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けんすう氏に聞いた 「プロセスエコノミー」を活用した広報企画のポイント

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情報過多の時代において、商品やサービスそのものだけでなく、発売までの背景も含めた広報活動が、社会の関心を集める効果的な手法として注目されている。

本記事では、商品やサービスの開発過程(プロセス)をコンテンツ化して見せ、ユーザーのロイヤリティを高めていく「プロセスエコノミー」について、その提唱者である古川健介(けんすう)氏に聞いた。

※本記事は、『広報会議』2024年3月号・巻頭特集「話題を生み出す 情報発信のアイデア」 から抜粋しています。

アル代表取締役
古川健介・けんすう 氏

ふるかわ・けんすけ  2006年リクルートに入社し、
2009年にロケットスタート(のちのnanapi)を創業。
2014年にKDDIグループにジョインし、Supership取
締役に就任。2018年から現職。

 
─古川氏は2020年に「プロセスエコノミー」を提唱されました。

「プロセスエコノミー」とは、商品やサービスといったアウトプットだけではなく、それらを生み出す過程(プロセス)に価値をつけてコンテンツ化することです。情報があふれ口コミの拡散スピードも速い昨今、商品やサービスの水準が上がり、品質では差別化できなくなったためです。

ではなぜ、「プロセス」が注目されるのか、その肝は「双方向的なコミュニケーション」にあると考えています。SNSが発達し誰でもが発信者になれる時代の中、生活者は広告など一方的な発信には反応しなくなり、若年層を中心に「自分たちが参加(発信)できるもの」が消費活動の中心となってきています。

象徴的な例として、2022年に英・米のYouTuberがローンチしたドリンクブランド「PRIME」は、初年度の売上が「約320億円」に上ったそうです。その勝因は、購入者がSNSで発信したくなる仕掛けが多数あったこと。そうした双方型コミュニケーションを促す手段のひとつが、「プロセスエコノミー」です。

─「プロセスエコノミー」で価値を出すポイントを教えて下さい。

重要なのは、プロセスを見せる際に生活者に「そのコンテンツが自分たちのものである」という感覚を覚えてもらうことです。そのため「生活者が発信者に回れるような“余白(ツッコミどころ)を残す”」必要があります。この方法は特に、予算をかけられない場合に向いています。

例えば町のラーメン屋などは、「今日のスープはおいしいです」「今日は少し失敗しました」と、良いことも悪いこともさらけ出すと良いでしょう。プロジェクトを進行する際なども、トラブルまで赤裸々に開示していく。日々浮き沈みを繰り返しながらもがいている粗削りな姿を見せると、応援したい気持ちを誘いクラウドファンディングでの成功などにもつながっていきます。

また双方向性を前提としない場合でも、見た人が「自分のものである」感覚を得られるコンテンツ設計が欠かせません。好事例として「ほぼ日手帳マガジン」は、「オリジナル記念文具ができるまで」という過程をコンテンツ化し人気を博しています。社内での企画会議の様子などを記事にしていますが、「顧客がどんな文具を求めているのか」を徹底的に突き詰めていることが伝わります。こうして「自分のもの感」を生み出したことが、支持されている秘訣でしょう。

─逆に、プロセスエコノミーで陥りがちなミスは何ですか。

プロセスを見せるためにつくり込みすぎて、生活者が入る余白がなくなってしまうことです。よくあるのが、「販売する商品をユーザー投票で決める」といった施策ですが、そのページが「つくり込まれた」ものだと、生活者は冷めてしまいます。

また「これを見せたら生活者は喜ぶだろう」と無謀な挑戦をはじめるなど、“プロセスに最適化” した行動をとってしまうケースも本来の軸がブレてファンが離れる要因です。リスクヘッジは必要ですが、粗さや弱さもさらけ出すことで本気度が伝わり、「応援したくなる心」を引き出す糸口になります。

─今後、プロセスエコノミーは深化していくのでしょうか。

プロセスエコノミーを超えて、ファンコミュニティ化が進むと考えています。このため、「自社の情報を発信できる強い支持者」をつくっていくのが次のフェーズでしょう。こうしたファンベースマーケティングは2014年頃から注目されていましたが、結局「広告の方が効率的」という声が多かったです。

しかしこれからは逆に、100人の強いファンがいないとレビューが広がらず広告の効果も発揮されません。例を挙げると、「キユーピー」は マヨネーズの豆知識や活用レシピなどを授業形式で学ぶ「キユーピー マヨネーズアカデミー」を通じて、強いコミュニティ形成を進めています。

またこの派生として、新商品の発表会に限定した人しか呼ばないことで、「情報を的確に伝える」緻密な設計をしている事例もあります。Appleは、2023年に行われた同社初のARヘッドセット「Apple Vision Pro」の商品発表会に招待する人を、各国から絞り込みました。日本からは「その分野に詳しいジャーナリスト」を含むたった数人しか招待しませんでしたが、この施策により「商品を熱狂的に欲しい層」のみに向け情報を伝えることができたのです。

一般メディアを招待すると、その専門家から見たすごさが正しく伝わらない可能性があります。発信する人を限定することで、その価値を深く理解したファンが生まれる構図です。このように今後は強い支持者を形成し、情報を効果的に広げていく流れになるでしょう。

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『広報会議』2024年3月号・巻頭特集「話題を生み出す 情報発信のアイデア」 ではこのほか、「メディア取材を増やし、生活者の関心を集める」広報企画のヒントとなる、様々なヒントを紹介しています。

広報会議2024年3月号

特集 話題を生み出す 情報発信のアイデア

写真 書影 広報会議2024年3月号
  • STEP1 2024年のメディアの関心を知る
  • メディア注目のキーワード45選
  • STEP2 社会課題や生活者の意識の変化を掘り下げる座談会
  • 「セルフケア」ミズノ×Greenspoon×博報堂
  • 「働き方」スター食堂×日本交通×りそなホールディングス
  • STEP3 社会の関心事と自社のメッセージを掛け合わせる
  • 新たな働き方に関する広報
  • 制度導入時は背景をいかに語れるかが鍵
  • STEP3 社会の関心事と自社のメッセージを掛け合わせる
    パブリシティが増える広報企画に仕立てるには?
  • 『成果を出す 広報企画のつくり方』著者 片岡英彦
  • 『先読み広報術』著者 長沼史宏
  • REPORT 過程を見せる
  • 商品の背景も含めた広報活動が
  • メディアや社会の関心のきっかけに
  • COLUMN 社内広報の企画に取り入れたい
  • 「合理的配慮」提供の義務化とその考え方

特集2 事例に学ぶ「マーケティングPR」

  • 永谷園「パキット」
  • タイパを意識したパスタソース
  • ドリームズ「ふんばるず」
  • 姿勢をサポートするぬいぐるみ
  • クランド「酒ガチャ」
  • 450種類以上からランダムでお酒が届く
  • ヤッホーブルーイング「隠れ節目を祝い byよなよなエール」
  • 人生の“隠れた節目”をお祝いする
  • 森永乳業「クラフト 魚Chee」
  • ビールとの相性にこだわったチーズ
  • 西染工「今治のホコリ【着火剤】」
  • タオル工場のホコリが誕生
  • ファミリーマート「生コッペパン」
  • 懐かしいのに新しい、しっとリッチ食感
  • サンスター文具「ウカンムリクリップ」
  • 見たいページを開いておけるブックストッパー