避難を促す情報と心理、多メディア時代の災害情報の伝え方

迅速な行動喚起が必要な避難指示。その伝達が一刻を争うこともあります。災害情報論の視点から、情報の受け手の心理について、東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 中村 功教授が解説します。
 
本稿は、『広報会議』に連載中の「避難を促す情報と心理」、2022年12月号(11月1日発売)に掲載の記事を転載しています。

警報や避難指示といった災害情報は、危険地域にいる人たち全員に確実に伝達する必要があります。そこで重要なのが伝達メディアです。利用できるメディアには、テレビ・ラジオ、スマートフォン(緊急速報メール・アプリ・SNS)、防災無線、そして消防団員などによる直接の声かけがあります。

メディアミックス戦略

テレビは見ていない人には伝わらない、スマートフォンは高齢者が使いこなせない、防災無線の屋外スピーカーは、荒天時は聞こえにくく戸別受信機は普及が進まない、そして人的呼びかけは都市部では難しいなど、各メディアには一長一短があります。そこでまずとるべきは、重要な防災情報はあらゆるメディアを組み合わせて使うという、メディアミックスの戦略です。

実際、活躍するメディアは場面によって異なっています。たとえば東日本大震災時には、地震に驚いた人がまず屋外に出たので防災無線の屋外拡声器が活躍しました。あるいは2018年の西日本豪雨時には広島市ではテレビが、西予市では消防団の呼びかけが役立ちました。そして2019年の台風19号時には、長野市では緊急速報メールや自治会の呼びかけが、本宮市では防災無線の戸別受信機が役に立っています。インターネット時代だからといって、メディアをそれ一本に絞るわけにはいかないのです。

一方、災害の危険は場所によって全く異なるので、GPSなどの地理情報を利用して、現場に即した情報をピンポイントに伝えるジオターゲティングも重要です。たとえばYahoo! の防災アプリでは、ハザードマップと気象庁の大雨危険度分布情報を重ね合わせて、その場の危険度を知らせる仕組みがあります(「大雨警戒レ ベルマップ」)。  

警報エコシステム

さらに「警報エコシステム(生態系)」の考え方も参考になります。
※ The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, 2018, Emergency alert and Warning Systems, The National Academies Press.

最近はSNSの発達もあり、避難のための情報は、当局からメディアを通じて上意下達的に住民に伝わることにくわえて、住民の間で横方向に伝わったり、あるいは逆にSNSの情報 がマスメディアに取り上げられたりしながら拡散しています。その様子は複雑な生態系の様相を呈していて、それをうまく利用して、統合的に伝えていくことが望まれます。

実際、都内の大学で筆者が担当する授業の履修者146人に2019年台風19号時に役立ったメディアをたずねたところ、最も多く挙げられたのはテレビ(85.6%)で、ついでTwitter(67.1%)、緊急速報メール(58.9%)、LINE(26.7%)、インスタグラム(19.2%)などとなっていました。

あるいはこれは災害以外のニュースですが、2022年7月に発生した安倍元首相の銃撃事件について、担当授業の履修者124名にたずねたところ、第一報を知ったメディアは、Twitterトレンド(32.3%)、LINE(12.9%)、ネットニュース(12.9%)、Twitterタイムライン(10.5%)、直接の会話(8.9%)、テレビ(8.9%)などとなっていました。さらに半数以上の人がLINEや直接の会話でこのニュースを他の人にも伝えていました。

時間帯にもよるでしょうが、現在、若者に情報を広めるにはTwitterのトレンドにのせることが効果的なようです。ただ、大津波警報など多くの人が発信する情報はトレンドにのりやすいでしょうが、地元自治体の発する避難指示など地域限定的な情報はトレンドにのりにくいなど、課題もありそうです。

東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 教授 中村 功

なかむら・いさお 専門は災害情報論。社会心理 学の立場から現地調査を行い、情報・メディア・ 住民心理の関係を研究。主な著作に『災害情報と 避難』(晃洋書房)がある。

『広報会議』2022年12月号

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