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人的資本が注目される背景は? 期待される社内コミュニケーションとは

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労働力をコストと捉えるのではなく、人へ投資し、企業の持続的な価値創造につなげようとする考え方が広がっています。従業員を人的資本と位置づけ、適切に投資しているか、情報開示も求められる中、社内コミュニケーションを担う広報担当者に期待されることは何でしょうか。社会構想大学院大学 学監・実務教育研究科長の川山竜二氏に聞きました。※本稿は2022年7月号に掲載の記事をダイジェストで掲載します。

Q人的資本への投資が重視されるようになった背景は?
A アイデアを創出するのは人。投資対象として人材に重点を置くように。

人的資本が重視されている根底には、ビジネス構造の大きな変化があります。企業における価値の源泉が、工場などの物質的なものから、知的財産やブランドなど、非物質的なものへと移行しているのです。一部の製造業では、工場を持たず、製造を委託し、製品の企画やブランド管理などに特化しています。つまり、アイデアやクリエイティビティが、これからの企業の成長に欠かせないわけです。それをつくり出すのは人間の頭脳。AIにはできません。だからこそ投資対象として、アイデアを創出できる人材に重点を置くようになったのです。

日本は人的資本への投資が遅れていると言われます。世界経済フォーラムが発表している国際競争力ランキングを見ても、研究開発分野に比べ、従業員の教育・訓練分野が低いことが分かります。外国人投資家が多い日本企業は、教育・訓練費を増やしているものの、さらなる投資が求められています。

加えて日本は、超高齢社会です。自ずと、人生において仕事をしている時間が長くなります。入社したときに使えていたスキルが、何十年後かに使えなくなる、といったことが起きるわけです。別のスキルへと切り替えられるよう、従業員の教育を行い、長く働いてもらえるよう保障する。それが企業の役割になってきています。

また、年齢、性別、国籍、人種、障害の有無などにかかわらず、多様な背景を持つ従業員を受け入れていくことも、企業の社会的な責任に。多様な人材がいればイノベーションが生まれやすい環境になることから、人材の割合を数値化するなど、情報開示が求められています。

一方、若い人については、給料や昇進といった「外的報酬」だけでなく、仕事そのものにやりがいを感じたり、能力を身につけていく「内的報酬」もふまえて、働きがいと捉えられています。従業員が進みたい方向と企業の理念が一致していると、働きがいは高くなる傾向がありますから、その人の行動と企業の理念がリンクしているかもポイントです。ですから人材を重視するとなれば、理念に基づいた経営も、より力を入れていくことになるでしょう。

企業理念によって必要とされている人材も異なりますので、「我々の会社は、こういった方向性で進んでいきますから、こうした能力を得られる教育を強化していきます」といった社内のコミュニケーション活動は、人的資本の価値を高めていくために非常に重要です。

Q 人的資本の情報を開示する企業のメリットは?開示の進め方は?
A 自社の強みとなる部分から情報開示を。

情報を開示するメリットは、「この会社は、人を重視した経営をしているな」ということが目に見えてステークホルダーに伝わる点です。

人的資本にまつわる指標には様々あります。「従業員一人当たりの研修受講の状況」のように人材育成に関わるもの、「中途採用者をどのぐらい管理職に登用しているか」といった多様性に関する項目、「従業員エンゲージメント」などの組織風土に関するもの、「労災の件数」のように健康・安全にかかわるものもあります。

人的資本にまつわる様々な指標がある中で、どういった指標を開示していけばいいのかについては、これからルールの整備が進んでいくところです。ですから開示ルールに関する動きに注視しつつも、「自社はこの部分が誇れる」というところを選びとり、数値化したり、情報開示したりを始めていくのがいいのではないでしょうか。

人的資本の考え方は欧米が先行して進んできました。そこにはダイバーシティの問題があって、人種や宗教など、多様な考え方を持った人を採用しているかといった指標にも力点が置かれています。日本企業が、同じように指標に落とし込むのは大変な部分もあるかもしれませんが、教育訓練費の開示など、できるところから始めてみてほしいです。

また従業員の健康管理に強みを持つ企業もあるかもしれません。もともと日本は良くも悪くも人材を丸抱えし、メンバーシップ雇用をしてきました。そこが、ジョブ型で仕事を管理してきた欧米との違いです。

職場健診は法律上の義務になっているように、昔から健康経営の萌芽は日本にあり、今は働き方改革とセットで、メンタル面を含め健康な状態で仕事ができるよう、専門に特化した産業医を導入したりする動きもあるでしょう。自社の強みを改めて見極めてみてください。

人的資本の情報開示をめぐる動き

●2018年12月:国際標準化機構(ISO)が人的資本の情報開示に関するガイドライン「ISO30414」を公開。11領域の指標を設定。

●2020年8月:米証券取引委員会(SEC)は「人的資本の情報開示」を上場企業に義務づけると発表。11月から義務化。

●2021年6月:東京証券取引所が改訂コーポレートガバナンス・コードを公表。人的資本に関する項目が盛り込まれ「分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」などとした。

●2022年夏:内閣官房は人的資本に関する情報開示の指針を策定する予定。人材育成や多様な背景を持つ人材の採用状況などの開示を促すと見られる。

Q 人的資本の価値を向上するために、どのような社内コミュニケーション施策が重要になってくるでしょうか?
A 多様性推進なら、なぜそれが大切なのかが分かるコンテンツを。

例えば「働きがい」を高めていくには、「いろんな職種の方が、こんなふうにやりがいを感じています」と社内報などで発信していくことができるでしょう。「この仕事なら、自分の能力を発揮できるかもしれない」と社内報を読んだ従業員が気づくきっかけにもなります。「こんなに活躍している」といったキラキラしたものを見せる必要はなく、人それぞれの「仕事でのやりがい」を伝えることを意識するといいと思います。

また「多様性のある採用を重視していく」方針だとしたら、「多様性がなぜ重要なのか」が実感できる広報をしていく必要があるでしょう。同質的な人ばかりが集まると、物事の見方が一緒になってしまい、企業に発展性がありません。自らが見えていない部分すら気がついていないこともあります。

例えば外国人従業員なら、日本人とは異なる観点から光を当て、見えていなかったものを見せてくれるでしょう。社内報で、「このテーマについて、この人たちはこのように考えている」といった、異なる意見を対比して載せてみるのもいいでしょう。「自分たちは、こんなに視野が狭かったのか」と、読者が気づいて、従業員各々の視野が広がり、イノベーションが起きやすくなる環境づくりができれば、大きな強みになります。

続きは……『広報会議』2022年7月号本誌で。「教育・研修を受ける従業員をこれまでよりも増やす方針があるときの社内コミュニケーションのポイント」「人的資本の価値を向上するにあたり、広報に期待される、社内ネットワークづくり」などについて解説しています。

社会構想大学院大学
学監・実務教育研究科長
川山竜二(かわやま・りゅうじ)

専門は社会理論、知識社会学、専門職教育。「社会動向と知の関係性」から専門職大学、実務家教員養成の制度設計に関する研究と助言を多数行っている。また教育事業に関する新規事業開発に対するアドバイザリーも行う。

 

広報会議2022年7月号

特集
多様性・健康の推進で組織活性 社内コミュニケーション


GUIDE 戦略的「健康経営」
従業員の健康は重要な経営資源、浸透の要に広報の力
新井卓二(山野美容芸術短期大学 教授)

CASE1 ジャパネットホールディングス
心も体も健康に、働き方改革が満足度に貢献
トップの本音が伝わる社内SNSを活用

CASE2 千葉銀行
トップメッセージで当事者意識を醸成
D&I推進のために理解・対話・実践を徹底

CASE3 フジワラテクノアート
仕組みを機能させるには人間関係の質
“チャレンジできる”環境づくりを

CASE4 大橋運輸
従業員の意識を変えるには、知識を高めること
ダイバーシティ推進と健康経営の相乗効果も

COLUMN 人的資本の情報開示
企業ごとの“重みづけ”こそが肝
リンクアンドモチベーション ほか

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