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なぜ、いま音声なのか?視覚と聴覚の差異から最適なコミュニケーションを考える

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音声コンテンツの特性や、音声メディアならではの強みを活かしたマーケティング・コミュニケーションの可能性について、TBSラジオと考える3回企画。第1回は、広告クリエイターと社会学者の対話から「なぜ、いま音声なのか?」を読み解きます。話は、認知のされ方についての視覚情報と聴覚情報の違いから、優れたラジオCMの潮流、コミュニケーション手段における音声コンテンツの向き不向きにまで及びました。

第2回:なぜ、明治はラジオを使うのか? 番組提供の理由と手応えを聞く
第3回:音声メディアこそが広告主の期待に応える―TBSラジオ・三村社長に聞く

井村光明氏(博報堂 クリエイティブディレクター)
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堀内進之介氏(Screenless Media Lab. 所長)

井村光明氏(左)と堀内進之介氏。

映像よりも音声の情報量がちょうどいい

—音声SNSの「Clubhouse」が日本でも話題です。

堀内:音声メディアにとっては追い風ですね。スマートスピーカー(AIスピーカー)が出てきたのが4~5年前のことですが、私はメーカーとスマートスピーカーの共同研究をしていたこともあり、音声ナビゲーションで消費者を情報に触れさせたいというニーズがあることは当時から感じていました。いまになってブーム化したのは、スマホのスクリーンタイムの奪い合いが熾烈になったことを背景に、通勤・通学や家事をしているときの“空いている耳”を攻めようというシンプルな発想からだと思います。

さらに、消費者の購買行動がルーティン化し、新しい選択をしなくなったことも影響しているのではないでしょうか。Spotifyでは、“お気に入り”のアーティストを登録すれば、似たような価値観のコンテンツを流してくれる機能を「ラジオ」と呼んでいます。つまり、「選ばなくていい」というニーズにマッチする「選ばせない」サービスとして、ブロードキャスト(放送形態)の音声メディアが再注目され始めています。

 
井村:高度成長期からしばらくの間は物が増え、選べるようになるのが快感だったので、新商品を伝える広告は必要な情報として受け入れられていました。物があふれるにつれ、広告は差別化しなければと情報を詰め込んできたわけですが、今や消費者のリテラシーは高いですし情報接触に疲れてますよね。これから広告を情報と思ってもらうには引き算していくことが必要で、そう考えると音声で伝わる情報量くらいがちょうどいいのかもしれません。

堀内:同感です。当時はあれが欲しい、あそこに行きたいというInterestがデフォルトだからこそ、AIDMAやAISASのような消費行動モデルが有効で、パッと魅力が伝わる視覚情報がもてはやされたのでしょう。

井村:映像はわかりやすい半面、例えばテレビ画面いっぱいにビールが映れば、訴求したいのは低カロリーだとしても、「ビールの広告か、わかったわかった」と瞬時に理解し処理されてしまって、それ以上のメッセージが届かなかったりする。かえってサウンドロゴのように音だけのAttentionの方が記憶に残ったりしますよね。もちろんメロディの良し悪しもありますが、音には意味を“抜く”効果があるように思うんです。理解を求めない余白に感じさせるから簡単に処理されない、だから残りやすいのではないかと。

堀内:一方で、音声には「パラ言語」といって、イントネーション、リズム、間、声質といった周辺的側面により、話した以上のことが伝わってしまう特性があります。「飲みに行くから今夜は遅くなる」と伝えたときに、その人のパートナーから返ってきた「いいよ」の一言が、心からの許しか否かは声でわかるじゃないですか(笑)。そうした音声の持ち味をどう活かせば、日常動線の中に印象を残すことができるかをScreenless Media Lab.で研究しています。

井村:テレビCMは圧倒的に尺が短いから“せっかち”になりがちです。ニュアンスや間を活かしきれないのが悩ましいですね。でも、街中でふと耳にした音楽に振り返ることってありますよね、音ってセレンディピティ効果をつくりやすいと思うんです。広告も本来いかに商品との偶然の出会いを盛り上げるかじゃないですか(笑)。その点でもラジオCMの方が長尺で、音の効果を活かしやすいという利点がありますね。

音声コンテンツが人の行動を変えた

—「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のラジオ&オーディオ広告部門で上位入賞した作品から感じる、音声コンテンツの傾向はありますか。

井村:ここ数年、商品広告というよりは音声コンテンツとしても成立している作品が多かったように思います。たとえば、18年のグランプリは群馬マスコミ3社による特殊詐欺ゼロキャンペーン「無許可篇」という40秒のラジオCMでした。

実際の“オレオレ詐欺”の通話音声を流した後に、犯人の声を本人に無許可で使っているので訴えたければ警察に連絡してくださいとナレーションが入るウィットに富んだ作品です。これが防犯カメラ映像を使ったテレビCMだとしたら、番組などで既視感があってそんなに面白くないと思うんです。ひとりで聞いてるラジオだから、犯人からの電話が自分にかかってきたようなリアル感がある。そこがコンテンツの妙です。

 

一方、20年にグランプリに輝いたパナソニックの「学習するチカラ」というラジオCMは、最初は無意味な機械音なのに、説明されると脳が学習してちゃんと日本語に聞こえてくるという、音の聞こえ方に工夫を凝らしたラジオCMの王道を行く作品でした。また、ラジオ以外のオーディオ広告全般を対象とするBカテゴリーでは、パナソニックの音響システム「Voice of Home-帰っておいでアナウンス-」が選ばれました。企業で定時退社を促すために流していた音声メッセージを、人事担当者の声から社員の家族の声に変えただけなのに、退社時刻が早まったそうです。音声コンテンツが人の行動を変えた事例です。

「納得」を引き出す音声メディア

—Screenless Media Lab.(スクリーンレスメディアラボ)は、音の力を研究して科学的に整理・体系化することで、音声の役割を見直そうという目的で、TBSラジオが2019年に設立しました。

Screenless Media Lab.のWebサイト。音や音声についてのレポートや研究報告を積極的に発信する。

堀内:広告業界は、視覚メディアを中心に“リーチMAX”主義が長く続いてきました。ところが、リーチが取りにくいはずのラジオ通販で物がよく売れ、返品率が低いなど、接触率の高さとコンバージョンがリンクしなくなってきています。そこでラボでは、「パーソナリティの語りかけがリスナーをその気にさせるからだ」といったラジオ業界の経験則や強みとしてきたことを、radiko(ラジコ)のデータ分析などにより指標化しようと試みています。メディア全体における音声の立ち位置を把握したうえで、他のメディアとどう組み合わせれば効果的かなども研究し、広告や音声ナビシステムなどの開発を支援する活動もしています。

井村:どのメディアが良い悪いということではなく、うまく使い分ければいいんですね。

堀内:はい、向き不向きの話です。たとえば、旅行商品を売るときに、目的地が決まっている人が相手なら、ホテルの写真や価格などを視覚情報として提示すれば「説得」には十分なのでWebでも売れるでしょう。でも、旅行代理店のカウンターにやってくる人の約4割が、説明を聞いて「納得」してから目的地を決めています。

井村:興味深いデータですね。「選びたくない」購買層は「聞く」にセレンディピティを求めていて、探している層には「聞く」が納得の効果を生んでいる。その両方を与えられるとしたら、音声メディアはとても魅力的ですね。広告制作の立場としては、ブランドリフトとの相性の良さやコストが安い点が、この先大きな武器になってくるような気がします。

博報堂
第三クリエイティブ局
クリエイティブディレクター
井村光明氏

1968年広島県生まれ。東京大学農学部卒業後、91年博報堂入社。コピーライター・CMプラナーとして、永谷園「Jリーグカレー」、日本コカ・コーラ「ファンタ」、コンデナスト・ジャパン「GQ JAPAN」、MTI「ルナルナ」、福島県庁「ふくしまの恵み」、UHA味覚糖「さけるグミ」などの広告を制作。ACC賞グランプリ、TCC賞グランプリ、ADC賞、カンヌライオンズフィルム部門シルバーなどを受賞。2020年度「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」ラジオ&オーディオ広告部門の審査委員長を務めた。

 

Screenless Media Lab.
所長
堀内進之介氏

1977年生まれ。博士(社会学)。専門は政治社会学。東京都立大学客員研究員、JTB新宿第三事業部上席顧問ほか。2019年3月Screenless Media Lab.の立ち上げに際し所長として迎えられる(現職)。単著に「善意という暴力」(幻冬舎新書)、「人工知能時代を〈善く生きる〉技術」(集英社新書)、「感情で釣られる人々」(集英社新書、2016年)、「知と情意の政治学」(教育評論社)。ほか共著・翻訳書も多数。

 


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