日本特殊陶業、日立製作所 BtoB企業における「採用広報」の戦略は?

宣伝会議は3月1日、東京・浜松町コンベンションホールにて「アドタイ・デイズ2024(春)東京」を開催しました。本稿では、「BtoB企業の採用広報」について議論したセッションについてレポートします。
写真 イベント セミナー アドタイ・デイズ2024(春)東京
慢性的な「人手不足」が社会課題となり、「人的資本経営」にも注目が集まる中、採用を目的にした広報活動は、いま一度見直しておきたいテーマ。BtoB企業の視点から採用広報を語り合った講演の会場内では、熱心にメモを取る来場者の様子も見られた。
写真 人物 プロフィール 日本特殊陶業 深尾奈美氏

日本特殊陶業
グローバル戦略本部 コーポレートコミュニケーション室 室長
深尾奈美氏

ふかお・なみ メーカー・IT企業で約15年人事を担当。2019年に日本特殊陶業に入社。教育・採用の責任者を経て2022年コーポレートコミュニケーションの部長職に就任。コーポレートブランディング、広告、メディア対応、インターナルコミュニケーション、グローバル広報を担う。

写真 人物 プロフィール 日立製作所 森田将孝氏

日立製作所
グローバルブランドコミュニケーション本部 副本部長 兼 コーポレート広報部長
森田将孝氏

もりた・まさたか 約20年の新聞記者のキャリアを経て2016年に日立製作所に入社。2020年広報部長。2022年よりグローバルブランドコミュニケーション本部副本部長としてコミュニケーション全般を管掌しながら、様々なチャネルでコーポレートメッセージを社内外に発信する。


【モデレーター】

写真 人物 プロフィール 東京片岡英彦事務所 片岡英彦氏

東京片岡英彦事務所 
代表取締役
『成果を出す 広報企画のつくり方』著者
片岡英彦氏

かたおか・ひでひこ 日本テレビを経て、アップルコンピュータのコミュニケーションマネージャー、日本マクドナルドマーケティングPR部長などを歴任。企業のマーケティング支援活動を行う。東北芸術工科大学 企画構想学科 学科長/教授。著書に『成果を出す広報企画のつくり方』

採用広報の現状と課題

片岡:BtoB企業の広報、特に採用広報に関しては、どのような課題があるのでしょうか。

深尾:日本特殊陶業は、自動車関連部品の世界トップシェア企業ですが、自動車のEV化に伴い事業ポートフォリオの転換期を迎えています。採用については、全国・グローバル規模で行っているものの「社名から具体的な事業内容がイメージできない」という声は多くあり、本社がある東海圏以外での企業認知度の低さが課題となっています。私自身は、人事領域のキャリアが長く、採用マネージャーとして入社しましたが、2年前に広報部門へ異動。広報戦略の明確化を図り、若年層・20~40代のビジネスパーソンをターゲットにした広報活動を強化しています。

森田:私は元新聞記者で、日立製作所の広報とブランドコミュニケーション全般を担っています。これまで、採用に絞っての広報活動を意識してこなかったのですが、コロナ禍は大きな転機となりました。生活が一変し働き方も多様化したことから、社内で議論し「先進的な採用」を行っている企業イメージにつながる広報活動に取り組んでいます。2020年5月、緊急事態宣言解除後も「在宅勤務」を推奨する方針について、オンラインでメディア発表会を開きました。それ以降、関心が集まりやすくなり「人的資本経営先進企業」として取り上げてもらえるようになってきました。

社内への理解促進

片岡:「採用マーケティング」では、就活のナビサイトに広告を出すなどして、狭いターゲットに向けコンバージョンがあったかを見ていきます。一方で「採用広報」「採用PR」となると、社内の雰囲気など働く場としての企業の魅力について、採用候補者層やその周辺の人たちに広く伝え、良好な関係を構築していくことになります。そのためには、人事部門をはじめとした社内の協力、連携も必要になるはずです。どのようなことを実践していますか。

深尾:従業員の家族向けに行っている「職場参観」の様子を動画で撮影し、社外にも発信したところ、採用候補者の方から「社内の雰囲気が伝わって良かった」「入社意欲がわいた」と感想をいただきました。職場参観は、当社で働くことや仕事に対する誇りの醸成を目的としたエンゲージメント向上施策の一環で2022年から毎年行っています。

写真 日本特殊陶業はグループ従業員とその家族を対象とした職場参観で、工場見学、仕事体験などを実施
日本特殊陶業はグループ従業員とその家族を対象とした職場参観で、工場見学、仕事体験などを実施。その様子を撮影し、動画を社外にも公開。採用候補者が社風や仕事内容を知るきっかけになっている。

森田:インターンシップの現場にメディア誘致を行っています。2022年は「ジョブ型インターンシップ」の様子を公開。コロナ禍でリアル取材が減っていた時期でしたが、多くのメディアが集まりました。2023年は、インターンシップに関するルール変更(三省合意改正)や、就職前に希望していた職種に配属されない「配属ガチャ」に注目が集まったタイミングで、メディア発表会を実施。人事部門や内々定者が登壇し、ルール変更を受けた企業側の動きとして、配属ガチャを解消する当社のインターンシップについて説明しました。

相手の関心に寄り添う

片岡:広報手法においては、コロナ禍を通じて「デジタルコミュニケーション」が進化した側面もあるように思います。採用候補者へのアプローチで取り組んだことはありますか。

深尾:若年層・ビジネス層の認知度・好感度向上に向け、2022年以降、デジタル施策を強化してきました。サッカーW杯時期と合わせてABEMA広告を出したり、NewsPicksでオリジナル番組シリーズを制作、配信したりしています。若年層対象のコンテンツは、いきなり事業紹介から入るのではなく、「やりたいことが分からない」「将来が不安」といったターゲット層の本音に寄り添いながら当社のことを理解いただくような企画にすることで、深い理解や共感の獲得を狙いました。施策後の企業イメージ調査では、ビジネス層・一般個人ともに社名認知率や就職意向の上昇が見られ、行動変容につながってきています。

森田:大学入学当初からコロナ禍に直面した就活生に配慮し、採用選考では「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」に関する質問をしない、と2023年3月に発表しました。「ガクチカ」というキャッチーなワードを、採用広報の解禁時期で報道が増えるタイミングで発信し、ヤフーニュースをはじめ、学生に見てもらいやすいウェブメディアに取り上げてもらうことができました。メディアへ送付する資料に「ガクチカの見直し」といったトレンドをつかんだキーワードを入れる際には、社内調整も必要で、メディアに発信することのメリットや広報施策のゴールなどを丁寧に説明しています。

写真 日立製作所が「プレゼン選考」についてもメディア発表会で披露
日立製作所は、大学入学時からコロナ禍に直面した就活生が「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」のアピールに悩んでいることを受け、選考でガクチカに関する質問をやめると発表。新たな「プレゼン選考」についてもメディア発表会で披露した。

深尾:社内の目線合わせは欠かせないですね。また、どうしても企業側の目線で伝えたいことを発信したくなりがちですが、徹底したステークホルダー目線で、採用候補者が興味関心を抱く内容であることや、配信時期、チャネルを工夫していくことが大切だと感じています。

森田:社内で働く人の認識と社外への採用広報のメッセージが一致していることも重要だと思います。せっかく入社しても「話が違う」とならないようにしたいものです。現在、若手社員を中心に、企業の周年事業に関わってもらう活動も始めていますが、「この会社で働き続けたい」と思えるインターナルコミュニケーションは、広報における重要な機能となっていきそうです。(敬称略)

講演でモデレーターを務めた片岡英彦氏が、広報戦略の立案ポイントを解説する書籍『成果を出す広報企画のつくり方』が宣伝会議より発売となりました。メディアリレーションからインターナルコミュニケーションまで、企画を立てる際に役立つ1冊です。

写真 表紙 『成果を出す 広報企画のつくり方』

『成果を出す広報企画のつくり方』


片岡英彦著

  • 本書の内容
  • 第1章 テレビのディレクターに「取材したい」と思われる企画
  • 第2章 ユーザーが見たくなる「動画」を広報に活用する企画
  • 第3章 「商品・サービス広報」の企画 提案に必要な要素を整理
  • 第4章 「企業広報」の戦略を立案 施策後の態度変容を目指す
  • 第5章  パブリシティ活動の目標設定と効果測定
  • 第6章 「共創」の座組みを戦略的に構築 パートナーシップ広報の企画
  • 第7章 著名人、インフルエンサーを活用した「口コミ創出」のための企画
  • 第8章 進化する「周年事業」の企画 将来性を伝える機会に
  • 第9章 全社戦略を紐づけ提案「インターナルコミュニケーション」の企画
  • 第10章 広報活動のこれから」~人の心は物語で動く~
  • <特別鼎談>高広伯彦氏×本田哲也氏×片岡英彦氏

詳細・購入はこちらから

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