【電通・天野氏×LINE対談】 ネット広告で「心を動かす」には

ソーシャル広告を活用する企業が年々増加し、日本のインターネット広告費は大きく伸長している。2018年までインターネット広告費を上回っていたテレビメディア広告は、商品訴求だけでなく、ユーザーに強い印象を残すブランディング広告にも活用されてきた。視聴態度が大きく異なるデジタル上でも、「心を動かす」ような広告は成立するのか。電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野彬氏、LINE クリエイティブプランニングチーム マネージャー 中根めぐ美氏に話を聞いた。

インターネット広告費の中でも、ソーシャル広告が大きく伸長

——日本におけるインターネット広告費は拡大を続け、2019年に初めてテレビメディア広告費を抜いて1位となりました※。インターネット広告費のなかでも、ソーシャル広告(Twitter、Instagram、Facebook)の市場概況について教えてください。

※出典:2019年 日本の広告費

天野:まず「2019年 日本の広告費」によると、インターネット広告費のうち、ソーシャル広告費は4,899億円で全体の3割を占めています。前年比126%増で、インターネット広告費全体の伸び率よりも、ソーシャル広告費の伸び率の方が大きいことがトピックとしてあげられます。ソーシャル広告費の内訳は、SNS系が2,280億円、動画共有系が1,139億円、その他に分類されるブログや掲示板などが1,480億円となっています。

ソーシャル広告構成比推移
(出典:2019年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析)

ソーシャル広告種類別構成比
(出典:2019年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析)

ソーシャル広告が伸長している理由は大きく2点あります。一つがユーザー数や接触時間の増加。特に最近ではYouTubeを代表とする動画共有サイトが通信環境の向上もあいまって顕著に伸びています。もう一つが、SNSなど各サービスへの理解が広まり、広告主企業が積極的に活用し始めていることです。また、効果測定機能の整備やツールの充実化が進んだことも市場の拡大に貢献しています。

——SNSやLINEのユーザー体験の違いと、それぞれの広告の特徴をどのように捉えていますか。

天野:Twitterはファストなコミュニケーションが特徴で、タイムラインの流れやスクロールの速度が速いため、広告は目を引くデザインやビジュアルの中に文字を重ねるなどインパクトを重視する傾向にあります。またその時々の世の中の関心や盛り上がりを可視化する場でもあるため、クリスマス、お正月、ハロウィン…など時節性の高い広告もよく見られます。

Instagramは、写真や動画を用いたビジュアルコミュニケーション主体のSNSです。Twitterがフローのコミュニケーションだとすれば、Instagramはストックの色合いが強いと対比することができます。過去の投稿も含めてブランドやサービスの世界観を伝えることができる強みを持ちます。広告ではパッと目に留まるようなクリエイティブをつくることが大事ですが、商材によってはつくりこみすぎず、ユーザー投稿に近いトンマナの表現を心がけることで効率が上がるというデータもあります。一方、ストーリーズの広告はスワイプなどのアクションを促す工夫も多く見られるので、より行動喚起的と言えます。

Facebookも大きな方針はここまでの議論と重複します。TwitterやInstagramとは異なり、テキストとビジュアルの組み合わせが特徴です。広告もビジュアルのみをつくり込むというより、テキストも含めて情報を整理することが求められます。静止画、動画、カルーセル、コレクション…と多様なフォーマットがありますが、最近は動画広告が増えてきている印象です。

そしてLINEはユーザーの年齢層が幅広いため、さまざまな広告フォーマットが存在する中でも、一貫して分かりやすく伝わりやすいクリエイティブが求められると思います。ブランドコミュニケーションの一環として商品の世界観を表現する広告から、利用シーンを描いて身近さを伝えたり、お得感を訴求する広告にいたるまで、商材やその伝え方のかたちも幅広い印象があります。

電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野彬氏

インターネット広告でユーザーの心を動かすためのポイント

——テレビCMは認知向上やブランディング目的で活用する企業も多く、エモーショナルなブランド広告がSNSなどで話題になることも多いと思います。スマートフォンの特性で枠が小さいインターネット広告でも、テレビCMのようにユーザーの心を動かすことはできますか。

天野:「心が動く」というと平易に聞こえますが、現象としては実は複雑なものです。インターネット広告はユーザーのさまざまな痕跡がデータとして可視化され効果測定が行えるため、態度変容や行動喚起といったものを心が動いた指標として捉えることができますが、その心の動き方には多様なパターンがあります。

例えば、電通デジタルでは、デジタルクリエイティブの考え方として「3S」を提唱しています。一つ目のSは「SHOW」で、多くの人の認知を得たいときに、共感したり勇気をもらえたりするようにみんなが見たくなる、人にシェアしたくなる要素を含ませること。二つ目のSは「STORY」で、ターゲットに自分ゴト化を促すため、ニーズに合わせたシーン訴求や共感させる訴求を行うこと。三つ目のSは「SALE」で、資料訴求やクーポンの取得、企業サイトへの訪問など、ネクストアクションを明確にして購買や会員登録などのコンバージョンにつなげることです。

SHOWはユーザーのシェアによって情報が広がるSNSの特質に合致していますし、STORYはターゲティングで絞り込んで伝えられる仕組みの特性を捉えています。SALEもまた、購買行動などのアクションまでユーザーが一気通貫に行動できるのがデジタルコミュニケーションの特徴であることを踏まえているのです。

——ソーシャル広告を配信するうえで、クリエイティブ以外にユーザーの心を動かすためのポイントはありますか。

天野:インターネット広告においては、広告体験が重要な意味を持ちます。それ自体を設計できる自由度があるためです。2019年に日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が発表したユーザーの意識調査によると、「インターネット広告はしつこい」「見たくないものが表示される」というネガティブな回答が多くありました。それは広告の中身というよりも、表示のされ方に問題があるということを意味しています。

広告の分かりやすさ、驚きや面白い仕掛けがあるようなクリエイティブはもちろん必要ですが、ユーザーを不快に感じさせない仕組みやサービスの設計も欠かせません。

中根:そうですね。デジタルでは広告クリエイティブを単体で捉えるのではなく、広告がどういった場でどのようにユーザーの目に触れ、その先でユーザーがどのような行動をするのかまで一貫して考えることが重要です。

例えば、広告クリエイティブで謳っている情報が遷移先のファーストビューに見当たらなければ、ユーザーはすぐに離脱してしまいます。このように広告クリエイティブと遷移先のLPの内容が分断されている状況を見直して、ユーザーにとって違和感のない設計にするだけでも、ユーザーの心を動かす広告に一歩近づくと思います。

LINE クリエイティブプランニングチーム マネージャー 中根めぐ美氏

ユーザーの興味を喚起する表現訴求が重要

——インターネット広告で心を動かすためのポイントを伺いましたが、LINE広告の配信で応用するにはどのような工夫が必要でしょうか。

中根:LINE広告の主な配信面に、トークリスト最上部に表示される「Smart Channel」やLINE NEWS、タイムラインなどがあります。コミュニケーションアプリの特性上、他のコンテンツに馴染むような広告枠が多いため、周囲の情報に埋もれずに興味を喚起するような表現が求められます。特に動画であれば、1フレーム目からしっかりと内容を認識できることが重要です。例えば、完全視聴前提で制作されたテレビCMで何の特徴もないようなシーンから始まるといった動画である場合、モバイル環境においてはしばらく見続けるモチベーションが生まれず、離脱されてしまいます。

もう一点、これはLINE広告の特性ですが、静止画や動画といったクリエイティブのフォーマットは大小さまざまです。その一方で、ビジュアルに付随するタイトル要素は、どの配信面においても一定のサイズが担保されています。

(写真左から)LINE広告の配信面Smart Channel、LINE NEWS、タイムライン
※お使いのバージョンやOSによって画面のデザインが異なる場合があります

タイトル要素は静止画や動画のクリエイティブに比べてあまり重視されない傾向があるように思われますが、実はユーザーはこのタイトル要素をよく見ており、タイトルのみを対象に行った効果検証でも配信効果に差が出るケースも多くありました。重要な訴求要素を端的に盛り込んだり、口語的な表現でユーザーに親しみやすい印象を与えたりと、興味を持ってもらいやすいような工夫をしていただくことをお勧めします。

天野:広告を見たときに何を伝えようとしているかが分かりづらいと、見る側としてもタップする気を失ってしまいます。スマートフォンユーザーはアテンションの移り変わりが激しく、数秒もかからずに情報の取捨選択が判断されてしまうため、動画であれば1フレーム目、テキストであればタイトルのファーストキャッチが重要だというのは非常に共感します。

中根:大前提として、目に入った瞬間の分かりやすさは不可欠ですね。例えばブランディング目的の場合、ブランドの世界観やメッセージを主張しすぎるよりも、実際の利用シーンなどを通じて自分自身が利用している姿が想像しやすいといった、ユーザーが自分ゴト化しやすい表現であると、ユーザーの反応もよいケースが多いように感じます。

また、何かしらのコンバージョンを目的とする場合は、要素を盛り込みすぎるのではなく、隙間時間に気軽に行動を起こそうと思えるような表現を心がけることも効果的です。例えば60秒のブランドムービーをそのまま視聴してもらおうとするのではなく、ブランド体験のきっかけとして短尺の動画、あるいは静止画などをティザー的に使い、広告から遷移した先でしっかりと内容や世界観を伝える方がLINE広告では適していると思います。

——最後に、ユーザーの心を動かすために、企業はどのようなマインドで広告と向き合うべきなのか、メッセージをお願いします。

天野:「広告」という文字は広く告げると書きますが、広くリーチするという意味のほかに、「ブランドと生活者の接点をどう広げて伝えるか」という意味があると思っています。ブランドが伝えたいこととユーザーが求めることの双方が満たされている状態に加えて、さらにはいまの世の中にそのコミュニケーションを行う意義は何か、それは何をもたらすのかという点にまで思考が及んでいると、接点はどんどん広がっていきます。だからこそ、ユーザーがSNSをどう使っているのか、どんなやりとりが交わされているのか、そこにはどんなニーズが隠されているのかを知ったうえで、コミュニケーションを組み立てることが重要です。

中根:デジタルでは、広告クリエイティブに限らず、ユーザーの一連の体験をどうデザインするかという観点が非常に重要です。広告が視界に入り、指先でタップした瞬間からツアーが始まるようなイメージですね。ユーザーをどうナビゲートしていくかの設計も含めて“クリエイティブ”と言える広告体験が増えていくことが、ユーザーにとってもよいことではないでしょうか。

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