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化粧品ブランド「N organic」はいかにして店舗に勝機を見出したのか

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化粧品ブランド「N organic(エヌオーガニック)」を展開するシロクは、2021年から販路をECからリアル店舗へと拡大し、ブランドの成長につなげている。当初はバラエティストア(雑貨店)で扱われるようになり、現在はドラッグストアの店頭にも並ぶ。
 
同社は店舗での販路拡大にあたり、このほど新刊書籍『トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』を著した井本悠樹氏と、早くから協業していた。井本氏によると、独自の強みを持ち、ネットを主戦場としていたブランドが小売のバイヤーの目に留まり、店舗チャネルを拡大させるケースは増えているという。
 
書籍で強調しているのは、バイヤーのインサイトをつかむこと。「N organic」のこれまでの取り組みとネットから店舗への販路拡大の可能性について、シロク代表取締役の飯塚勇太氏と井本氏に聞いた。

LOFTのバイヤーが興味を持ってくれた

――「N organic」立ち上げの経緯と、ECから店舗での販売に進出した背景について教えてください。

飯塚:初めから化粧品のEC事業を展開していたのではなくて、創業当初はアプリなどのインターネットサービスを提供していました。ただ、ネットの世界は流行り廃りが激しく、サービスを立ち上げてもすぐに無くなってしまうことが多いので、形として残るものをつくりたいと考えていました。

そんな考えで2017年に立ち上げたのが「N organic」です。インターネットのみでしばらく販売していましたが、化粧品をネットで買わないお客様はたくさんいるわけです。化粧品業界を見渡せばオフラインの売上比率が高いメーカーばかりで、それならオフラインをやらない手はないという声が社員から上がったのです。

写真 人物 プロフィール 飯塚勇太
飯塚勇太(いいづか・ゆうた)/1990年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年、サイバーエージェントの内定者時代に、友人らと開発・運営した写真を1日1枚投稿し共有するスマートフォンアプリ「My365」を立ち上げ、21歳でシロク設立と同時に代表取締役社長に就任。2017年、化粧品ブランド「N organic」を立ち上げ。2021年から店舗での販売を始める。2020年からサイバーエージェント専務執行役員。

――店舗での展開には勝算があったのでしょうか。

飯塚:実は最初、私は反対しました。化粧品会社でも営業会社でもない我々の強みは、インターネットだけ。オフライン展開には何の知識もない上に、我々の強みが生かせないので、無理ではないかと思っていました。社員の熱意に押し切られたような形です。

すると、「LOFT」のバイヤーの方が興味を持ってくださって。これはちょっとしたサプライズでした。そして実際に販売を始めると、それまでと異なる層のお客様に買っていただけている手応えも得られたので、やり方次第で何とかなると思うようになりました。

写真 商品・製品 「N organic(エヌオーガニック)」
「N organic(エヌオーガニック)」は2021年から実店舗でも販売している。

井本:先ほど飯塚さんは「オフラインでは強みが生かせない」と話していましたが、実は小売にとってメリットとなるものを「N organic」はいくつも持っていました。

その一つが、商品に質的な裏付けがあり、しかも高単価であることです。すでにオンラインでお客様がついているという実績があるので、単価が高くても、それに見合う価値のある商品であることが証明できています。つまり、小売にとっては、このブランドを取り扱い、その価値を伝えることさえできれば化粧品カテゴリー自体の売上を上げられるかもしれないと期待が持てるわけです。

飯塚:まさに、バイヤーさんの想像以上にお客様がいたことや、インターネット発のブランドであることなど、自分たちが思っていなかったことを強みとして認識して、興味を持ってくださっていましたね。

バイヤーインサイトは業態によって異なる

――その後、ドラッグストアにも展開を広げていますね。バラエティストアに対する施策と異なる部分はあるのでしょうか。

井本:異なりますね。バイヤーインサイトを紐解くと、生活雑貨を扱う「LOFT」や「PLAZA」などのバラエティストアは、主にオンラインでの購入体験が当たり前になっているお客様層に、店頭でどのように同様の購買体験をしてもらうかということに興味を持っています。お客様にとって楽しい売り場づくりをすることで、エモーショナルな部分に訴求したいという要素が大きいのです。そのため、ネット上で話題の商品や、お客さんがワクワクできる商品を置きたいという動機があります。

写真 人物 プロフィール 井本悠樹氏
井本悠樹(いもと・ゆうき)/P&Gジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして20を超える新製品開発や流通戦略策定に携わり、複数ブランドでNo.1シェアを獲得。4度の年間アワード受賞などの実績を残した。2019年4月フェズに参画し、リテールメディアを活用した統合プランニングの責任者を務める。また、自身でもコンサルティング会社のキャプロを創業し、大手メーカーやD2Cブランドの流通戦略策定を支援するほか、講演や寄稿などを通じてトレードマーケティング領域の啓発に努めている。

一方ドラッグストアは、その商品が売れるのか、儲かるのかという部分に、より強い軸を持っているので、バラエティストアで採用されても、ドラッグストアでは思うようにいかないというケースがあります。インターネットなど他チャネルでの販売実績は重要な要素ですが、それ以上に、確実に売れると信じられる、あるいは一緒に売っていくことが自分の利にもなると思えることが大前提です。ドラッグストアは店舗数がかなり多いので、そうした慎重なバイイングにならざるを得ないのです。

小売が新たなブランドを求めるニーズは高まっている

――オンラインとオフラインで、購買の訴求方法はどのように異なるのでしょうか。

井本:オンラインでは、ある程度ターゲットを絞って訴求し、興味喚起することができるので、その状態で商品のランディングページ(LP)を見てもらって購買意欲を高めることができます。しかしオフラインでは、不特定多数のお客さんが流れてくるので、ターゲットを選べません。その中で、どのように気づいてもらい、どのように買いたくなるモーメントをつくるかという仕掛けのデザインが非常に重要になります。つまり、オンラインではブランドの意思決定で訴求をプッシュできますが、オフラインでは、あくまで強いプルを作っていかなければ売れないのです。

また、店頭にはそもそもLPが無いということにも注意する必要があります。例えば化粧品であれば、ひと目で化粧品と分かるパッケージデザインでないと、ターゲット層に興味を持ってもらうどころか、認識してもらうこともできないのです。

――書籍の中で、これからはスタートアップでもトレードマーケティングがもっと活用できるとありましたが、それはなぜですか。

井本:私はどのようなブランドであっても、良い商品や価値のある商品であれば店頭に並ぶべきだと考えています。小売でもそうしたニーズは増えていて、今はメーカー側から供給される商品だけで差別化を図ることが難しくなっているので、いかにバイイングで差別化するかに腐心しています。

メーカーにとってはそこにマーケットチャンスがあるわけですが、どう小売にアプローチすればいいか分からない、どう小売への価値を定義したらいいかナレッジがないというのが現状です。トレードマーケティングによってそうしたシンプルな壁を打破できれば、ブランドがオフラインに正しく進出でき、最終的には消費者に欲しいものが届く環境になると考えています。

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丸善日本橋店(ビジネス・経済2/29~3/6)、リブロ汐留シオサイト店(ビジネス3/4~10)で売上1位!

写真 表紙 トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践

トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』(井本悠樹著)定価:2,310円(税込)

小売業や卸売業で仕入れを担当する「バイヤー」や、買い物客を指す「ショッパー」を対象にしたマーケティング活動を指す「トレードマーケティング」の実践的な指南書。彼らのインサイトを深く理解し、その理解に基づく戦略・アイデアを実行することで、商品が適切に売場に置かれ、ショッパーの目に留まるための取り組みによって、売上を最大化することができます。

P&Gジャパンやジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして多くのブランドの商品開発や流通戦略策定に携わってきた著者の知見とノウハウを1冊にまとめました。