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やる気と情熱とアイデアを持つ人が世に出る場 MACA大座談会

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「Metro Ad Creative Award(MACA)」の審査員を務める木村健太郎氏と八木義博氏が、2021年のグランプリ受賞者を交え、屋外広告や交通広告が持つ本質と、「意味ある広告」のためのポイントを明らかにしていく。受賞した応募作の評価点や、受賞者らがコンペに挑んだ思いにも迫った。

「スペチェン」と「俳句」

木村健太郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル エグゼクティブ クリエイティブディレクター)
木村健太郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル エグゼクティブ クリエイティブディレクター)

木村健太郎 屋外・交通広告って、広告の原型ではないかと思うんです。人が行き交う場所で体験を作る、というシンプルさが、その理由。だからこそ、アイデアと情熱があれば、誰でも携われます。僕自身、ストラテジックプラナーからクリエイティブへ転身するときに最初に手がけたのが屋外広告でした。

「MACA」には、プロはもちろんですが、広告の仕事を始めて間もない方、広告業界外の方、高校生などの学生の方と幅広い応募者があることも、それを示していると感じますね。

八木義博氏(電通 zero エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/アートディレクター)
八木義博氏(電通 zero エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/アートディレクター)

八木義博 第4回から第5回にかけ、応募数が約1.5倍になったと聞きました。木村さんのおっしゃる、屋外・交通広告が持つ本質的なシンプルさが広まってきているのかもしれません。

現在は、多くの人が接触するメディアとしてスマートフォンがあり、デジタル広告が拡大しています。しかし、スマホはターゲティングが前提ですが、屋外・交通広告は日常生活の中で、メッセージに偶然ふれる、という点があります。

言い換えれば、多様な背景、気分、状況にいる人々を横断できる力があるということです。私は、この点はいまの多くの広告において忘れられてしまったのではないかと思うんです。

街にも電車にも、ハッピーな気分の人もいれば、落ち込んでいる人もいます。特定の属性で、特定のニーズを持っていなければ効果がないのではなく、広告にはもっと根本的な、普遍的な部分に届かせる力がある。それを最も示せるのが、屋外広告、交通広告ではないかと。

木村 八木さんの言うとおりですよね。場所から考えることもできると思います。誰もが見慣れた、言ってしまえば退屈で記憶に残らないような場所が、ある日、広告によって輝くようなことがある。そうした驚きって、細かな違いを飛び越えてくれますよね。

普段は見過ごしているような場所を、スタジアムや美術館にだって変えられるのが屋外・交通広告です。僕も以前、新宿の地下をジャングルに変える企画を実施したことがあります。イメージチェンジならぬ、〈スペースチェンジ〉。〈スペチェン〉は屋外・交通広告の面白さだと思いますよ。

もちろん、生活者と、広告を出す企業やブランド、そしてスペースの三者がWin-Win-Winになっていなければなりません。逆にバリューダウンするなら、それは広告が街を汚していることになってしまいます。

逆に、生活者にとって、発見があったり、気持ちが上向きになったりといった価値があれば、企業やブランドへの好感度はもちろん、その場所自体の見方も変わる。MACAで言うなら、このトライアングルの中で、東京メトロを〈スペチェン〉してバリューアップすることがポイントですね。

八木 東京メトロには、たとえば「銀座線は都会的」など、沿線の個性が各路線のイメージにも反映されている側面があります。そこから、いい意味での意外性を持たせるのも、面白い企画になるかもしれない。

デザイン部門のテーマは中づりポスターなんですが、そもそもメディアとしてユニークだと思います。電車は密室、部屋に入る感じがするんですよね。中づりは、パブリックな一つの空間をみんなで共有しながら、パーソナルに鑑賞する性質がある。

よく美術館では、部屋ごとに展示テーマが区切られていることがありますが、車両をそれに見立てることだってできるかもしれない。そうした、中づりポスターならではの企画が求められていると思います。

中づりポスターは昔、「読ませるメディア」と言われていました。でも時代が変わって、「読ませるメディア」はほかにも出てきました。あの場所だからこそ、あのスペースだからこその意味がある企画が必要です。

木村健太郎氏

木村 僕は中づりポスターを「デザイン部門」にしているのも面白いと思っていて。というのは、中づりは場所もサイズも決まっているスペースですよね。ルールが厳しければ厳しいほど、クリエイティビティ(創造性)は発揮されます。

たとえば俳句は、五・七・五という文字数の規定があって、必ず季語を入れなくてはならない。それにもかかわらず、400年近く、独創的な作品が生み出され続けているわけじゃないですか。

車両内という密室で、ほかに目を向けるものもあって、その中で、1枚でどう心を掴むか。まさにデザイン部門は俳句のような戦いと言えるのではないでしょうか。

僕が思うのは、車両内というのは目的のない時間を過ごす場所。多くの人は仕事や学校へ行くためとか、人と会うためなど、ある目的のための手段として駅を訪れ、電車に乗る。そのこと自体が目的ではない。中には「乗り鉄」という、電車に乗ることが目的の人もいるかもしれないけど、それは例外的。

だからこそ偶然の出会い、予想外の出会いが、より際立つんじゃないかな。期待していないからこそ、偶然の出会いで人生にちょっとしたドラマを生み出せる。それが電車や交通広告の良さ。

八木義博氏

八木 なるほど。僕の経験からすると、屋外・交通広告は、定期的に掲出するとインタラクティブになってくるという感覚もあります。こういうものを出すと見た人はこう反応する、じゃあ今後は、と期待に応えたり裏切ったりする。そういうキャッチボールは、屋外・交通広告でもできるんですよ。

そして、場所のほうからメッセージを投げかけてくるなんて、ふつうは思いません。木村さんのおっしゃるように、見慣れた、見過ごしてしまうものだからです。だからこそ、どんなボールを投げるのか、という点でクリエイティブが必要なんだと思います。

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