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共感を集めるオウンドメディアの魅力―『オウンドメディア進化論』より

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。
今回は、1月30日に発売した新刊『オウンドメディア進化論~ステークホルダーを巻き込みファンをつくる!~』(平山高敏 著)の「はじめに」の一部を紹介します。

定価:2,200円(本体2,000円+税) 四六判 276ページ

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企業がいまオウンドメディアに注目する理由

あなたが好きなモノ・コト・ヒトについて教えてください。

こんな質問を投げかけられたらどう答えますか?
最近ハマっているアーティストだったり、居心地の良い近所のバルだったり、サウナで整う時間だったりと、今まさに没頭しているものを挙げる方もいれば、車、カメラ、ワインなど偏愛しているジャンルについて話す方もいるでしょう。他にもいろんな「好き」はあると思いますが、個人的にこの「好き」を聞く時間がとても好きです。

なぜそれを好きなのか、その理由について、これまで見聞きしてきたこと、触れてきたことの記憶を総動員させては、時に脱線し、鼻の穴が広がり、額にうっすらと汗がにじみ始めても気にも留めず、アドレナリンがドバドバと分泌されていると思えるほど目を爛々とさせて語っている人を見るのが、好きなのです。

(中略)

では、「どんな人が好きですか?」「どんなものが好きですか?」という質問をされたらどうでしょう?

いくつかの言葉が浮かんでくると思いますが、その言葉を並べてみると、きっと抽象的で一般的な言葉が並ぶと思います。
そして「何が」には具体的な言葉が並ぶのに対して、「どんな」には多分に、社会性や時代性が纏うような気がしませんか。

ここまでの話を企業に置き換えても同じことが言えると思います。
「好きな企業はどこですか?」には、やはり個人的で具体的なエピソードがセットになりますし、「どんな企業が好きですか?」には今の時代が求める価値観が内包されています。

企業としては、共感性の高い具体的なエピソードを通じて、好きになってもらえる人を増やしていくことと同時に、「どんな」に当てはまるイメージを獲得することが求められます。個別具体の「好き」の声を拾い集めて、その声を少しずつ広げていくことと、速度を上げて変容と多様化し続ける「どんな」のイメージを獲得すること、これらを実現しうる手法のひとつとして、今オウンドメディアが注目されています。

より共感性の高い具体的なエピソードを、コンテンツにしてオウンドメディア上で可視化させることと、コンテンツを通じて企業として獲得したいイメージを貯めることを目的に置いているであろうメディアが、ここ数年で一気に増えています。
本書は、ここ最近のオウンドメディアの潮流を紐解きながら、理想的な企業発信について考えていくことを主眼に置いています。

KIRIN公式noteを運営して思うこと

ここから少しだけ私の“個人的な”話をさせてください。

私は新卒でWeb広告会社の営業を6年ほど経験し、その後旅行書を扱う出版社の昭文社でWebメディアの立ち上げ・プロデュースを行い、2018年にキリンに入社しました。
新卒で入社したWeb広告会社では、立ち上げたばかりのWeb広告事業の部署に営業として配属されました。当時は、検索連動型のリスティング広告という言葉がようやく世の中で認知され始めてきた頃で、Web上でできるアプローチ手法と言えば、このリスティング広告やYahoo!などのポータルサイトや大手ニュースメディアにバナーを掲載するくらい。つまり、そのほとんどが検索結果やWebページ上で「待ち受ける」広告でした。

その潮目が変わり始めたのは2011年くらいでしょうか。その背景には、一気に広がったSNSとスマホがあります。詳細は本編でも整理していきますが、この時期くらいからWeb上における企業発信は「待ち受ける」だけではなく、ユーザーが楽しんでいる場所に「出向く」手法が増えてきました。企業公式Twitterが雨後の筍のように増えた時期です。ただ当時は、そういった場所に出向くところまでは良かったものの、肝心のコンテンツやユーザーとのコミュニケーションについてはまだまだ手探りな状態だったように思います。

これからはそのコンテンツが大事になってくるのではないか? そんなことを考え始めた矢先に、たまたま声をかけていただき昭文社に転職することになり、既に発刊されて人気だった『ことりっぷ』という女性をメインターゲットとした旅行ガイドブックのWeb上のコミュニケーション全般を担うことになりました。新たにWebマガジンを立ち上げ、SNS上のコミュニケーション戦略を策定し、果ては『ことりっぷ』が好きな方同士を旅の思い出でつなぐコミュニティアプリの立ち上げまで行いました。

Web上におけるコンテンツの持つ魅力は、そこに同じ「好き」を持つ人が集まるとコミュニケーションは一気に加速し、その場で“コンテンツ自体もつくられていく”ということです。『ことりっぷ』の世界観が好きな人や好きな旅情報が集まり、そこから熱量の高いコミュニケーションが生まれ、また新しいコンテンツが生まれていく、といったようなことが起きました。

このような、コンテンツを起点にしたコミュニティは、メディア上だけではなく、商品や企業を起点としてもできるのではないか? という興味の赴くまま、キリンに入社し、今に至ります。
入社して1年後の2019年に、KIRIN公式noteを立ち上げました。それから現在に至るまで、キリンの企業WebサイトやSNS上のコミュニケーションも徐々に形を変えてきました。現在、キリンのオウンドメディアチームのスローガンは「だからキリンが好きなんだ」。キリンの商品に触れて好きになってくれたお客様、CMを見て気になってくれた方、キリンの取り組みに携わってくださっている方、そしてもちろん従業員など、キリンと何かしらかかわりがあって、オウンドメディアに訪れていただいた方に対して、「キリンが好きな理由」を持ち帰ってもらうためのコミュニケーションを行うことを、各メディア運営のベースの考え方としています。

noteは立ち上げて4年が経とうとしていますが、言えることは、3年以上経ってもなお、「最適解」は見つかっていないということです。むしろ現場でメディアを運営していると、日々いろんな発見があり、正解がどんどん遠のいていく気さえしています。

そういった意味では、オウンドメディアは、まだ確たるフレームやノウハウが成立していない領域と言えるかもしれません。オウンドメディアという言葉も、それを運営する立場のインハウスエディターという言葉も流通し始めてからまだ10年も経っていないのです。

ただ、オウンドメディアを3年以上運営して見えてきたのは、オウンドメディアという極めて狭い領域のものが、実は広い領域に影響を与える可能性があることです。それはもっと言えば、自社のメリットに閉じず、社会に対しても好影響を与える可能性すら秘めているということです。本書で私が伝えたいのは、オウンドメディアの運営におけるテクニック部分ではなく、こうした可能性についてです。

ここ最近、オウンドメディア運営について相談を受けることが本当に増えました。ただ、話を聞いて思うのは、オウンドメディアの役割について、とても「限定的」に見ているということです。「コンテンツを通じて直接何らかのアクションをしてもらうことのみを目的にしたメディア」は、一部の企業ではとても有効である反面、そこに役割を閉じることで、うまくフィットしないことも多いように思います。

先述した「どんな」が変わり続ける世の中にあって、オウンドメディアはより一層役割を増していくと思っています。とは言え、現時点では、体系立てて道筋を立てられているかと言えば、まだ道半ばといったところです。

本書を通じて私が伝えられることは、現場であくせくしながら「つづける」ための「処し方」のようなものかもしれません。本書を読んでいただいた方が、オウンドメディアの「+α」の価値を見出せたり、オウンドメディアの役割を再考するきっかけになれば幸甚です。

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平山 高敏 (ひらやま・たかとし) 
キリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部

2005年、新卒でWeb 制作会社に入社。昭文社の旅行ガイド『ことりっぷ』のWebプロデューサーを経て、2018年にキリンホールディングス入社。note 公式アカウント、オウンドメディア「KIRINto」の運営、インハウスエディターの育成も担当する。宣伝会議「自社メディアやnote、メルマガ等で発信する企業の担当者のためのコラムライティング基礎講座」講師を務める。日本アドバタイザーズ協会デジタルマーケティング研究機構 第10回Webグランプリ「Web 人大賞」受賞。