デジタル広告が溢れる現代において、リアルな接点での「感情を揺さぶる体験設計」が再評価されている。アディダスジャパンの加藤美侑氏と三井不動産の高橋正和氏は、大学駅伝等を舞台に、既存の枠を超えて街全体にストーリーを描くOOH戦略を共有。厳しい規制やトラブルを突破し、街をメディア化する構想の全貌を明かした。
ネットの海に埋もれない「リアルな接点」の再評価
日本の広告費が8兆円規模へ達し成長を続けるなか、最大のシェアを占めているのがインターネット広告だ。しかしその一方で、膨大な情報の海に埋もれがちなデジタル広告とは異なり、生活者の日常の動線上で確実に視覚や記憶に残り続けるリアルなOOHやイベントなどの「プロモーションメディア」領域もまた、重要な顧客接点として伸長をみせている。
本セッションでは、アディダスジャパンのブランドコミュニケーション部ブランドチームでシニアマネージャーを務める加藤美侑氏と、三井不動産のイノベーション推進本部にて新規事業のプロジェクトリーダーを担う高橋正和氏が登壇。アディダスが実践する「心を動かすリアル体験」の裏側と、それをフィジカルに拡張・具現化する三井不動産の「メディアデベロッパー」としての街づくりの可能性について議論が交わされた。
既存の枠に頼らず「意味のあるロケーション」を開拓
アディダスでは、2024年より全世界一貫のブランドメッセージとして「YOU GOT THIS(大丈夫、いける)」を展開している。加藤氏は「もしも全く同じ機能、価格、デザインのプロダクトが並んだ際に、どのブランドを推して選んでもらえるか。その瞬間の価値こそが中長期のブランド価値です」と語る。
同社はこの価値を高めるための熱狂的なスポーツモーメントのひとつとして大学駅伝に注力してきた。長年にわたる各大学との強固なパートナーシップと革新的なランニングシューズの開発の結果、2025年1月の大会では出場選手におけるシューズ着用率No.1という成果を収めた。
アディダスのブランディングにおいて追求したのが、「ストーリーのある圧倒的なインパクト」を具現化するOOH設計だ。同チームは2024年のパリ国際大会の際、柔道の阿部一二三選手・詩選手を応援するために、選手にゆかりのある母校や商店街で巨大な壁画を描くプロジェクトを推進。この経験から、「既存の広告枠に頼らずブランドとの文脈を持つロケーションを自ら開拓するアプローチ」を確立したと話す。
2025年1月の大学駅伝では、契約大学のキャンパスが位置する渋谷エリアに着目した。自ら足を運び、解体工事によって一時的に視界が開けたビルの壁面を地道にリストアップし、巨大ビジュアルの掲出に成功。さらに、自社フラッグシップショップやMIYASHITA PARKなど周辺エリアを一帯で連動させ、街全体でメッセージを届ける全方位の仕掛けを展開した。
2025年箱根駅伝の事例。
そんななか、続く2026年1月の大学駅伝キャンペーンに向け、同社が次なる舞台として掲出を熱望したのが、大手町・日本橋・八重洲エリアであった。ブランドメッセージを最も熱狂的な瞬間とシンクロさせられるロケーションだったが、一方で厳しい屋外広告物条例や景観条例、ビルオーナーとの複雑な折衝など、広告掲出のハードルが極めて高いことでも知られており、前年は掲出を断念していた。この課題に対し、エリア一帯の不動産アセットを基盤に持つ三井不動産の高橋氏のチームが伴走。法規制のクリアや交渉を一手に引き受けることで、突破口を開いた。
高橋氏は、前職の入浴剤メーカーのバスクリンにて「仕事終わりのオフィスワーカーにアプローチする顧客接点」を模索し、オフィス配置型の入浴剤サービスを立ち上げたマーケターとしての原体験を持つ。三井不動産入社後はマーケティング組織の推進を経て、不動産と広告メディアを掛け合わせた新規事業の創出に挑んでいた。
高橋氏のチームは今回のプロジェクトにおいて、デベロッパーのアセットを活かし「東京ミッドタウン八重洲」の一等地に、アディダスの駅伝シューズ「アディゼロ」の立体モニュメントと契約校の襷を描いた柱巻き広告の実現を支えた。さらに、ランナーが目の前を通過する「コレド日本橋」の正面においては、地下鉄の道路工事により高所作業車が入れないという直前のトラブルを乗り越え、巨大なビジュアルの掲出を実現した。これらの場所が持つ「文脈」と「インパクト」の掛け合わせは、ランナーやファンが自発的に走りながら広告を見て回るというポジティブなUGCの拡散をSNS上で生み出した。
ブランドの世界観を具現化するオーダーメイドメディアを開発
さらに三井不動産は、デベロッパーのダイナミックさを活かした事例として、2026年6月1日より渋谷に誕生した国内最大級の3D屋外広告メディア「SHIBUYA PARK VISION」を紹介した。
初回放映は、「LE SSERAFIM(ルセラフィム)」の新曲「BOOMPALA」プロモーションを実施し、3D形状を活かした映像演出を行った。
直近の国際サッカーイベントのタイミングでは、「SHIBUYA PARKVISION」に加え、みずほ銀行渋谷支店の壁面に、日本代表の選手を大きくデザインした特別広告の掲出を実現した。
2026年6月1日より渋谷に誕生した国内最大級の3D屋外広告メディア「SHIBUYA PARK VISION」。
この他にも、東京のランドマークである「東京ミッドタウン」、さらには東京ドームや「ららぽーと」にいたるまで、生活者が住む・働く・楽しむための多様なフィジカルアセットを保有している同社。高橋氏は、海外の「フリーアドゾーン(広告規制緩和特区)」のような先進的な街づくりを見据え、所有者の許諾、テナントとの競合回避、行政の地区計画や景観条例のクリア、そして徹底的な安全性の担保というプロセスを自社で一貫して担う意義を強調する。これにより、企業のマーケティング戦略に合わせた自由度の高いオーダーメイドメディアの開発が可能となる。
「私たちは現在、“メディアデベロッパー”という形で企業の皆さんを支援しています。商品やブランドに本気で向き合っているマーケターの『やりたい』を叶える存在でありたい」と、展望を語った。
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三井不動産株式会社 メディアデベロッパー
URL:https://www.mitsuifudosan-media.com
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