無人営業中の売上は全体の10%
出版業界が厳しい状況に立たされる中、街の本屋は無人化による24時間営業に活路を見出している。書店事業や出版流通を手掛けるトーハンは、Nebraskaが開発した無人営業ソリューション「MUJIN書店」の導入店舗を拡大。夜間と早朝の店舗を無人で運営することで24時間営業を実現した。帰宅途中のビジネスパーソンなど新規客の獲得で売り上げが伸び、無人営業中の売上高は全体の10%を占める。無人化によって万引きなどの増加も懸念していたが、現状では被害は確認されていない。3号店として「メディアライン大山店」(東京・板橋)をリニューアルし、3月15日から24時間営業を開始した。
通常の営業時間は従来通り有人で運営。無人営業中のドアは施錠されており、ドアの横に設置された二次元コードをスマホで読み込むことで解錠できる。退店後は自動で施錠される。利用するには書店のLINE公式アカウントを友だち追加する必要がある。
会計はキャッシュレスセルフレジで実施。LINEで購買履歴を確認できるほか、商品情報などの有益な情報発信も行っており、将来的には顧客ごとの属性に応じたダイレクトマーケティングも検討している。
「MUJIN書店」は、これまで「山下書店世田谷店」(1号店)、「メディアライン曙橋店」(2号店)で導入。2023年3月に夜間無人営業を開始した「山下書店世田谷店」では、営業時間を延長したことで販売数が増え、2023年3~7月の売上高は前年同期比6.6 %増となった。同じ期間の全国書店の売り上げは同94.5%で、書店市場の実勢値を12.1ポイント上回った。2023年8月以降の売上も前年比110%に近い水準で推移しているという。
経営企画部マネジャーの齊藤浩一氏は「無人時間帯はまとめ買いが多く、客単価が高い」と強調。昼間の営業時間と比べて人が少ないため、ゆっくりと見て回る人が多く、滞在時間も長い傾向にあるという。LINE登録によって一人ひとりの来店客を把握できるため、セキュリティ面も強固だ。
現状では万引きなどの犯罪は確認されていないが、導入前は被害増加の懸念もあったという。リスクを想定する中、「書店が生き残るためにはDXが不可欠」という思いで無人化を推進。広報担当の端野雅之氏は「書店が成り立たなければ、取次も出版社も成立しない」と話し、グループ以外の書店にも無人化を提案する考えを示した。「今存在する書店に頑張ってもらいたい。店舗を最大限に生かして本を売るには無人化による24時間営業が効果的だ」としている。
一方、無人化は既存客が馴染めない可能性もあり、通常の有人営業も重要としている。現状は有人・無人のハイブリッド営業を推進する方針。実証で得た知見をもとにサービスモデルのブラッシュアップを進めていく。
3号店の「メディアライン大山店」は、これまでの導入店よりも売り場や売上規模が大きく、中規模店での導入効果を検証する狙いがある。1、2号店よりも無人化の効果も大きいとみている。
齊藤氏は「出版業界の環境は厳しい状態が続いているが、活字文化を残すには書店の存在は欠かせない」と話し、DXなどを通じて支援を継続する考えを示した。
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