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Z世代座談会「車内放送は、ノイズ?」 “キャンセル”されないマスコミュニケーションの在り方を考える(後篇)

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情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、主に学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部。月刊『宣伝会議』編集長の谷口優が同部で講義を担当していることから、受講する学生の皆さんと編集コンテンツの企画から制作までを実地でチャレンジ。
 
今回は、新卒で鉄道会社に入社、車掌としての乗務経験を持つ、同部で学ぶ福井桃子さんが、自身の課題感をもとに20代の大学生、大学院生を集めた座談会を実施。「車掌による車内放送のアナウンスですら、イヤホンのノイズキャンセリング機能でシャットアウトしてしまう若年層がいる…」という事実をもとに、Z世代の情報収集行動の実態に迫ります!
前篇では、鉄道会社で車掌経験を持つ福井さんの関心領域である「なんで若い人たちは、電車内の車内放送を聞かないのか?」の理由を深堀りしつつ、マス向けのコミュニケーションに対する参加者の意識を浮き彫りにしていきました。
 
後篇では、メディアや情報、コミュニケーションについて学ぶ教育部の受講生たちが、テレビをはじめとするマスメディアに対して、どんな思いを抱いているのかについて福井さんが迫ります。
※本記事の執筆は、東京大学大学院情報学環教育部研究生の福井桃子が担当しました。

マスメディアのビジネスモデルには不信感あり!だから、見ない。

――車内放送は一方的にマスへの情報を相手に押し付けているっていう指摘が出てきたのですが、車内放送とマスメディアに共通点はありますか。

西本:ユーザーがどんどん自分の殻の中に閉じこもっていくっていう点では、車内放送とマスメディアが直面している状況は、同じだと思います。いわゆる全ての人に必要な情報みたいなものって、知らなくても生きていけるので。ソーシャルメディアの中で、自分のフィードで完結すれば、心地良いっていうのは、やっぱりあると思います。

足立:でもニュースだったら、毎日違うものが流れてくるから、車内放送よりは時間を割いて聞いてもよいかもとは思います。

森川:パーソナライズ化されていない分、自分が興味のない情報も流れてくるけど、面白そうって感じるニュースに出会ったら、調べてみるっていうことができますしね。

山川:そう考えると、車内放送もマスメディアも「どうせあるから、必要になったら接触するっていうのでいいや」って思われている気がします。
常にマスに向けた情報が流れ続けていて、各自が必要な情報だけをピックアップしていく。ニュースで言えば、気になるトピックスを見つけたら、検索して調べるし、車内放送で言えば、電車が止まったとかで今の状況が知りたいって思ったら、イヤホンを外して聞くし。ただ、流し続けている情報の重要度は違うと思いますね。物価指数が上がったっていう情報と、次の駅がどこかっていう情報は、重要度が違うので。

西本:そうなると、みんながマスメディアから離れて、ソーシャルメディアばかり見ていることの問題点って、よりメタな視点から見えるのかなと思います。マスメディアは、これまで社会における議題設定をしてきたと言われているけど、みんながソーシャルメディアに行ってしまって、メディア接触が細分化、多様化してしまったから、社会における共通の議題設定ができないっていう部分に問題があるんだと思います。社会にとっての問題の重みが違いますよね。

山川:車内放送の場合、普段は聞きたい人が聞けばよいけど、マスメディアの場合、みんなに接触し続けていて欲しいって思うのは、確かにわかります。

足立:マスメディア離れというところで言うと、車内放送で流れる情報には、それが確からしいものであるっていう安心感があります。いろいろな乗客がいる中で、適切な情報を遍く伝えてくれるっていう安心感。だからこそ、緊急時にはおそらくみんなが聞く。
でも、マスメディアの世論を吸い上げる機能には、そもそも安心感がないです。例えば、マスメディアがつくり上げているU30世代像は、本当に実在するU30世代像なのかとか。だから、マスメディアに「U30世代はこれを見て!」と言われても、「うーん…。」って思ってしまいます。

山川:発信する媒体の信頼性が違うって話ですよね。何が流行っているとか、そういうマスメディアが伝える情報の確からしさに不安があるということ?

足立:そうです。なので、何か伝えたいことがある場合に、「緊急時に車内放送を聞いてくれ!」って言われれば、おそらく聞きますけど、「テレビの特集があるから見てくれ!」って言われても、おそらく見ないと思います。

山川:それは、接触してもらうことが直接的に会社の利益につながるのかどうかっていうところが分水嶺になっている気がしますね。

西本:マスメディアは、見てもらうことが経済利潤になるけど、車内放送はその点は関係ないということ?

山川:そうそう。「車内放送の聴取率が80%だったから、鉄道会社の売上が上がる」とかはないですけど、マスメディアは接触してもらえればもらえるほど、売上に反映されるので。接触し続けてもらうこと自体が目的なのか、接触してもらうことで重要な情報を届けることが目的なのかっていう点では全然違いますよね。

西本:僕もそこの違いは、すごく大きいと思います。見続けて欲しいってなると、もっと面白い番組作ってくださいとしか…。

森川:そうですね。面白い番組を作って、普段から見てもらうに越したことはないと思います。そのためには、今以上にテレビと僕たちの距離を縮めなければなりません。多くの人が毎日接触するTwitterやInstagramのようなソーシャルメディアと肩を並べることができるテレビ発の媒体を生み出す必要があると思います。

西本 知貴(にしもと かずき)さん。

西本:これとまた少し話が変わってくるのは、命の危機に晒されるときですよね。

森川:たしかに緊急時の車内放送とマスメディアって似ているかもしれないと思いました。電車に乗っていて、何かあったときにイヤホンを外して、車内放送を聞くというのと同じで、何か起きたときには、おそらくテレビをつけてニュースを見る。

西本:そう考えると、車内放送と近いのは、マスメディアというよりも公共放送でしょうか。公共放送が緊急地震速報や自然災害について放送するっていうのと、車内放送で電車が止まったときとかに現在の状況だったり、運転再開の予定時間だったりを伝えるっていうのは、似ていますよね。普段は、みんな相手にしないけれど、必要なときにだけ、情報をチェックするっていう。

山川:それはおそらく、車内放送も公共放送も、情報の信頼性が高いから。公共放送の信頼性は、どこの企業からもスポンサーされていないっていうのが大きいと思います。

森川 大誠(もりかわ たいせい)さん。

媒体を超えた情報発信を!確からしい情報は、やっぱり欲しい。

――それではマスメディアが緊急の情報を伝えるためにはどうしたらよいのでしょうか。

西本:公共放送かそれ以外かで大きく分かれるのかな…。どうでしょう?

森川:うーん。報道に対する意欲は、公共放送と民間放送で差はないと思います。おそらくバラエティ番組などに比べて報道番組は利益率が低いと思いますけど、報道で正確な情報を伝えることは、今後を見据えるとすごく重要。なぜなら、何かあったときに「この局は全然報道していなかった」ってなったら、その局は信用度が下がるから。だから、視聴率や利益率に関係なく報道はどの局にとっても重要な位置づけであるはずです。

山川:でも、災害報道って伝われば、それでいいはずなんですよね。僕たちが災害報道から知りたいことは、どの地域の人がどこに避難すべきなのかとかそういうことであって。その情報源は、テレビでなくても別にいいはず。

西本:ラジオもあるし、アプリもある。

山川:それに、Webサイトもある。それこそ、関東全域で大雨が降ったとして、自分の住んでいない地域の情報を聞いてもそこまで意味がなくて。少しずつ必要な情報も細分化されていると思います。

西本:アプリをダウンロードしている人は、災害情報もパーソナライズ化されていて、自分の住んでいる地域の情報を得られる。テレビを持っていなくても、同じような情報は得られると考えると、すでにパーソナライズ化されているのかなと思います。

山川:もちろん、テレビを主要な情報源にしている人は、テレビから情報を得たらいいですし。インターネットを主要な情報源にしている人はインターネットから、ラジオを主要な情報源にしている人はラジオから。

西本どの媒体を使うのかっていうことも、パーソナライズ化したらいいと思いますね。

山川:ただ、それぞれの情報源から、得られる情報の信頼性に差があってはならないと思います。だから、テレビがネットで情報を出すぐらいはしてほしいですね。

足立:本当にテレビがテレビ以外の媒体でも発信してくれたらいいのに。

森川:もっともですね…。民間放送でも、災害報道に対する意欲には差がないとは言いましたけど、ニュース動画配信システムをつくって力を入れている局もある一方で、アプリを含めテレビ以外の分野にあまり力を入れてない局があるという印象も持っています。災害情報をテレビ以外で発信するっていうことについて、意識を強く持っている局と、そうでない局で分かれているような気がします。

山川:経済利潤のことを考えると、アプリとかをわざわざつくって、配信する道理がないのは分かります。でも災害情報は、伝えること自体が目的。今のメディア環境で、確からしい情報を得られるのかっていう課題感があって、発信できる確からしい情報があって、もしテレビ以外の発信方法で利益を上げられる体制が整えられるのであれば、ぜひやってほしいと思います。僕らも、それを望んでいます。

――4人とも、今日はありがとうございました!
 

まとめ

20代の教育部研究生ならではの視点で、車内放送を聞かない理由をはじめとして、車内放送の在り方、通常運転時と緊急時にそれぞれ情報を届けるための改善点を語り合ってもらった。さらにそこから、車内放送とマスメディアを比較し、マスメディアに接触しない理由、マスメディアが抱える問題、平常時と緊急時にそれぞれ情報を届けるための改善点にまで話が及んだ。彼らから導き出されたキーワードは、“パーソナライズ化”であった。マスに対する情報を届けるためには、情報の内容はもちろんのこと、情報を発信する媒体にもパーソナライズ化が必要だという。今後も車内放送を含むマスメディアが“マス”に情報を伝え続けるためには、自身の媒体にこだわらず発信する姿勢が求められるのかもしれない。
 

参加者

・山川 凱生(やまかわ よしき)
東京大学大学院情報学環教育部研究生2年目、東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻修士課程1年。科学を社会に伝えて活かすことに興味を持ち、情報学環教育部に入学。大学院の研究室では、酵素の構造について研究している。

・足立 あゆみ(あだち あゆみ)
東京大学大学院情報学環教育部研究生1年目、早稲田大学政治経済学部政治学科3年。
政治や社会問題について自身で考えさせるための情報発信の在り方を学ぶため、情報学環教育部に入学。一般社団法人NO YOUTH NO JAPANにて、若者へ向けた選挙啓発活動などに取り組んでいる。

・森川 大誠(もりかわ たいせい)
東京大学大学院情報学環教育部研究生1年目、青山学院大学法学部3年。テレビの現状と今後の展望について考えるため、情報学環教育部に入学。課外活動として、テレビ朝日の政治番組アシスタントや国会議員秘書インターンを行っている。

・西本 知貴(にしもと かずき)
東京大学大学院情報学環教育部研究生1年目、東京大学教養学部2年。メディアを理論と実践の双方から語ることができるようになりたいと考え、情報学環教育部に入学。UT-BASEという学内情報集約サイトを運営する団体に所属している。

・福井 桃子(ふくい ももこ)
東京大学大学院情報学環教育部研究生1年目、東日本旅客鉄道株式会社所属。車内放送をマスコミュニケーションとして捉え直すことで、効果的な放送内容、放送方法を明らかにしたいと考え、情報学環教育部に入学。1年半、在来線車掌としての乗務経験がある。