メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

KPI設定、その前に。何のために広報活動をしていますか?

share

組織を取り巻く情報を正しく伝え、関係構築をしていく広報活動。その範囲は、SNSの浸透などを背景に拡大し続けています。何をどのように評価していけばいいのか。「広報の評価を進化させる効果測定研究会」第1回では、14社18名の広報担当者と専門家が集まり意見交換を行いました。

※本レポートは広報会議2022年10月号より転載しています。

グループディスカッションでは各社の効果測定の現状と課題について意見交換した。

宣伝会議は「広報活動の効果測定」に関して、様々な立場の広報担当者と議論するプロジェクトを発足しました。「広報の評価を進化させる 効果測定研究会」と題し、半年にわたり、誌面で活動報告をしていきます。

第1回研究会には、アドビ、GMOペパボ、J‐オイルミルズ、ジャパネットホールディングス、スープストックトーキョー、スギ薬局、スクウェア・エニックス・ホールディングス、セコム、デロイト トーマツ グループ、東急建設、ハピネット、ファクトリージャパングループ、ファミリーマート、ファンケル(五十音順)の広報関連部門の担当者が参加しました。

また広報人材を育成する社会人向け大学院、社会構想大学院大学のコミュニケーションデザイン研究科 専任講師 橋本純次氏をゲストに迎え、ボードメンバーとして、広報の効果検証プラットフォームを開発・販売するプラップノードが参加しました。

KPIで分かることの限界

研究会の前半では、議論に先立つ前提の共有を目的として、橋本氏が「広報のKPIを考える前に知っておきたいこと」をテーマに講演しました。

「大学院の門を叩く企業の広報担当者の方に、所属する組織における広報部門の位置付けを聞くと、社長室直下のこともあれば、総務部門の中にあったり、経営企画を兼ねていたりと様々です。つまり、何をすれば広報が成功したことになるのかについては、その組織によってまったく異なります。ですから『広報のKPIを探求したい』という意思を持って入学した院生に対しては、まずこう問いかけています。『KPIは、何のために必要なのですか。その目的は、KPIを設定する以外の方法で、達成できないのですか』。例えば、経営層に対して、広報の価値を納得してもらうためにKPIがほしいなら、それはトップとの密なコミュニケーションで解決したほうが近道かもしれません。何のためにKPIが必要なのかが固まっていないまま、簡単にとれる指標に飛びついてしまうパターンが実は多いのです」と橋本氏は指摘します。

広報業務を効率化し広報企画を改善するためのKPIなのか、営業支援の効果を捉えるためのKPIなのか、生活者からの自社評価を知るためのKPIなのか。目的に応じて可視化するべきデータは異なってきます。

「SNSであればフォロワー数、リリースであれば掲載数など、効果測定の指標は多様に存在します。しかし万能薬ではありません。KPIを可視化して分かるのは、そこで設定したことだけ。効果測定の限界を理解する必要があります。そのうえでKPIを設定し、広報活動に役立てていくならば、あなたの組織のトップは広報活動に何を期待しているのか、どのような経営課題を解決しようとしているのか、広報活動がうまくいっている状態とはどういう状態を指すのか。こうしたことから逆算して設定することになります」。

 

テクニックでは立ち行かない

橋本氏の講演は広報担当者を取り巻く「情報社会の現在地」にも及びました。

「情報という言葉の出自から考えると、それは本来『不確実性を減らし行動を決める手がかり』という意味を持つ概念といえます。しかし現代では、摂取できる情報の量が莫大になりました。人々は何を信じればいいのか分からなくなり、結果として社会に無関心になりつつあります。そのメッセージが本当のことを言っているかよりも、世の中でウケるかどうか、『いいね』が何件つくか、といったことに評価軸がシフトしているのです。つまり情報の正しさが必ずしも価値を持たない世の中になっています」。

そうした情報社会において、企業価値を上げるような広報活動を行うにあたっては「SNS投稿のクリック率を上げる方法」のようなマニュアルだけでは乗り切れないと橋本氏は言います。

「不確実な情報社会の中で、広報担当者に求められるのは、自社の組織がどういう位置付けにあり、どのような目的で広報を行うのか、その最適な方法を考え続ける能力。その拠り所になるのは、自社の理念です。組織経営の中に広報を位置付け、理念を基軸にステークホルダーと関係づくりをしていく。広報部門が情報のターミナルとなり、メディアリレーションを担うだけでなく、経営課題を解決する提言をし、コミュニケーション戦略を策定、実行する。その中でKPIをつくっていく。もちろん組織によって考え方は異なりますが、経営と表裏一体となったこうした広報活動が、これからますます重要になっていくと考えられます」。

 

数値化のプレッシャー

研究会の後半では、3グループに分かれて
❶広報体制
❷広報部門に期待されていること、広報として目指す大きなゴール
❸現状のKPI、なぜKPIは必要なのか、
について、ディスカッションを行いました。

参加者が所属する組織における ❶広報体制については、社長直下、マーケティング本部に属する、経営企画本部に属する、グループ会社の広報活動を束ねているなど、多様な形態が見られました。

そのため ❷広報部門に期待されていることも「企業価値の向上」「企業ブランドの認知向上」「ファンの増加」「事業部単体では解決できない課題への寄与」「社内外の架け橋」「リスク管理」といったことから、各ステークホルダーとの良好な関係構築を期待する「製品の販売支援」「離職率低下・従業員満足度向上」「株価への好影響」「採用への貢献」といったことまで、多様な視点が提示されました。

それを受け ❸現状のKPIについては、企業ブランドに対するポジティブな論調のメディア露出の数、製品販売に結び付く継続的なメディア露出の数、露出を高めるためのリリースの配信数、メディアコンタクト数、集客につなげるためのオウンドメディアのPV数・サイトへの流入数、公式アカウント投稿へのエンゲージ数、社内報の既読率・社内イベントの参加率など、多種多様なものが挙がりました。また四半期ごとに目標設定を見直している企業や、KPIを設置していない企業もありました。

意見交換では「KPIを設けていませんでしたが、他部門に広報活動の意義を浸透、納得してもらうためにKPIを活用したい」とする声や「他の部署に協力してもらって初めて達成できる目標については、広報がどう貢献したかを切り出して数値化するのが難しい」という声に共感が集まりました。

発表を受け、プラップノードCOOの雨宮寛二氏は「広報の体制や成熟度によって、広報効果の考え方や課題が変わることがよく分かりました。一方で共通していたのは、数値化へのプレッシャー。説得力のある数字を出さないと広報部門の存在意義が問われてしまう。広報の効果測定にまつわる課題には、そうした背景があると感じました」と話しました。

また同CEOの渡辺幸光氏は「KPIは、自社の現状に合わせてアップデートし続けていくもの。メディア露出でいえば、量をとらないといけないステージの企業もあれば、質を見るステージの企業もありました。すべてを数値化する必要はありません。ただ企業ステージに応じて、必要な数値を見極め、簡単に分かりやすく見える化できるようになれば、広報が経営に資する存在となり、広報活動の進化を実感しやすくなるのではないでしょうか」と述べています。

“生きた”KPIを探せ

参加者からは次のような感想が寄せられました。「KPIをまずはつくらなければ、という頭で動いてしまっていましたが、私たちなりに納得できる広報の価値を経営に示せるようにしていきたいです」「報告のための数値は、広報活動の実態を反映しません。意義ある数値ならば、自分たちが取り組む目標になりますし、成果を経営に訴える数値になるはずです」

「社内の情報をしっかりと吸い上げて社外に発信していく、また社外の情報を吸収し社内にフィードバックしていく。組織の真ん中にいることが広報の役割だと考えています。そのために何が数値化できるかを明確にし、アピールしていきたいです」「ブランディングを推進していくために、一旦KPIを設定し達成に向けて策を打ってみる。その後に、解決したい経営課題と現状の乖離を見て、ゴールに向かって進めているかを確かめることで、より生きたKPIが見つかるのではないでしょうか」。

これを受けて橋本氏は「生きたKPIは、その組織のより良い在り方や広報の方向性を議論するきっかけが得られるデータになるでしょう。数字を追いかけるだけのKPIだと、測定しても意味がありません。他社のKPIを真似するのではなく、自社なりの広報の目的やKPIの必要性を、腰をすえて考えてみましょう。そうすれば、そこに対応する方法は自ずと見えてくるはずです。広報とは何か、という根本の思考を止めないようにしてください」とアドバイスしました。

今後、本研究会では、経営課題に即した効果測定の在り方や、集計、レポーティングの仕方など、議論を続けていきます。

広報を進化させる 効果測定研究会
事務局(運営・メディア協力):宣伝会議

ボードメンバー:


プロジェクト参加希望の方はこちらから
広報を進化させる 効果測定研究会事務局(宣伝会議)
houjin@sendenkaigi.co.jp