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富永氏×音部氏が対談! マーケターが人を見る時は「アイデンティティ」に着目すべし

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「イメージ」と「言葉」と」「概念」を自由に行き来する?

――音部さんと富永さんは互いに、その考えに共鳴することが多いそうですね。

富永:音部さんと私は、実はとても似ていると思います。なので、互いに何を考えているのか、少し話を聞けば、わかってしまうという。

音部:富永さんは、いろいろとすごい方なのですが。そのなかでも一番すごいと思うのが、「概念」だけで話ができること。こういう方は、きっと実生活でご苦労が多いだろうな…とは思いますが。

富永:概念ですか、なるほど。それを言うなら、私たち2人は「イメージ」と「言葉」と「概念」を自由に行き来できるという点で共通していて、だから話が合うのかもしれません。

世の中の構造って、大きく分けると「イメージ」と「言葉」と「概念」の3階層になっていますよね。例えば、「猫」という「言葉」があります。この言葉は「俺が飼っている猫のミケ」とか、「サザエさんに出てくる(猫の)タマ」とか、「あの子は、猫みたいな女の子だよね」…などという文脈の中で使われます。

富永の飼っているミケと、サザエさんのタマは、2つに共通しているのは四つ足で髭があり、にゃーとなく動物である、ということは共通していますが実在するかしないかという点において全く違うものですよね
これが「猫みたいな女の子」になると動物ですらなくなります。

何が言いたいかというと「猫」という言葉は複数の「イメージ」の集合であり、イメージの数やバリエーションは時の経過とともに増え、言葉は進化する、ということです。
これを一般化すると「言葉」は「イメージ」の上位概念であり、言葉が指し示し得るイメージの総量は基本的に増大していくので、辞書のコンテンツは先験的に決まっているものではない、ということになろうかと思います。

さらに、その「言葉」に別の「言葉」を組み合わせて、今までなかったイメージの集合に対して別の表現で言い当てたものが「概念」。例えば「猫」という言葉と「カフェ」という言葉を組み合わせると、猫とカフェのそれぞれどのイメージを切り取ってくるかによって、トトロに出てくる猫バスが飲食店になったような「猫カフェ」や、猫と戯れることができる現存の「猫カフェ」などという概念が考えられます。つまり「イメージ」の上に「言葉」があり、その上に「概念」があるわけです。

イメージから概念までの話が長くなりましたが、音部さんと話していると、イメージのレイヤーからいきなり概念のレイヤーにジャンプしても、すんなりと伝わる。そこが、似ているのかもしれないですね。

音部:昔、テレビ番組の人気コーナーに「ご長寿早押しクイズ」ってありましたよね。イメージからの連想で、最終的に何の話だったかわからなくなっていくところがユーモラスなわけですが、実は日常のビジネスの世界でも似たようなことって起きていることがあります。

――お二人の思考が似ているところはわかりました。だからこそ二人は意思疎通がしやすいのだと思いますが、たとえばこれまで多くの会社で部下に対して指導する機会も多かったと思います。似たような思考をするお二人は、部下とのコミュニケーションに共通点はあるのでしょうか。

富永:ハイコンテキストなコミュニケーションですよね、音部さんも私も。そういう思考であるとかコミュニケーションのスタイルを、他者に教えるのはちょっと難しいかもしれません。でもトレーニングみたいなことはできるかなと思います。
例えばKJ法を使って、アイデアを収れんさせ、再度メタ思考で捉えなおす。その行き来で緻密なイメージから概念までを行ったり来たりできるようになることはあるかもしれないですね。

あと、これに類する形でよく部下に指導をしていたのが、アウトプットから意図を想像させるトレーニングです。広告を見て、クリエイターは何を考えてつくったのか。そのクリエイターに指示をしたプランナーは何を考えてクリエイターに指示をしたのか。その前段階で、クライアントはどんな指示を広告会社に出したのか? 社内で営業はどんな希望をマーケティング部に伝えたのか?などなど。関わる人の意図について、それぞれの人の立場に立って、感情移入をして考えるのはよいトレーニングなので、よく意識してやっていました。

音部:概念だけで意思疎通がうまくいけば、場合によっては意外とローコンテキストになるのかもしれませんが、いずれにしてもトレーニングはありそうです。私も、現象からリバースエンジニアリング的に意図を推し量るトレーニングはよく課していました。他社なり競合なりの活動を観察しつつ、「それは戦略が完璧に実行されて、理想的な状況にある」のだと仮定すると、活動の意図や戦略はどのようなものであるはずか、を考えてみる方法です。
競合他社の活動を必要以上に恐れる会社もあれば、まったく気にしない会社もありますが、そのどっちが良い悪いということではないように思います。むしろ、「どんな状況をもたらす、どういった意図がありそうか?」を推察できることが大事だと考えます。

このエクササイズをすると、自分たちが予想した競合の目的と資源が間違っている可能性に気づきやすくなります。相手の目的や資源がわからなければ、必要以上に競合を恐れたり、逆に侮ったりしてしまう。目的と資源は、非常にシンプルなことであるにもかかわらず、これを考えることで思考実験だったり、戦略の妥当性だったりを見つめなおすうえで、有効なのです。

富永:人には自分が持っている知識や情報を基準に他者の心理状態を判断してしまう、自己中心性バイアスがあるので、マーケティング戦略においても自社や自分のことを絶対視してしまいがちなところがある。でも、音部さんは相対ベースのものの見方というか、関係性を想像した視点のコントロールみたいなことができる人ですよね。

音部:富永さんも同じだと思います。

次ページ 「「自己中心性バイアス」から抜け出し、相対ベースのものの見方を身に着ける」へ続く