含めた点だ。その理由を、青井浩社長はこう語っている。

「地球環境の保全にかかわるステークホルダーは誰なのか?〈中略〉その時ふと、将来世代という言葉が思い浮かびました。環境問題とは、言い換えると、豊かで美しい地球環境を子どもたちや若者たちといった将来の世代につないでいくことではないか」。

「将来世代」という言葉を用いることで、対象が見えにくい環境問題をより“腹落ち”させられるように、との工夫がみえる。

この方針に基づき制作された2019年の統合レポート。キーメッセージは、より多様なステークホルダーとの共創を意識した「この指とーまれ!」。

「咋年のレポートは特に反響が大きく、様々な企業様からビジネスのご提案をいただいています。内容も当社の方針に沿った素晴らしい提案になっており、新たなシナジーが生まれようとしています」、そう語るのは同社サステナビリティ部の村上奈歩氏だ。反響の理由について、「(社会課題解決への)想いのみならず、具体的なビジネスモデルとセットでお伝えしたことが、先方にとって(我々との協業を)イメージしやすかったのでは」と分析する。

高モチベーション維持の秘策

次に②についてだが、実はこのVISION BOOK、有志約50人で構成された、グループ横断の「サステナビリティプロジェクト」のメンバーと役員が1年かけてつくった。丸井グループには未来志向で会社や社会全体に関するテーマについて深く議論する同様の公認プロジェクトが複数ある。参加するためには社員自らが手を挙げて、そのテーマに関する800字程度のエッセイを書いて、メンバーに選ばれる必要がある。この制度が自然と成立する自発性高い社風こそ、丸井グループの強みだ。

「このプロジェクト以外にも有識者による講演会やその他研修など、各種イベントも手挙げ制で(役員のみならず)全社員に参加するチャンスがあります」。10年程前から導入されたこの制度。導入の理由について、「例えば小売り事業が決して順風満帆ではないなか、イノベーションを起こしていかないといずれビジネスとして立ち行かなくなる。そうした危機感から、社員が自ら思考し、イノベーションを起こせる土壌をつくっていきたい、との考えがありました」。

その土壌づくりのさらなる加速化のため、社員が1年間でどの程度、積極的に手を挙げたかを自身で確認できるようにするなどの工夫も凝らした。それらの結果により、イベント応募者は、当初と比べ格段に増えているという。

そして、2020年6月からは50人程度の「公認プロジェクト」に対し、さらに小規模の10人で課題解決に取り組む「イニシアティブ」制を導入。「例えば、温室効果ガス削減のためにお客さまと一緒に1日ビーガンの日を設けよう、という話がイニシアティブ主導で持ち上がっています」。大中小、あらゆる規模感の企画にもこれで対応できるようになった。

主体は社員 その腹落ちが課題

一方で、課題もある。社員一人ひとりが事業の中でSDGsに取り組むモチベーションをいかに醸成できるか、だ。

「やはり単なる社会貢献ではなく、ビジネスとして成立させるためには、丸井グループのサステナビリティ担当者のみならず、グループの事業会社とそこの社員一人ひとりが、その意識をきちんとビルトインしないといけない。その腹落ち、という点ではまだまだ浸透に課題が残ります」。

そこで設けたのが、各課題に対する主幹部署が期間中に、どれだけサステナビリティ目標のKPI達成に近づけたかをグループの経営陣に定期的に報告し、議論する“場”を設けた。「直近では2020年2月に開催しました。そういった取り組みを行うことで、社員一人ひとりが事業活動を通じてSDGsをやるんだ、という意欲を持ってもらえたらよいな、と思います」。

金融商品へのハードル下げる

最後に③の、ここ最近の同社のSDGs起点で、かつ収益拡大につながった事例を紹介する。それが、「tsumiki証券」だ。2018年開始の、エポスカードを使って積み立て投資ができるサービスだ。冒頭にもある通り、同社のフィンテック事業は、「富裕層のみならず、広く一般にも金融サービスを受けられるようにする」という極めて社会性の強い事業だ。tsumiki証券は、まさにその流れを汲むサービスだ。というのも、本サービスは、初めて金融商品の購入を検討する人向け、なのだ。

その特徴を体現するものとして、例えば、選択できる金融商品を4つに厳選したほか、不定期で勉強会も開催しているという(7月現在、コロナ禍で休止中)。村上氏によると、この2年間で口座申込者は約3万7000人に上り、そのうち7割が投資初心者だという(2020年6月末時点)。

対顧客、対投資家、対取引先、対従業員、対地域・社会、そして対将来世代。誰一人取り残さない理念(=「インクルージョン(包括)」と、それぞれに対しきちんと対策を立てる姿勢が、ステークホルダーを惹きつけている。

他社からビジネス提案を受けるきっかけになった統合レポートでは、店舗事業からグリーン・ビジネスに至るまで、共創サステナビリティ経営のビジネスモデルを解説した。

この他、7月31日発売の月刊『広報会議』9月号には、LIXILの「SATO Tap」発売の経緯や、ブラザー販売の社会貢献で得た思いがけない成果など、SDGsを軸にしたコミュニケーションの事例を掲載しており、企業の広報担当者は必見だ。