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インタビュアーは現役町長!「コロナ禍の自治体コミュニケーションは、どうあるべき?」

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情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部。月刊『宣伝会議』編集長の谷口が同部で講義を担当していることから、受講生の皆さんと編集コンテンツの企画から制作までを実地でチャレンジ。今回は、教育部2年に在籍し、普段は社会人として地方自治体の首長(滋賀県日野町)を務める堀江和博さんが現在、仕事で目下の課題となっているコロナ禍における自治体コミュニケーションのあるべき姿について、社会情報大学院大学の川山竜二教授に取材しました。

コロナ禍において、感染対策を進める政府や自治体のコミュニケーションのあり方がこれほど問われる時代はありません。危機における自治体のコミュニケーションはどうあるべきなのか。そんな疑問を持つ学生(でもあり、現役の首長でもある著者)が、科学コミュニケーションを専門とする川山竜二教授に話を聞きました(本取材は2021年1月にオンライン形式で実施しました)。

話を聞いた社会情報大学院大学の川山竜二教授。筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。「社会動向と知の関係性」から専門職大学、実務家教員養成の制度設計に関する研究と助言を多数おこなっている。文部科学省実務家教員COEプログラム責任者。海洋開発研究機構普及広報外部有識者委員。そのほか、研究施設等の広報活動について科学コミュニケーションの観点からアドバイスを行う。主な研究分野は、知と社会、プロフェッショナル論、社会システム論。

今のコミュニケーションには、震災の教訓が生かされていない。

よく新型コロナウイルスは初めての経験だから対応が難しいと言われますが、実はこのような経験は今回が初めてではありません。私たちは、10年前にも東日本大震災という大きな危機に遭遇しています。しかし、残念ながらその時に得た非常時のコミュニケーションの教訓が今回の対応に生かされていない。

最近の政府や自治体のコミュニケーションの仕方を見ていると、科学者の考える価値観と政治家の考える価値観は別軸にあるにもかかわらず、それぞれの見解が合わないところをそのまま露呈しながら情報発信しているように思います。東日本大震災時にあったベクレルの話や食品の安全性についての議論から、全く進歩していないのです。

今の政府・自治体のコミュニケーションに点数をつけるとすれば、「30点」ぐらいでしょうか。減点ポイントは3点あります。1点目は「コミュニケーションの特性を分かったうえで発信ができていない」ということ。2点目は「科学技術リテラシーを踏まえた発信ができていない」ということ。3点目は「国民の行動変容を促すという政府広報の役割を果たせていない」という点です。その一方、評価できる点は専門家会議の話をそのままダイレクトに伝えていて、情報を隠したりしているわけではないということですね。

個人が主体的に価値判断できる環境を整える。

民主主義国家である日本では、国民が個人の判断に基づいて判断できるコミュニケーションが公共セクターには求められます。ただ、コロナ禍のような危機下においては、個人の価値観と社会全体の価値観を同じ次元でとらえて、個人が価値判断をできる環境を整えるコミュニケーションがとりわけ重要だと考えています。個人の価値観を担保した上で、個人の安全、社会の安全が両立できるようにしていかなければなりません。

学術的には科学技術社会論という議論があり、その中に科学コミュニケーションやリスクコミュニケーションという領域があります。社会学者のウルリッヒ・ベックが『危険社会』という本を書いており、チェルノブイリの原発事故を踏まえて、リスクをどのようにとらえたらいいのかを論じているので参考になります。

いま必要なのは、情報の交通整理。

コロナ禍のコミュニケーションとして参考になる政府・自治体は、「台湾」だと思います。何が上手いかというと、情報を用途ごとに分けて発信をしている点です。例えば、台湾ではワクチンの情報なら政府の厚生部門が発信し、マスクの情報なら自治体や民間レベルで情報提供がされるなど、担当部署と提供する情報の内容が整理されています。しかし、日本の場合は色んな立場の人が色んな情報を発信しています。話す人と文脈と情報の内容が一致していることが大切なんです。台湾のオードリー・タン IT担当大臣は、コロナ対応で一躍有名になりましたが、この情報の整理がとても上手ですね。

情報の受け手が主体的に判断できる情報を提供する。

先日ある首長の方がテレビ番組に出演されて、病床率について具体的な数字を聞かれているのに、「逼迫している」という個人の主観的な判断しか述べなかったんです。ここで大事なことは情報の受け手自身が主体的に逼迫していると判断できる情報を提供することです。テレビを見る人が主体的に判断できない情報ではだめ。首長であればなおさらで、その言葉は非常に重いと思います。

自分が発信しただけではコミュニケーションは成立していません。受け手を想起した形で、受け手が安心する、価値判断することができる情報発信を心がけて欲しいですね。そして、何度も言うようですが、危機への直面やリスク対応は今回が初めてではありません。これまでの報告書などを参考にして、コミュニケーションを改善してほしいと思います。

【執筆者】

堀江和博氏

東京大学大学院情報学環教育部2年。普段は社会人として地方自治体の首長(滋賀県日野町)を務める。