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広告だけではない複層的な事業でビジネスが成り立つ時代 経営管理の評価軸もひとつではなくなる

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企業やブランドが直面するマーケティング課題の変化にあわせて、広告会社をはじめとするパートナーに期待する役割・機能も変わってきています。「広告」によってマーケティング上の成果を求めていた時代から、より本質的な事業課題を解決へと導く「ソリューション」の企画・実施が求められる時代になりました。広告会社も従来の「代理店」ではなく「マーケティング支援企業」へ進化が求められている環境で広告業界の経営や人材管理はどうあるべきなのか。本連載は、自身も広告産業に身を置き、プロジェクトマネジメントの課題に直面した経験から、案件収支管理システム「プロカン」を提供するシービーティーと宣伝会議の共同企画。6回目は、HAKUHODO DESIGNの代表取締役共同CEO、山口綱士氏に話を聞きます。
山口綱士氏

 

先の見えない時代に求められる広告会社のクリエイティビティって?

―HAKUHODO DESIGNでは「デザイン経営推進」を掲げています。広告業界のクリエイティビティを拡張する動きと思いますが、近年の広告業界に起きている変化をどう捉えていますか。

HAKUHODO DESIGNが設立された2003年当初は広告プロモーションとしてのブランディング業務が多かったのですが、時代の変化とともに経営領域に近い事業ブランディング案件が増え、現在ではそれらの業務が大部分を占めるようになりました。業務で向き合う方も、広告やプロモーションの担当者から、経営に近い立場の方が多くなっています。

これを広告ビジネスの変化として見ると、モノを売るための広告ではなく、企業やブランドが何を目指していくのか、社会とどのような関係を構築すべきかを支援するビジネスへと変化していると言えます。その変化のなかで、広告会社の競合企業や協業先もコンサルティング会社というケースが多くなってきました。

コンサルティング業界が広告領域に進出という話もありますが、一方で広告会社も経営課題に向き合う機会が増えています。経営者が抱える課題に対して、広告会社とコンサルティング会社でそれぞれ得意なアプローチ方法があり、どのアプローチ方法を採るかによってコンサルティング会社と競合関係になったり協業関係になったりしていると思います。

個人的には、広告会社がこれまであまり手をつけられなかった経営領域にアプローチできる時代、「見えない壁」を超えられる時代になったと思っています。「広告業界のクリエイティビティは広告以外の領域にも活用できるとわかってきた」からです。広告領域で培われてきたビジョン構築や顧客体験設計などのスキルがプロモーション領域を越えて、企業の組織変革や事業変革のコンサルティングにも活用できると理解されてきたことは大きな変化だと感じています。

 

―クライアント側が広告会社に求めているものが変化しているということでしょうか。

そう思います。急速な市場環境変化がその要因だと考えています。5年前の私たちはコロナ禍を想像できませんでしたし、AIがこれほど急速に進化するとも思っていませんでした。今は、あらゆる企業にとって事業の未来を考えることが難しい時代になっています。

プロダクトアウト型でシーズを元に何かを開発してもすぐに新たな技術が生まれて陳腐化してしまうし、マーケットイン思考にしたところで半年先のニーズさえ十分に見通すことはできない。

これまでは時代に緩やかな連続性があったのに、今は激しい変化が起こる非連続な時代となっています。企業やブランドからすると、先が読めない不安な時代だからこそ、広告会社のビジョンのつくり方が役立っているのではないかと思います。

先が読めない社会のなかで、それでも自信を持って進んでいこう、勇気を持って挑戦しようと、社員や関係者の気持ちを動かし行動を喚起することが求められていますが、それはまさに広告会社がこれまでに培ってきたもの。クライアントの経営者と話をすると、誰に相談すれば、よいのかわからない課題が増えてきた、という声をよく聞きます。

広告会社の変化も、まだまだ発展途上なので、もっと変化して事業領域を広げていきたいと考えているところです。広告会社は「広告」という名前を掲げていることで、自分たちに足かせをつくっているのかもしれませんね。

 

良きアウトプットのためにインプットの質と量が求められる

―自社の経営や収支の管理、個々人の評価という点でどのような変化が起きていますか。

営業職であれば、売上などわかりやすい指標がある中で、広告会社のスタッフ職というのは評価が難しい職種だと思います。スタッフ職にも収益貢献などの指標はありますが、社会にどのような新しい価値を提供できたかという定性的な評価も多かったと思います。

広告業界の変化もあり、HAKUHODO DESIGNの業務の時間軸も変わってきています。以前は広告キャンペーンなど比較的、短期の案件が多かったですが、最近では数年かけて事業変革を、という仕事も増えています。クライアントの経営領域に関わると、その成果は中長期的に見なけれ

ばなりません。中長期的な評価の目を持ちながら、当然ながら年度ごとの短期的評価も必要となる。目標設定や評価の方法に難しさも出てきますが、複数の評価軸があるという意味では悪いことではないと思っています。

会社の経営管理という点では、広告会社の事業ポートフォリオが変わっていくなかで、複層的な事業をどのように管理するかを考える必要があります。広告会社はこれまでの広告ビジネスに加えて、経営領域のコンサルティングや異業種連携による事業開発など、複層的な事業の積み重ねで広告業界が成り立っていくようになると思っています。

そうしたときに広告会社の経営管理の評価軸や管理の視点もひとつではなくなります。広告業界を進化・拡大させていくためには、どんな制度が必要なのか考えることが求められていると思います。

―広告業界の中では労働時間の管理は、まだまだという企業も多いのではないでしょうか。

労務管理といえば「労働時間」の管理に目がいく傾向はありますが、個人的には「労働の質」の管理も重要だと考えています。人は良いインプットがないと良いアウトプットは生見出せない。広告の仕事を課題解決業だと捉えると、課題解決の手法を考えるうえでインプットはとても大事です。今は特に課題も複雑になっているので、アウトプットの難易度が上がっていますし、そのためにはインプットも質と量が求められています。

労務管理という意味ではなくても、良質なインプットの時間をつくらないといけない。そのとき、ただ時間さえあればできるものでもないく、心と時間に余裕を持たせてあげて、インプットを促すことが人材管理にもなると思っています。それがこれからの広告、クリエイティブ業界の人の管理になるのではないでしょうか。

当社ではインプットの見える化として、社員それぞれが見聞きして良かったことを定期的に報告しあっています。周囲からインプットの共有があると、自分も刺激されますし、十分なインプットができていないと、気づくことができます。社内で刺激しあえること自体もインプットだと思っているので、社内でそういう関係性をつくることは常に意識しています。

当社は“デザイン”を武器に、顧客や社会に価値提案をおこなう会社です。社員一人ひとりが多様な“デザイン”の得意技を持っていて、ひとつの業務に対してその得意技を組み合わせてみんなで動く。多様な個性がいて多様な個性が組み合わさることが、HAKUHODO DESIGNという会社の経営としても新しいことを生み出せる可能性を高めるのではないかと思っています。

「編集協力/株式会社シービーティー「プロカン」」

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