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「業界人間ベム」―2022年広告マーケティング業界予測(横山隆治氏)

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自身のブログで「業界人間ベム」としてマーケティング、デジタルマーケティングに関する知見を発信してきた横山隆治氏。毎年、1月にその年の広告業界を予測する記事は話題になってきたが2020年の広告業界予測を最後に、ブログを閉じていた。
この「業界人間ベム」の年始予測が「アドタイ」にて復活。横山氏が考える2022年の「広告マーケティング業界予測」とは?

オミクロン株の爆発的感染で世界銀行が2022年の世界経済の成長率を下方修正したところですが、日本に関しては当初より上方修正をかけて2.9%成長としました。おそらくですが、期待を込めてコロナはインフルエンザのようになっていくようにも思えます。うまくいけば今年は春過ぎから消費が大きく回復するかもしれません。

この楽観的な予想を元に2022年の広告マーケティング業界予測をしてみましょう。
例によって7つの予測としました。

①コネクテッドTVの定義と認識 ~どう放送枠と組み合わせるか~

今年「来る」(笑)のは、まず最初に「コネクテッドTV」です。ただ「コネクテッドTV」については、この定義をしっかりしておかなくてはなりません。

オンライン動画に関しては、結線されたTV画面で視聴する、スマホ、タブレットで視聴する、コンテンツがTV局制作の番組、それ以外のコンテンツで分けられます。

ベムは非常に狭義のコネクテッドTVの定義ではありますが、結線されたTV画面(基本大画面)で視聴するTV局、制作会社がつくった質の高いコンテンツと定義しています。そうなるとネットフリックス(日本ではまだ米国に比べてTV画面視聴が少ないようです)、アマゾンプライムビデオ、ディズニープラス、Huluほかいろいろありますが、広告枠をもっているのは今のところTVerくらいかと思います。オンラインでTV画面に供給する、広告主が安心してCMを入れられるコンテンツということですね。

今後、オンライン動画のTV画面視聴がどれだけ拡大するかがポイントです。(FireTVの普及やリモコンへのバンドルなどがTV画面への拡張のカギではありますが)。

もはや完全に編成権が視聴者に移った今、オンデマンドに加えて同時配信ストリーミングのニュース、天気予報、スポーツ中継(リアルタイムに価値があるコンテンツ)が受け手主導で、ますます消費されていくでしょう。こうしたコンテンツ消費環境においてはオンラインならではの細かい差し替えが可能な広告配信が出できることで、広告枠の価値を上げることができます。量より質で広告の単価を上げられる訳です。

そうであるがゆえにCMの視聴感覚は非常に大事です。YouTubeの極めて無理やり押し込み型のCM挿入に対して、テレビが長年培ってきたCMを受容する感覚に加えて、ターゲティングすることでよりネイティブな方向にアレンジできるかもしれません。

テレビは放送という送り手主導から、オンラインという完全受け手主導になります。テレビジョンセットもスイッチを入れたら放送を受信している状態でなければならないという「一般社団法人電波産業会」の規約はむしろテレビ局が積極的に解除した方がいいのではないでしょうか。「TV画面においてはオンラインもTV局のコンテンツが覇権を握るぞ」くらいの覇気がなくてどうするのでしょう。

さて、コネクテッドTVのCM枠は、テレビCMの補完と相乗効果の2面でその価値を持ちます。テレビCMの知見とオンライン動画CMの知見を融合する領域です。これはベムが従来提唱している、①ターゲットリーチ補完、②フリークエンシー補正、③双方接触による態度変容効果の3つの組み合わせ目的があります。

いわゆるコネクテッドTVも始まったばかりで広告枠のターゲティング配信などもこれからでしょうが、オンラインでターゲティングできるCMと放送によるマスリーチのCMの役割を考慮して組み立てることがターゲットの態度変容を促すポイントになるでしょう。そしてそこはやはりクリエイティブが最大の変数になるでしょう。

②メタバースでのブランド体験実験急進

メタバースに関しては言わずもがなですが、すでにメタ世界のファッションやアクセサリーで大金を稼ぐ人まで出てきています。NFTによって大きな価値を獲得しているのですが、従来デジタル化がある意味著作権ビジネスを崩壊させてきた流れから一気に逆の方向に振れるデジタルコンテンツ文化が開花するかもしれません。

当然、この世界でブランド体験をいかにユーザーに持ってもらう実証実験は始まっています。Nike、Adidasなどは当然のごとく、ファッション系、アート系、音楽系、eスポーツ系はことごとく参入しています。

セカンドライフの失敗とは違い今度は没入のレベルも違ってパラレルワールドになってしまいそうです。

これこそ「体験」そのものなので、日ごろ「ブランド体験」なるワードを使っているマーケターがメタバースをそれこそ体験していないのはナンセンス!

③広告ビジネスへのAI本格利用元年に

2022年はとうとう広告ビジネスに本格的にAIが浸透する元年になるでしょう。そもそも広告ほど人のスキルや労力に負うビジネスも少ないのですが、運用型広告の急伸もあって人手を多く使う分野では、自動入札などの機能は求められてきました。しかしプラットフォーマーが個別にこれらの機能を開発しているので、横断的な自動入札機能がなかなか開発の費用対効果が見合わないところがあった感があります。

運用型広告の領域に最初に来るはずだったAI導入ですが、どうやらそれ以外からも始動する気配があります。

バナー広告レベルではクリエイティブにAIを導入する例はあったと思います。それ以前はABテストという方式をとっていた訳ですが、これは本当に効果のある方からABなのか、もしかするとどちらが最もダメなクリエイティブかを比べるYZテストかもしれません。広範囲にクリエイティブのユーザー反応を教師データとするAIが活用されるでしょう。またブランド広告でもAIのレベルは格段に上がるでしょう。

④企業のデータ保有リスク顕在化 ~「DSR」とゼロパーティデータ~

「データの利活用」なる経産省ワードが流通してからずいぶん経ちましたが、個人情報の保有に関してはむしろリスクの方が大きい時代が来ました。

カルフォルニア州法のCCPAの施行から1年以上経って、米国ではDSR(データ・サブジェクト・リクエスト)の概念が浸透しています。これは、自分のデータを収集している企業に対して、消費者が①「私のどんなデータを集めているのか見せろ」②「収集した私のデータ消去してくれ」③「私のデータを使って私のプロフィールをどのように推量しているかを教えろ」などとデータ収集企業に要求することができるというユーザー側の権利を明確にしたものです。これだけの要求に応えるためには莫大な費用をかけてサポートセンターを設置しなければなりません。データを価値ある情報化に成功しているのであれば別ですが、そうでなければ保有していること自体がたいへんなリスクとなる可能性があります。

その意味で企業が1stパーティデータだと胸を張っているデータも、消費者が意図的かつ積極的に企業側と共有するデータ=「ゼロパーティデータ」化しないといけないのです。ゼロパーティデータには「個人の購入傾向や好み」、「個人的な背景や消費に関わるコンテキスト(文脈)」、そして「個人がどのように企業側に自分を認識してほしいかなどの意思」などが含まれます。消費者がここまで個人情報をトレードオフしてくれる価値の提供をできるかを企業は再検討すべきでしょう。

⑤SNS分析からインサイト発見とコミュニケーション設計するスタイル確立

ベムはファネル理論でいうところの「ミドルファネル」をブランドごとにより具体的に定義すべきだと提唱しています。

筆者が提唱する「態度変容モデル(シックスサイトモデル)」。

この中で、SNSからの「共感認知」という概念を提起しています。今の時代特定のカテゴリーの商品に関してはSNSからの情報取得、接触態度とその際の「琴線に触れる要素」が購買意志決定に繋がることは明確です。

昨年トレンダーズ社が提唱した「インフルエンス・ファクター」という概念では、SNSで情報に触れるユーザーの行動態度を4つに分類し、各々の特徴的ビヘイビアと琴線に触れるエッセンスを解明しています。

2021年にトレンダーズ社が発表したSNSにおける購買行動の分析メソッド「インフルエンスファクター」。

このメソッドは、SNSユーザーを「属性」ではなく「購買行動のパターン」を軸に分類したもの。購買行動に至るまでの影響要因によって、「オーディエンス」「トラスト」「ナレッジ」「ディスカバリー」の4つに分類しており、それぞれ「オーディエンス」=「いろんな人がいいと言っている」、「トラスト」=「好きな人がいいと言っている」、「ナレッジ」=「他のものと比べて良いものだと分かる」、「ディスカバリー」=「好きなものに出会えた」をインフルエンスファクター(SNSでの購買プロセスにおける影響要因)としています。

そしてそれぞれのタイプに合ったメッセージの送り方、クリエイティブをしようというのがトレンダーズ社の提唱内容です。今後は、この「インフルエンスファクター」の考え方のように、コミュニケーション開発全体の設計のスタートをSNSでの分析からスタートするモデルが確立すると思われます。

もちろんSNSが大きく影響するカテゴリーとそうでないものはあります。しかし特定の商品カテゴリーでは、TVCMから考えるのではなく、SNSでの施策の考え方をベースにして、コミュニケーション設計をする方が、蓋然性が高いと思われます。

⑥宣伝部のDXの実践始まる

まだまだ宣伝部はDXと縁遠い感じですね。「ブラックボックスから可視化へ」による変化が最も大きい部署のひとつが宣伝部です。ただ宣伝部のDXっていったい何をやること?ってなります。

DXというとデジタル施策をすることのように考えがちですが、アウトプットがアナログ施策でもそのプロセスにデジタル思考にすることで立派なDXです。(逆に施策はデジタルだがそのプロセスはアナログ思考のままのケースもあります。)

例えばテレビのプランニングやCM制作という従来からの「経験と勘」から、データとデジタルが活用していた指標や考え方を応用するところから始まります。テレビCMの到達指標をGRPからインプレッション数に替えるだけでもひとつのデジタル化です。

またCMの視聴質データ(例えば画面注視率)で、CMクリエイティブパワーを数値化してみる。これも一歩前進、その先に「データを元にクリエイティブブリーフを書く」に進化するでしょう。

前述したように宣伝部の仕事にAIを導入できるかリサーチし始める時期ですね。2022年度中に宣伝部のDXとは何かを社内で定義する作業に入るべきで、一部に具体策を始める宣伝部が出てくるでしょう。

⑦エージェンシーのD2Cブランドスタートアップへの出資

エージェンシーのスキルを高めるひとつの方向に、実際にブランドとして事業化した経験、知見を応用するという考え方があります。従来は事業となるとマーケティングだけでは済まないのでハードルは非常に高かったのですが、D2Cモデルの事業に関してはやれないことはないところまできました。

ただエージェンシーの人間にすぐスタートアップを始めろと言ってもそこはまた別の才能、人間力が要ります。そこでそうしたスタートアップにエージェンシーが出資し、かつ人を送り込むことで、事業化して成功すれば、代理サービス以外の新しいマネタイズとなります。またスタートアップ側もマーケティング、特にファンマーケティング領域の知見は絶対必要で、意外と補完関係にあります。今年はD2Cスタートアップにエージェンシーが出資してヒトを送り出し、実際のビジネスを経験したスキルをまたエージェンシーサービスに生かそうとする波が来るでしょう。