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学生も取材するソニーグループの採用オウンドメディアはなぜ生まれたのか

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1991年に「学歴不問採用」を打ち出すなど、採用において先駆的な取り組みを行ってきたソニーグループ。2021年6月に立ち上げた採用オウンドメディア「Discover Sony」では、ソニー社員へのインタビューなどを通じて、多様な同グループの事業やテクノロジーのほか、働き方やカルチャーを伝える記事を発信している。

ソニーグループの採用オウンドメディア「Discover Sony」

求職者に向けた情報発信メディアを立ち上げた経緯について、ソニーピープルソリューションズ 採用部の森下航氏は「外から見たソニーと実際のソニーとのギャップを解消するため」と語る。

「ソニーグループは自由で風通しの良い社風が魅力ですが、当社に興味のない人たちにとってそれはあまり認識されていません。逆に『日系のお堅い会社』いうイメージを持たれてしまっていることもあり、採用における課題があると考えました。もともと採用サイトでは企業概要や求人情報などの定量的な情報を中心とした発信はしていましたが、『ソニーにはどういう社員がいて、どういう思いを持って、どういう働き方をしているのか』という定性的な情報を発信する機会が少なかったため、オウンドメディアで発信していくことにしました」(森下氏)

ソニーピープルソリューションズの森下航氏

主なコンテンツは、現在積極採用中の求人情報から求人票だけでは伝えられない仕事の面白さや職場環境を深掘りする「求人クローズアップ」や、社員1人をクローズアップし仕事にかける思いを紐解く「一人ひとりのPurpose」など、毎月約6本ペースで更新。現在までで約100本の記事を公開中だ。

学生インターン生が企画から取材・執筆を担当

「Discover Sony」の最大の特徴は、現役大学生や大学院生による取材記事「大学生から見たソニー」シリーズだ。先述したコンテンツは採用部を中心に取材・執筆を行っているが、本シリーズは5人のインターン生が企画から取材、執筆まで担当している。学生の起用については、マスコミ・広告などへの就職を目指す学生向けのサービス「マスナビ」(マスメディアン)の協力を得た。

学生取材記事は、「ソニーグループの採用オウンドメディアとして重要視する『第三者目線』を担保する重要な要素」と語る森下氏。採用担当者がソニーの魅力を語っても、求職者には「きれいごとを言っているだけ」と捉えられてしまう可能性は高い。学生インターン生が第三者の目線で見たソニーの姿を発信することで、情報の信頼性が高まるということだ。

学生取材記事のメリットはほかにもある。学生インターン生は、本来であれば就活生として採用メディアの情報を受け取る側でもある。求職者が知りたい情報や社員が気がつかないソニーの魅力など、学生ならではの視点の記事を作成することができる。

その一例が「ソニーの採用は『感動』を実現できているのか?」の記事だ。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というPurpose(存在意義)を掲げているソニーグループだが、本当に社員に浸透しているのだろうかという学生の疑問から発した企画という。記事では、新卒採用においても「感動」が実現できているのか、新入社員(取材時点では内定者)4人に実際の就職活動での経験などをインタビュー。PV数を同メディアでトップを誇るなど大きな反響を得ている。

また、「就活の『志望動機』や『自己PR』、実際会社でのキャリア形成に役立っている?」の記事は、「誰しも必死でエントリーシートの『志望動機』や『自己PR』を書いているものの、会社に入ってからその思いや考えはどの程度実現されているのか」という疑問点から生まれた。本記事は学生からの注目度も高く、ソニーの採用チームが運営するSNSからの流入も多い。

学生の素朴な疑問をぶつけた記事が好評

「採用担当者は、どうしても充足させたい部門の記事作成ばかりを考えてしまいがちですし、内部の人間が社員にインタビューをしても内輪感が出てしまいがちです。学生インターン生たちは、一見すると採用に関係が無さそうでも、最終的には採用のトピックに落とし込めるような企画を提案してくれます。これは、会社に染まってない学生ならではの視点ですね」(同)

ソニーが就職先の候補に入っていない「潜在層」にアプローチ

このような記事を発信していくことで、どのような層を採用したいと考えているのか。ソニーでは求職者を、ソニーで働くことに興味がある「潜在層」と、ソニーが就職先の候補に入っていない「顕在層」とに分けている。「Discover Sony」が担うのは、潜在層へのリーチだ。

「採用市場の競争は激化しており、ソニーのネームバリューだけで『入りたい』という求職者は年々減少傾向にあります。我々が今特に採用で力を入れているのが、ソフトウェア人材や理系女性です。このような潜在層に対してアプローチしていくことで、『ブランドの知名度は高くてもソニーで働くイメージを持っている人が圧倒的に少ない』という課題を解消していければと考えています」

また、「Discover Sony」のKPIは再来訪者数の最大化に重きを置いている。「採用オウンドメディアは、最大の目的である“入社”との距離感が大きいです。オウンドメディアを見た人がすぐにアクションを起こしてくれるわけではなく、何度もサイトを訪問することで徐々に『応募してみようかな』と態度変容が起きる。そのため、短期的な指標やPV数をKPIにするのは正しいアプローチではないと考えています」

運用から1年余りで、手応えも見えてきた。2023年卒の内定者に対して「『Discover Sony』の認知度」「実際にどのような態度変容が起きたか」といったアンケートを実施。回答者からは「新入社員がどのように過ごすかのイメージが具体化され志望度が高まった」「ソニーで働く将来を想像することができた」「インターンに参加しなかったが、社風を知れて良かった」などの声が挙げられた。

「コロナ禍で会社訪問の機会が減り、具体的にその企業で働く姿が想像しにくくなっています。一方で、就職先を決める最後の一手として重要になっているのは『どういった働き方ができるのか、どういった人が働いているのか』というカルチャーの部分。『Discover Sony』がソニーの風土やカルチャーを発信できる場として、今後もより活用していければと考えています」