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不誠実のレッテルが貼られる企業対応とは?2023危機管理広報ふり返り

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故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に関して、旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)が行った一連の対応は、2023年の危機管理広報案件の中でも特に注目を浴びました。企業の広報担当者は、ジャニーズ事務所の対応から、危機管理広報について多くのことを学ぶことができます。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が解説します。※本稿は2024年1月号『広報会議』の特集「危機を乗り越える不祥事対応」の内容をダイジェストでお届けします。

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が注目を浴びたきっかけは、2023年3月7日付けでイギリスBBC TWOが報じた「Predator: The Secret Scandal of
J-Pop」(邦題「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」)と題するドキュメンタリー動画でした。

その論調は、故・ジャニー喜多川氏による性加害の事実を1999年に『週刊文春』が報じ、2003年7月には東京高裁の判決でも認められたのに、世間に響かなかったのは、「喜多川帝国」と日本メディアの共依存関係が大きく関わっているからかもしれない、とジャニーズ事務所と日本のメディアの関係に疑問を呈するものでした。

その後、故・ジャニー喜多川氏による性加害の被害者の声などが報じられたこともあり、国内ではジャニーズ事務所と日本のメディアとの関係よりも、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題がクローズアップされ報じられることになりました。

連日報道しているにもかかわらず、藤島ジュリー景子社長(当時)が声明を発表したのは5月14日。BBCの報道から2カ月以上が経過しており、初動対応が遅すぎました。国内メディアの報道と世の中の人々の関心が、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題にあることが明らかになった時点で、すなわち、遅くとも3月中に、藤島社長が声明を出すべきでした。

世の中の人々の関心が高まっているのに何も声明を出さないことは、メディアにも世の中の人たちにも「逃げている」と受け取られてしまいます。逃げれば逃げるほど「不誠実」とのレッテルを貼られ、ジャニーズ事務所という組織も、藤島社長という個人も、信頼・信用の回復からはほど遠くなってしまいました。

世の中の問いに応じたか

藤島社長による声明の発表の出し方やその内容にも問題がありました。報道が繰り返され、世の中の人々の関心も高まっているのに、記者会見をするでもなく、藤島社長が一方的に謝罪する動画をネットにアップするだけでした。内容も、藤島社長からはお詫びの言葉があるだけで、見解と対応は文書を自社サイトに掲載するのみで、外部からの質問には書面で回答するに留まりました。

BBCの報道から2カ月の間にジャニーズ事務所が問われていたのは、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題への認識、創業者による性加害問題を防ぐことができなかったガバナンスの構築義務違反や役員間の監視義務違反の問題、過去に性加害問題が報道された際あるいは裁判所による判決が出た後に何らかの対処をしなかったことについての役員やジャニーズ事務所の責任、性加害問題の被害者に対する賠償や補償の考えなどでした。こうした問いに藤島社長が正面から答えることなく、お詫びの言葉を述べるだけでは、「不誠実」とのレッテルを剥がすには至らず、組織も個人も信頼・信用を回復することはできません。

調査報告書、公表時の注意点

ジャニーズ事務所は、8月29日に、外部専門家による再発防止特別チームによる調査報告書を公表しました。それによると、調査の目的は、①ジャニーズ事務所の過去の対応にどのような問題があったのかを厳正に検証することと、②検証結果を踏まえて、ジャニーズ事務所のガバナンス上の問題に関する再発防止策を提言し実行を求めること、の2点です。あくまでジャニーズ事務所のガバナンスを改善することに重点が置かれています。

ジャニーズ事務所は、調査報告書に記載されたガバナンスの再発防止策に今後取り組む姿勢を示すことによって、企業の信頼・信用の回復を図ろうとしていたのだと推察できます。

ところが、実際には、調査報告書の内容のうち、被害を主張する者の証言や供述に関わる部分が主に注目されました。そこに記載されている証言や供述は、信用性について細部にわたった検証まではされていませんが、SNSなどではその部分だけがひとり歩きしてしまいました。

ジャニーズ事務所に限らず、組織的な不正や不祥事、創業者や役員などが関与する不正・不祥事では、第三者調査委員会が中立・独立した立場から調査を行い、その結果を調査報告書として公表することは一般的になっています。広報担当者の方に気をつけてほしいのは、この流れが一般的になっているからといって、報告書の受領から公表までをルーチンで行わないことです。

端から「調査」を行い、その結果を「報告」することが目的なら、「調査報告書」というタイトルを付けて公表して構いません。この場合には、調査過程で明らかになった事実や証言も多角的に検証され、信用性があると確認できたものが調査報告書に記載されているからです。反対に、証言に信用性がないときには、「このような証言もあったが、事実に反するので信用できない」などと記載していることもあるからです。

他方、ジャニーズ事務所のように、「再発防止チーム」が「再発防止策を提言し実行を求める」ことを目的としたときには、、「再発防止のための提言書」「ガバナンスの観点からの提言」などと、その目的が伝わるタイトルを付けてほしいです。広報担当者は、報告書を受領した後、第三者委員会の目的と報告書のタイトルに整合性があるのかを確認し、整合性が取れていないときには然るべき部署からタイトルの修正を依頼し、その後に公表する。こうした一手間を惜しまないようにしてください。

‥‥続きは『広報会議』2024年1月号にて。

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広報会議2024年1月号

写真 誌面 広報会議2023年12月号
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  • 「不祥事ランキング2023」発表
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  • 不祥事が起きうる企業の予兆とは
  • 白井邦芳 社会構想大学院大学
  • CASE 2
  • ジャニーズ問題で振り返る
  • 「不誠実」のレッテルが貼られる対応とは
  • 浅見隆行 弁護士
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