なぜ今「企業ブランド」向上が必要か 今日的な役割と重要性の変化

人手不足、サステナビリティへの要請など、企業が直面する課題が多様化する昨今。社会の中における企業自体の存在価値を示すことが求められ、企業ブランドの再構築に苦心する企業もあるだろう。今、求められる企業ブランドのあり方を小西圭介氏が解説する。

※本記事は『広報会議』4月号 (3月1日発売号)に掲載する記事の一部を転載しています。

ニュースケイプ
代表取締役
小西圭介氏

電通でブランディングサービスをリード、デービッド・アーカーが副会長を務める米プロフェット社にてグローバルブランド作業に従事。著書『ソーシャル時代の ブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)等がある。

 

かつての差別化を狙った企業ブランド

今、改めて企業ブランド(コーポレートブランド)への注目が高まっています。その背景には今までとは異なる文脈が存在しており、最初に企業ブランドの役割の変化と、ブランディングのフォーカスの変遷について整理してみます。

まず前提として、企業ブランドの役割はいわゆる消費市場だけでなく、資本市場、調達市場、ビジネス市場という幅広いステークホルダーへの認識形成と関係構築にあります(図1)。

図1 企業ブランドの役割

1970-80年代のロゴや企業イメージ戦略を中心としたCI(Corporate Identity)ブームを経て、日本で「企業ブランド」が経営課題として取り組まれるようになったのは1990-2000年代でした。デービッド・A・アーカーの『ブランド・エクイティ戦略』(ダイヤモンド社)が1994年に日本でも出版されて、企業の時価総額に占める無形資産の割合が高まっていく中で、企業経営の重要な「資産」としてのブランドへの注目が集まったのがこの時期です。また、日本企業の成長でグローバル化・多角化・M&Aによるグループ経営が拡大し、単体企業を超えたグループの求心力が求められるようになったこと。そして戦後の創業者によるカリスマ経営からの世代交代の時代を迎えて、ブランド経営への転換が求められていたことなども時代背景としてありました。

グローバルな市場競争の中で、製品やサービス単位のブランド構築よりも、ひとつの企業ブランドの技術や品質、信頼といったレベルでの、効率的な投資による差別化が不可欠になってきたことも指摘できます。一方、利潤追求一辺倒の企業活動に対する批判も顕在化し、企業の社会貢献(CSR)というテーマも議論されるようになりました。

当時は「コーポレートブランド経営」がひとつのキーワードになっていました。すなわち日本企業の重要な無形資産としての企業ブランドに注目し企業価値(株主価値)を高めること、多角化・グローバル化する企業や組織のガバナンス・求心力強化を図るとともに、企業ブランドを軸とした市場での差別化を図っていくことが主なフォーカスとなっていたわけです。

「ESG」「人的資本経営」をめぐる環境変化

しかし、「失われた30年」と呼ばれる日本経済停滞の時代を経た2020年代の今では、企業の経営環境も大きく変わっています。図はその社会・経済環境と経営課題の大きな変化に基づく、今日の企業ブランドの役割とフォーカス変化を示したものです(図2)。

図2 企業ブランドの役割とフォーカスの変化

2008年のリーマンショックを経て、経済格差や環境破壊など行き過ぎた株主資本主義の弊害が顕在化し、さらには地球温暖化が深刻化するなど、社会課題への対応がグローバルな企業経営の重点テーマになってきたことがあります。こうした中で、ESG(環境・社会・ガバナンス)を軸とした投資家の責任投資原則(PRI)※1の考え方が徐々に広がってきました。

2015年にはCOP21にて途上国を含む温暖化対策「パリ協定」が締結、同年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されます。日本でも金融庁が「『責任ある機関投資家』の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)を2014年に発表し、翌年GPIF※2がPRI署名をしたことから、日本でもESG投資が大きく拡大することになりました。

こうした一連の動きによって、事業を通じて社会課題解決と持続可能な成長を実現する主体としての「企業」への役割変化が投資家からも求められるようになり、資本調達の観点からも経営の重点課題となったわけです。企業ブランドとしての新たなステークホルダー・コミュニケーションが重視されるようになった要因はまずこの点にあります。

それだけではありません。今日では企業と個人の関係も大きく変化しています。企業にとっては人こそが価値を生み出す源泉でありながら、日本企業の従業員エンゲージメントは、ギャラップ社など複数のグローバルな調査で世界最低水準であることが示され、働き方やモチベーションの問題が、日本企業の生産性の低さの原因ともなっている点が挙げられます。

いわゆる終身雇用システムの限界が見える中、個人のキャリア志向の高まりと共に転職市場も急拡大して、雇用の流動性もかつてないほど高くなってきました。また、少子高齢化による生産年齢人口の減少で人手不足が拡大する中、人材の獲得と人材価値の向上が、経営の最重要課題のひとつとして認識されるようになりました。

しかし、スタートアップ企業や外資系企業など、自由な職場環境で個人の能力・多様性の発揮を重視する企業が、イノベーションと成長を実現して注目を集めるのに対して、今や“JTC”(Japanese Traditional Company)と揶揄される、伝統的な日本企業の同質的な価値観や組織文化・ワークスタイルは、若い年代ほど敬遠するようになってきています。

SNSなどメディアの多様化と個人の発信力強化で、企業が消費者と直接繋がったことで企業の実態がより伝わるようになり、「炎上」なども多発するようになりました。

企業にとっても、デジタル化と破壊的イノベーションによる市場創造が求められる時代に、かつての大企業の「暖簾」としてのブランドは、既存の価値観やカルチャーに拘泥し、イノベーションを阻害する要因にもなりかねない状況です。旧来の組織の価値観やガバナンスを変革して、市場創造を実現する個人や組織の“遠心力” こそが求められているわけです。

こうした中で2020年に発表された経産省の人材版・伊藤レポートに始まる「人的資本経営」は、官製ブームの側面も強いのですが、2023年度からISO30414準拠の人的資本情報開示が有価証券報告書で義務付けられるなど、ビジネスの世界を賑わせています。

企業の社会的役割には、利益を上げるだけでなく「人を育てる」ということがあります。長期雇用の日本企業が本来得意だった、理想的な「人的資本」に対する投資とは、人を育てることでより大きな価値を生み出す人材を増やし、企業の成長と従業員のエンゲージメント向上の好循環を生み出すことにあるというわけです。

「人的資本」の向上は、イノベーションや生産性向上が主な目的ですが、それには個人の能力と動機を高め、価値創造に力を発揮できる環境づくりが大事になってきます。

ワークライフバランスの最適化、男女の雇用格差解消とダイバーシティ&インクルージョンの推進、リスキリングや給与向上などの人材戦略が課題となり、旧来型の価値観やカルチャー変革を含む、今日の企業ブランド再構築のもうひとつの焦点となっているのです。

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――本記事の続きは『広報会議』2024年4月号 (3月1日発売) に掲載しています。

広報会議2024年4月号

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