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根来龍之教授と読み解く、KINTOとTVerのビジネス戦略の共通点とこれからの共創

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放送と自動車という異なる業界で、これまでの資源を生かしつつ、新たなビジネスモデルの構築を目指してきたTVerとKINTO。業種は違えども「既存の産業を変革するためのチャレンジ」をミッションとする2社には、業界の垣根を越えて共振する想いがあった。
企業のIT戦略、イノベーションの専門家である根来龍之教授と、2社の担当者の鼎談を通じて、デジタル時代の新たなビジネス戦略、さらにマーケティング戦略における2社の共創の事例をレポートする(本文中・敬称略)。

写真右から、KINTOの小川彩子氏、根来龍之教授、TVerの伊藤有弥氏。取材は早稲田大学にて行った。

「モビリティカンパニー」を目指す、トヨタの構想を形にするKINTO

―TVerとKINTOは、放送と自動車というそれぞれの産業で、生活者とつながり続ける新たなプラットフォームとなりうるものと思います。各社の取り組み概要からお聞かせください。

小川:KINTO(キント)は、2019年に始まったトヨタが展開するモビリティサービスブランドです。自動車保険などの諸経費を含めた月額利用料だけで、新車や中古車に乗ることができるサブスクリプションサービスを中心に展開。さらに、最近は、トヨタが発売した新型プリウスで、車の「進化」と「見守り」を実現する新たなサブスクサービス「KINTO Unlimited」を開始しています。

KINTOのビジネスモデルは、車をお客さまへお届けして終わりではなく、お届けした後も、お客さまと接点を持ち続けることができるのが最大の特徴です。お客さまが車を利用する目的やシーンは異なりますので、一人ひとりのお客さまのライフスタイルに適した多様なサービスや価値を今後も提供していきたいと考えています。

―小川さんは、KINTOの中でどのような役割を担っているのですか。

私はサブスクサービスのマーケティングを担当していて、認知や興味関心領域におけるお客さまとのコミュニケーション戦略や広告運用などを担っています。

根来:「車を所有しないでよい」「初期費用がなくても車のある生活を楽しめる」といったことが、KINTOの大きな訴求点ですよね。さらに、「KINTO Unlimited」だとソフトウェアやハードウェアの更新まで行うSaaS的発想が入ってきています。これらの特徴は重要ですがKINTOの事業を見る際、トヨタ自動車としての経営戦略のなかにおける役割を見ていく必要もあると思っています。

トヨタ自動車が掲げる「モビリティカンパニーになる」というビジネス構想を実現するため、KINTOという事業が重要な役割を果たしているからです。車そのものではなく、「移動」を、トヨタが提供しうる価値であると規定するならば、例えば「目的地まで一番、早くたどり着くルートを知りたい」とか、さらには「今、近隣で診察してもらえる病院まで行きたい」など、究極的にはユーザーの移動、さらには移動の先にある目的を叶えるための各種サポートを提供していく必要があります。そう考えた際、KINTOのサービス内容の拡張の先には、モビリティカンパニーとしての構想が見えてきます。

―在京在阪の民放局が参加するTVerも放送局が提供しうる価値を再定義するような事業ですよね。

伊藤:私たちTVer(ティーバー)は、従来競合社である各放送局が腹を括って協力して開始した見逃し無料配信動画で、いわゆるAVODのビジネスです。ユーザー数も右肩上がりで、2023年1月には月間ユーザー数2700万MUB超えを記録しました。
ブランドセーフティが保たれた環境下で、デジタル広告として精度の高いターゲティングも可能な点から、多種多様な広告主の方々に出稿いただくケースが増えています。

そのTVerにて、私は広告のセールスを担当しています。今日ご一緒させていただいているKINTOさんは、TVer社が広告セールスをスタートしてから最も活用いただいている企業様なのですが、根来先生のお話を伺いながら、KINTOさんとは広告主とメディアという関係性を超えて、事業に期待される役割に共通点が多くあることも改めて見えてきました。
 

自らプラットフォームを持つことを決意した、TVerとKINTOの共通点

根来:世界的なデジタル化の波で放送局、自動車会社のように組織や仕組みの変革が求められています。その変革のひとつがプロセスや製品/サービスのデジタル化ですが、この領域を自社で行う企業と、大手プラットフォームに依存する企業で二極化が進んできました。

KINTOとTVerは、自分たちでプラットフォームを持つ選択をしたということだと思いますが、こうしたプラットフォーム戦略において重要なのが、すべてを自社だけで完結させようとしないこと。いかに、他の会社にも入ってきてもらえるようにするかが大事で、その実現によって多様性が担保され、ユーザーにとっても多様な選択肢を提示でき、これが競争力につながっていきます。

―日本市場に目を向ければ、人口も減少し、できる限り「お客さまを囲い込みたい」と思ってしまいそうですが…。

根来:自社で囲い込みをしたくなる気持ちもわかります。でも、多様性がなく選択肢の少ないプラットフォームに人は集まらないし、そのプラットフォームには魅力がなくなっていきます。そうした意味で、国内だけでも多様なVODサービスがあるなか、民放キー局のコンテンツがほぼ揃っているTVerは、有利な位置にいると思います。

私はTVerをはじめとして、各種VODサービスを利用しているのですが、いちユーザーとして見ても、多様性を確保できないプラットフォームは今後、淘汰が進んでいくと感じています。
 

狙った順番通りに、ユーザーに広告を配信できるTVerだからこその広告活用

―KINTOはTVerを積極的に広告展開に活用しているようですね。KINTOと言えば、サービスローンチ時の大々的なテレビCM展開が記憶に残っています。ある程度、サービス名の認知が獲得された今、地上波のテレビではなく、あえてTVerを選んでいるところにマーケティング的な狙いがありそうです。

小川:そうですね。KINTOという名前自体は、テレビCMのおかげもあって、少しずつ認知されてきました。ただやはり、当社のサービスは、これから世の中へ浸透を図っていく途上のサービスであるため、その内容をしっかり理解していただくには、
一定の時間をかけたコミュニケーションが必要という課題感があり、サービス名を認知した先の理解醸成のコミュニケーションの必要性を感じていました。
特に、これまで一度も車を所有したことがない若い方だと維持費にどれくらいかかるのか、ピンとこない方も多いようです。そんな方にこそ、費用の面でも手続きの煩わしさといった面でもサブスクリプションモデルで車を利用するメリットは大きいのですが、この層へのコミュニケーションは「伝える内容の複雑さ」が、課題にあると考えました。

―実際に車を所有された経験のある方だと、保険や車検など想定外の出費もあるので、月額固定で費用が明確なことは、すぐにメリットと感じていただけそうですよね。

小川:そうなのです。そこで、そうした経験をお持ちでない方にも、「車に乗りたい」と思ったときにKINTOの理解を促せるような広告の打ち方をしたいと思っていました。そこでTVerさんに注目したのは「長尺動画配信が可能」「完視聴率が高く視聴態度が良い」という2点でした。当社のサービスは短時間で理解していただくのが難しい点から、スキップされずに長く視聴していただけるということは、それだけサービスを理解してくれる人を増やせるのでは?といったきっかけで出稿を始めました。さらに、「広告を見ていただく順番が大切ではないか」ということでした。
TVerさんの広告だとターゲティングができるので、お客さまの理解のフェーズに合わせて、私たちが企画した順番通りに広告を配信できるので、戦略通りの広告出稿が可能になりました。

伊藤:まず60秒のCMを一度見てくれた方に対して、次に30秒のCMが必ず流れるシナリオ配信を組んでいるので、KINTOさんの狙い通りの順番で広告体験をしてもらえます。60秒もの長尺のCMとなると、他媒体で観ると、なかなか最初から最後まで優良態度で完視聴してもらうのは難しい。でもTVerは広告をスキップできないつくりになっていることもあり、広告の完全視聴率は9割以上。それも「ながら見」というより、目的を持って能動的にコンテンツに接しているユーザーが多いので、広告と接触したときの反応もよいと感じていて実際にリサーチを入れてもその手のデータがアウトプットされます。

小川:広告のコンテンツの視聴完了率の高さの背景には、TVerにはキー局の魅力的なコンテンツが豊富にそろっていることがあると思います。そしてユーザーが安心して観ることができる「コンテンツの安心感」も、私たちがTVerを出稿先に選んだ理由のひとつです。

根来:地上波テレビとTVerさんなどの動画配信サービスでは、視聴態度が異なるのだと思います。それゆえ、同じ放送局のコンテンツを活用しているとは言え、両社の広告枠の性質も違うものになるはずです。
KINTOの場合には、サービス名の認知獲得を目的とするテレビCM出稿の段階が終わり、今はサービス理解を深めることを目的にしている。ここにTVerさんの広告を活用するというのは、非常に適切な戦略だと思います。
 

TVer初の1社提供番組に挑戦 ブランド姿勢を示すコンテンツになった

―KINTOは広告枠への出稿だけでなく、TVer初となる一社提供オリジナル番組『褒めゴロ試合』も提供したそうですね。具体的に、このオリジナル番組とはどのような施策だったのでしょうか。

小川:『褒めゴロ試合』は、あるテーマに対してゲストが褒め合い、「褒め」の上手さを競うトークバトル番組です。1年半ほど、TVerに広告を出稿して手応えを感じつつも、さらにジャンプアップできる企画を探していたときに、伊藤さんから1社提供番組の提案をいただきました。
番組内でしか見ることができない特別なCMや提供表示の仕方など、細部までこだわっていただいたおかげで、KINTOのサービスに対する理解が深まることはもちろん、当社の遊び心やチャレンジ精神といったブランドキャラクターも表現できたと感じています。

TVerさんはテレビや放送局の枠を広げていくこと、当社は車という産業の枠を広げることがミッションです。そういう意味でも2社は、既存の業界に対して新しい挑戦をしている会社です。そうした共通点がある中で、「一社提供番組」というTVerさんの新しい試みと、当社の課題感がマッチして、『褒めゴロ試合』という新しいコンテンツが生まれたのではないかと考えています。

『褒めゴロ試合』の視聴はこちらから

TVerオリジナル番組『褒めゴロ試合』にて、KINTOがTVer初の1社提供社となった。

―放送各局とトヨタ自動車。既存のビジネスや親会社に与える影響を、根来教授はどのように見ていらっしゃいますか?

根来:2社に通じる共通点といえば、現時点ではTVerもKINTOも、こういう言い方をすると何なのですが、親会社の既存事業や既存の取引先に対して“少し”迷惑をかけてしまう事業モデルと言えます。
既存の事業を担っている人からすれば、自分たちの顧客や機会が失われるのではないか、という危惧を抱くはずだからです。
しかし、長期的に見ればTVerやKINTOがあることで、産業や企業自体が事業を継続していくことができる。ですから、いま始めなければならない事業であることは間違いないわけです。

―昨今、ヒットしたテレビドラマではTVerで過去最高の再生数を記録もしましたが、結果的にリアルタイムの視聴率も伸びたという話を聞きました。一面的には、競合するシーンもあるかもしれませんが、変化した時代においても産業、企業が生き残ることに貢献すると同時に、既存事業にとっての新たな顧客との接点にもつながっているように思います。

小川:KINTOのお客さまの内訳を見てみると、車をこれまで持ってこなかった方々と、他メーカーのクルマをお持ちだった方々であわせて6割を超えており、これまでトヨタがリーチするのが難しかった層との新たな接点を生み出す役割を一定、果たすことができていると考えています。

伊藤:私たちの場合には「若者のテレビ離れ」を防ぐというテレビ業界のマクロな視点で考えれば、TVerが若年層の方々との新しい接点になり得るものだとも考えます。
今回、根来先生と小川さんとお話をして、既存事業や既存取引先のブランド力や信頼性が基盤になっているバックボーンをはじめ、新しいチャンスに挑戦する社風など、KINTOさんとTVer社には共通点も多くて非常に近しいなと僭越ながら感じました。イノベーションの源泉の1つは「知と知の組み合わせ」という経営理論もありますが、歴史のあるテレビ局ビジネスが「知の深化」を強く持つのであれば、一方でTVer社は業界先駆者として「知の探索」の意識を持つことで業界で両利きのバランスを取るべきだと再認識しています。TVerは今後も広告施策の面でも、いろいろと新しいチャレンジを仕掛けていければと考えました。

根来:業界という垣根の中で考えると、なかなか新しいアイデアは出てこないもの。だからこそ、「業界が違うけれど、実は同じ性質を持っている」とか、「ある業界で行われていることが自分の業界でも使えるんじゃないか」といったように考えることは、新鮮な着眼を得るという意味でとても重要だと思います。その意味で、2社は刺激を与えあえる部分が多いのではないでしょうか。

根来龍之氏

名古屋商科大学教授。大学院大学至善館特命教授。早稲田大学名誉教授(元 同大学ビジネススクール教授)。『集中講義:デジタル戦略』などの著書がある。

小川彩子氏 

KINTO マーケティング企画部 広告宣伝チーム。主に認知や興味関心領域における戦略立案から広告運用などに従事。TVer初の一社提供オリジナル番組『褒めゴロ試合』を担当。

伊藤有弥氏

TVer 広告事業本部 第2営業部 兼 サービス事業本部 コンテンツタスク。渉外担当として、コンテンツ企画立案や広告枠提案業務など広告セールスに従事。TVer初の一社提供オリジナル番組『褒めゴロ試合』を担当。

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