メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

新規事業を先導するブランド戦略 コミュニケーション活動で育む事業の「芽」(1)

share

著書『事業構想型ブランドコミュニケーション』を刊行した竹安聡氏(パナソニック/事業構想大学院大学教授)は、そのなかで2018年に創業100年を迎えたパナソニックの歴史を紐解きながら、「ブランドコミュニケーションとは伝えることで終わるのではなく、継続的に経営理念を発信し、ステークホルダーとの接点をつくり、絆を構築し、新たな事業の芽を育んでいくことに役割がある」との論を展開しています。
ここでは、「新規事業を先導するブランド戦略」に行きつくまでの著者の「①気づきの体験」、「➁新規事業開発の実践を通じて得た知」、「③未来に向けた構想」の3点に絞って、本書の内容を一部抜粋して紹介していきます。

宣伝活動を担う部門は、企業にとっての新規事業の「ラボ」である

事業構想型ブランドコミュニケーション
著者:竹安 聡(パナソニック ブランド戦略担当参与、施設管財担当参与/事業構想大学院大学教授)
本体価格:1300円

パナソニックにおいては、宣伝活動には常にお客さまに対する生活提案が必要であるとの考え方が浸透している。そして生活提案のある宣伝活動を行おうと考える時、社会環境やお客さまの生活、世相や価値観といったものの探求が必要となる。つまり、宣伝活動を担う部門が、これからのくらしや社会を構想する「ラボ」的な機能を果たすことが求められているのだ。

例えば、近年のパナソニックの生活提案のひとつに「家事シェア」がある。これは家電と家事をシェアしようとする考えで、共働き世帯の増加など、家族構成や生活スタイルの変化に合わせた新しいくらし方の提案になっている。こうした考えを基に社会に対して新たなくらし方を、コミュニケーション活動を通じて発信。その発信に対するフィードバックを得て、お客さまや社会の声を自社に取り込み、新規事業、商品・サービスとして具現化することにつなげていく。発信とフィードバックのサイクルを通じて、既存の商品・サービスを進化させ、さらには新たな事業構想へとつなげていくことがコミュニケーション部門には求められているのだ。

インキュベーション機能を果たした、住宅設備の広告

パナソニックには、歴代の宣伝部長が代々引き継いできた、7つの「宣伝の基本的な考え方」というものがある。

(1)企業の社会的使命です。
(2)企業のこころを伝える活動です。
(3)真実でなければなりません。
(4)お客さまのこころと言葉でつくり、感動を伝えます。
(5)常に創意工夫が必要です。
(6)高い見識と、技量、熱意で取り組みます。
(7)もっとも効率的なコミュニケーション活動です。

この7項目には入ってはいないが、もうひとつ重視されてきたことに「広告はニュースでなければならない」という姿勢がある。ここで言う「ニュース」の意味するところとは、「生活提案」のこと。広告宣伝には常に新しいくらし、新しい生活の提案が必要であるという姿勢だ。

くらしに寄り添ってきたパナソニックは、生活提案を重視してきた歴史がある。私が関わった事例では、特に住宅設備のリフォーム事業の広告宣伝が挙げられる。住宅設備、リフォーム事業の始まりは、1960年代。特にエポックメイキングとなった広告宣伝が、1968年に「1部屋2あかり3コンセント」のコピーからスタートした、1年にわたる新聞のシリーズ広告であった。当時、住宅設備関連の製品には照明器具、配線器具、雨といなどのラインナップはあったが、今日のような商品レンジの広がりではなかった。それでも「住空間提案をしよう」という意気込みで、毎月全15段の生活提案の広告を1年間、掲出していった。

この生活提案型の広告シリーズを支えたのが、「建築ブレーン会議」だ。建築家や大学の研究者など、日本を代表する住空間のプロフェッショナルを招聘し、生活スタイルが大きく変わろうとしていた当時の日本において、次にあるべき住空間の形を議論してもらっていた。

「建築ブレーン会議」で次の住宅トレンドを先取りし、そのトレンドを踏まえて、広告を通じて生活提案を行う。この一連の新聞広告には、お客さまからも大きな反応があった。「建築ブレーン会議」での議論、その議論を踏まえた提案型の新聞広告を行い、さらにその広告に対するお客さまからの反響を商品開発部門にフィードバックすることで、住宅設備事業の製品・サービスは徐々に拡充していく。それが現在のリフォーム事業へとつながっていくのだ。

■「建築ブレーン会議から生まれた」広告

広告を通じた未来の生活構想の提案が、新しい事業を形づくるインキュベーション機能を果たした。事業構想型の広告だったと言えるだろう。

竹安 聡氏
事業構想大学院大学教授
ブランド戦略担当参与

1979年松下電工入社。事業企画部長、マーケティング部長を経て、2005年執行役員。2008年、パナソニック電工取締役。2012年4月、パナソニック 役員・エコソリューションズ社副社長。2018年4月より、チーフ・ブランド・コミュニケーション・オフィサー(CBCO)兼ブランドコミュニケーション本部長。この間、新規事業として介護商品・介護サービスを総合的に取り扱うパナソニックエイジフリーを創設・拡大。他に海外企業のM&A、各種ソリューションビジネスを立ち上げた実績をもつ。202010月よりブランド戦略担当参与