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コラム

クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術

プレゼンに驚きや感動はいらない

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【前回コラム】経営者の思考をデザインする

プレゼンはクライアントとの共感軸を確認する場

クライアントが感動するプレゼン、驚くプレゼン。これらのプレゼンはきっと良いプレゼンだったのだと思います。

しかし、プレゼン本来の役割を捉えた時に、プレゼンには別の理想形があるかもしれません。

僕がまだ若手のクリエイターだった頃、プレゼン中にクライアントが驚いたり、プレゼン後に「感動しました」と握手をしてくださったり、クライアントが驚き感動する、そんなプレゼンが良いプレゼンだと思っていました。

いかにクライアントの想像を超えるか、いかに今までのクライアントの常識を破るか、提案の時はそんなことばかり考えていました。

だからこそ、提案まではクライアントにアイデアを話したくはなかったですし、提案はなるべく大々的に、大袈裟にやりたいと思っていました。何より、クライアントがクリエイターに期待していることは、自分たちの想像を超えるアイデアだと思っていました。

それも間違いではありません。
しかし、独立して経営者に近い立場で仕事をしたり、時にクライアント側でプレゼンを受けたりしているうちに、プレゼンはクライアントとの共感軸を確認する場に過ぎないのだと気づいたのです。

ここで一つ誤解のないように、今回のコラムで対象とするプレゼンの位置付けを説明しておきたいと思います。

今回のコラムでは、競合プレゼンではなく、クライアントのパートナーとしてプロジェクトを動かしていることを前提にします。競合プレゼンに関しては、次回のコラム「競合プレゼンへの向き合い方」で触れていきたいと思います。

決まった方向性を表現するプレゼンに、意外性は求められていない

本コラムの第2回「クリエーションのデザインとアート」で触れているように、クリエーションは大きくデザインとアートに分類できます。

大まかに分類するとデザインは戦略であり相手との対話、アートは表現であり自己の主張です。

デザインはクライアント側が主であり、クリエイターはクライアントの思考と融合し、同じ方向を向きながらアウトプットを考え調整していきます。
クライアントは、自分たちの思考をより良い形で表現したいと思っていて、全ての表現は前提となる戦略のコントロール下に置かれます。

一方、アートは制作者が主であり、クライアントからの要望を聞きながらも、制作者側の感性が尊重されます。クライアントは、自分たちの想像もつかない表現や、これまでの枠を超える表現を期待しています。この違いを前提にプレゼンを捉えてみたいと思います。

プロジェクトを共に進めてゆくクリエイティブ・ディレクターとして、クライアントと協働している場合、戦略と表現について対話をしながら進めていく必要があります。

クライアントとは多頻度な対話が行われますが、ここにも当然プレゼンは存在します。戦略に基づいた表現の方向性や、決まった方向性を実際の表現に落とし込むプレゼンなど、これまで対話してきた内容が正しく表現されているかを確認しながら進めていきます。

この場合、プレゼンは「提案の場」以上に「確認の場」なのです。「確認の場」である限りは、これまで対話に出てこなかった表現を提案する事はありえません。クライアントの反応も「良いですね」程度のリアクションになります。

対話のプロセスを経たプレゼンの反応で驚きや感動があるということは、想定外の提案になっているということですから、対話に基づいた提案ではないということです。

つまり、それは良いプレゼンではありません。仮に、瞬間的な驚きや感動があっても、後に冷静に戦略と照らし合わせると良い提案ではなかったことに気づきます。

読者の皆さんの中には、クライアントとオリエン程度の戦略の確認をした後、対話を深めずに表現に打ち込む方もいらっしゃると思います。

しかしそのやり方では、方向性がずれていた場合にロスする時間が大きくなり、結果的に表現を磨く時間がなくなってしまいます。パートナーとしてプロジェクトを進行する限りは、クライアントと多頻度の対話を繰り返し、戦略・コンセプト・表現など、すべて事前に対話をした上で表現へ着手するべきです。そのプレゼンには理解や納得はありますが、驚きや感動はありません。

プレゼンにおいて大切なことは、“何を提案するか”ではなく、プレゼンまでにクライアントと“どのような対話をするか”です。

解像度の高い対話が良いプレゼンを呼び込む

前回のコラム「経営者の思考をデザインする」でも書いたように、クリエイターにとって最も大切な仕事はクライアントとの対話です。

クライアントの思考の根本まで掘り下げ、なぜそう考えるのかを知る。クライアントの考え方が時流と異なるのであれば、クライアントに思考を調整してもらうための対話を行い、クライアントとクリエイターが同じ方向を向くことが大切です。

そして、プレゼンではこれまでの対話を解像度の高い戦略と言葉に置き換え、直感的に伝えるビジュアルを与えて提案する。「つまり、こういうことですよね?」と。

良いプレゼンとは、それまでにいかに密度と解像度の高い対話をしてきたかにかかっています。極論すると、プレゼンという儀式がなくなっている状態、つまり、毎回の対話のなかで小さなプレゼンが行われている状態こそ良いプレゼンといえると考えています。

次回は、「競合プレゼンへの向き合い方 前編」というテーマでお届けします。競合プレゼンでは何が問われているのか。俯瞰的な視点で競合プレゼンへの向き合い方を考えていこうと思います。

こちらのコラム「クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術」は、室井淳司のNoteで記事の背景やスピンアウト記事等も紹介していきます。
室井淳司のNoteはこちらから。