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TBSのブランディングプロジェクトに見る、コンテンツ企業のブランドデザインとは?

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情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部。月刊「宣伝会議」編集長の谷口が同部で講義を担当することから、受講する学生の皆さんと編集コンテンツの企画から制作までを実地でチャレンジ。

今回は2021年に70周年を迎えたのを機に、新たなブランドデザインを策定したTBSを取材。形のないコンテンツを生み出す企業におけるブランドデザインとは、さらに放送局のビジネス領域が変化をしていくなかで、新たなブランドデザインにどのような想いが込められているのでしょうか。

ブランドデザインプロジェクトをリードしてきたTBSホールディングス 総合プロモーションセンター長の吉田裕二さん、総合プロモーションセンター ブランドコミュニケーション戦略部長の松原貴明さんに情報学環教育部で学ぶ、上野菜津・平松優太・東出りさが話を聞きます。

写真左から、吉田裕二さん、松原貴明さん。

「放送局」を取り巻く変化を受けて、ブランディングに注力

――開局70周年を1年後に控えた2020年を機に、TBSでは新しいロゴの策定など、ブランドデザインを強化したと聞きました。なぜ、いまブランディングに力を入れることになったのですか。その背景をお聞かせください。

松原:さかのぼること2015年に、テレビ開局60周年のキャンペーンの企画・実施のために社内から横断的に人が集められて、30人ほどの委員会が作られました。
それまではキャンペーンキャッチコピーなどは、広告会社などにお願いするケースが多かったのですが、60周年のキャンペーンの際には、社内のプロジェクト内で作業をすることになり、自分たちで考え、手を動かす中で、改めて本質的なブランディングの大切さに気付き、意識や課題感を持ったという側面があったと思います。

そこで、私たちTBSには明確な企業理念などが存在していないという事実に目を向けることになりました。

それは、それまでテレビ局のビジネスモデル的に、競合となる存在が民放他社以外に、ほぼなかったため、いかに他局よりも視聴率を獲得できるか、だけに意識が集中していた面があると思います。しかし60周年のプロジェクトの頃は、ちょうどテレビを取り巻く外部環境が少しずつ変化を始めた時期でもあり、このタイミングで改めて企業としてのブランディングをしっかりとしていこうという話になったのです。

吉田:その頃の時代背景で言うと、配信サービス事業者など、動画コンテンツを提供するプラットフォームが増えて、それまで当たり前にみんながテレビを見ていたのが、可処分時間の奪い合いになり始めていた時期でした。それまでは、他の放送局という限られた人たちとの競争だったのが、ライバルが増え、「我々は何のために存在するのか?」を改めて見直す必要が生まれたのです。

松原:ブランディングを考えるうえでは、まず「TBSはどんな風に見られているのか?」を理解することが必要です。私たちは定点で、局に対するイメージ調査を実施していますが、TBSは総じて“悪い印象もなければ良い印象もない”という結果が出てきます。これも60周年の委員会の中でも問題になったことでした。「報道のTBS」「ドラマのTBS」と言われた時代もありましたが、今は良い意味ではバランス型、悪く言えば中庸になってしまっているという問題意識もありました。

――60周年のキャンペーンの際に広告会社に頼まずに、社内の委員会で進めていったという点が興味深いのですが、なぜ外部に頼まないことにしたのですか。

松原:予算の問題もありましたが、一番はブランディングは、自社のことなので、中の人が考えるべきだと考えるに至ったからです。

広告会社には確かにブランディングに関するフレームワークやスキームがありますが、ブランディングとはそれぞれの企業ごとに手段や正解が異なるものではないかと思います。それならば時間がかかっても社内で議論して考える必要があると考え、外部には依頼しないことになりました。リサーチ段階では色々な人の話を聞くこともありましたが、最終的には自分たちでできるところまでやってみようということになり、現在まで続いています。

「中の人の」意識が変われば、生み出されるコンテンツに“らしさ”がにじみ出る

――2020年に発表した、リブランディングのコンセプトについてお聞かせください。

松原:それまでブランディングなんて考えたこともない人たちで集まったこと、またTBSは個性が強いクリエイターの集まりであることから、みんなの考えているTBSの強みを集約するなかで、コンセプトを決めていくとよいのではないかと考えました。そこで、まずはフラットに全社員を対象にアンケートを取りました。

その回答から①総合メディア戦略の強化として、「変化」することや、②「未来」「世界」志向、③番組を強化すること、「つくる」こと、④あらゆる競合に対して挑戦していく、⑤報道機関としての情報の即時性と正確性、信頼性 といったTBSならではの要素を抽出することができました。これらを網羅的に整理してコンセプトに据えることになりました。

また、未来を見据えて、従来の放送局というイメージだけでなく、様々なことにチャレンジする総合エンターテイメント企業というイメージに転換していくこともリブランディングの重要なポイントになりました。

吉田:私たちには自分たちが取材して、裏取りして、正確な情報を国民の皆さんに教える報道機関としての責任がある。今、エンターテイメント企業としても報道機関としてもさまざまに競合がいる中で、「最高の時で、明日の世界をつくる。」というブランドプロミスに①から⑤の思いをこめています。


新しく設定されたTBSのブランドプロミスである「最高の”時”で、明日の世界をつくる。」を体現したロゴ。

――放送局には視聴者だけでなく、広告主など複数の顧客がいると思いますが、今回のブランド戦略の対象者はどのように設定していますか。

松原:放送局は「BtoBtoC」モデルの構造なので、BとC両方にTBSの存在意義や約束を発信していくべきだと意識しました。

また広告主や広告会社といったB、視聴者というCだけでなく、インナー向けのブランディングも大切だと考えています。強力なホームランバッターが多くいるのがTBSの強みだと自負しているのですが、それゆえ個が立ち、組織全体の方向性は明文化されていないところがあります。現時点で、それぞれの社員がTBSらしさを理解していないわけではないのですが、それを明文化して、再度認識することで、その意識はコンテンツにも滲み出てくるのではないかと考えています。

今回、ロゴを作っていく過程も、「中の人」に対する重要なブランディング活動になったと思います。

吉田:今回のプロジェクトが始まるにあたり、社内で使われているロゴを調べたところ、いろいろなデザインが存在してしまっていた状態でした。TBSとして統一的なロゴの規定が必要と考え、最終的に6チャンネルを表す66.6度と、直角からそれを引いた23.4度、地球の地軸をイメージしたデザインを作成しました。青という色にもこだわりを持っています。

66.6度と23.4度にこだわったロゴのデザイン。

放送局のコンテンツが拡張する時代に、いかにTBSを視覚的に存在づけるか?

――ロゴの浸透に際して、重きを置いたポイントはありますか。

吉田:社員の名刺だけでなく社屋の看板、備品、中継車までも古かったロゴを全部新しく張り替えました。また指定の色も徹底させてリブランドサイトも構築しています。

松原:TBSのサービスに触れたときにロゴやカラーも一緒にイメージされることが重要だと思っているのですが、これがなかなか難しい。コンテンツが溢れる時代に、いかに視覚的にも、TBSという存在を印象付けていくか。どんなに良い番組を作ってもそれが他局のものだと思われたら一巻の終わりですから。

ただ、「逃げ恥はTBS」という情報は視聴者からすればあまり重要ではないのですよね。ですが、放送だけでなく、インターネット上にもコンテンツが配信される時代には、特にコンテンツとステーションイメージの紐付けが今後の課題になってくると思います。

――他のテレビ局との差別化や参考にしたことはありますか。

松原:他局にはない色味の強さは強く意識しました。我々は基本的に映像を作る会社ですのでカラー印刷で使われるCMYKではなく光の三原色、RGBで作ったビビッドな色を選定 しました。紙媒体にすると再現性が低いという難点もあるが映像の会社として「映える」ことを最重要視し追求しています。

吉田:TBSはテレビ局ではなくラジオ兼営の「放送局」。ここが他の民放と違うところで「他局」というよりネットメディアも含めたコンテンツ会社全体を参考にしました。

――実施後の反響はどうでしたか。

松原:反響は大きかったです。新しいロゴになったことで、今まであまり意識をしていなかった社内の人にとっては「レギュレーションを守らなければ」という意識が格段に増えました。

社外の反響でいえば、各方面でさまざまなリアクションを耳にします。良いか悪いか、好きか嫌いかではなく、皆様がどれだけ目にして、印象に残るかが重要だと思っています。浸透という意味ではまだまだ道半ばですが日々、施策を考えながらこれからも頑張っていきたいです。