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マーケターは経営者になり得るか? 5つのマネジメントスキルから考える

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2014年11月から活動をしてきた「CMO CLUB GLOBAL」は2020年11月11日、東京・ANAインターコンチネンタルホテルにて「CMO CLUB FORUM」を開催した。
「CMO CLUB GLOBAL」では2020年4月から「マーケターの、マーケターによる、マーケターのための組織」として、運営の在り方を刷新。各業界ごとに6名のボードメンバーを選出して、そのメンバーが中心となって年間の活動を設計・実行してきた。今年は6名のボードメンバーがマーケターにとって5つの課題を提示し、それぞれの課題別に分科研究会を企画。ボードメンバーがリーダーとなって、研究会を重ねてきた。ここでは、「マーケターは経営者になり得るか?」をテーマにマーケティング部門を経て、現在は経営メンバーとしてより俯瞰の視座から企業全体をマネジメントする4名のディスカッションの成果を紹介する。

写真左から青谷宣孝氏、立川麻理氏。河合辰信氏、佐々木丈也氏はオンラインで参加。

[パネルディスカッション概要]

テーマ:マーケターは経営者になり得るか?

チームリーダー
青谷 宣孝氏 オークローンマーケティング 代表取締役副社長

チームメンバー
立川 麻理氏 FWD富士生命保険執行役員 兼 CMO
佐々木 丈也氏 三井住友カード執行役員 マーケティング本部長
河合 辰信氏 有楽製菓 代表取締役社長

昭和の時代には機能した!? 日本流“マネジメント”の解釈

青谷:私たちのチームではマーケティング部門の経験を持ちつつ、経営の領域に足を踏み入れつつあるメンバーが集まり、経営に貢献するマーケティング、マーケターのあり方を議論してきました。私はNTTドコモのプロモーション部長を経て、2017年からNTTドコモの子会社であるオークローンマーケティングで副社長を務めています。

立川:私は比較的、消費財のマーケティングの経験が長いのですが、2018年の冬からFWD富士生命保険に入社し、現在は執行役員として会社の経営に携わりながらマーケティングのチームを率いています。

青谷:続いて「三井住友VISA太平洋マスターズ」の会場から参加の佐々木さん、お願いします。

佐々木:私は新卒で、今の会社に入社し、2013年からデジタルのマーケティング部門の部長に就任。現在は、そこから広がりマーケティング本部長としてテレビCM、デジタル広告、プロモーション、プロダクトやチャネル開発まで携わっています。

青谷:有楽製菓の河合さんは、遅れての参加です。もともとシステムエンジニアだった河合さんは、家業を継がれて2010年に有楽製菓に入社。マーケティング部を立ち上げ、「ブラックサンダー」をヒットに導いた功績をお持ちです。その後、2018年2月から代表取締役社長に就任しています。

青谷宣孝氏

青谷:私が、このテーマで分科研究会を開催しようと考えたきっかけは、元ネスレ日本・代表取締役社長兼CEOの高岡浩二さんのインタビュー記事がきっかけです。高岡さんは「経営は英語でマネジメントという風に訳されたが、それは工場の従業員をいかに長く、まじめに働かせるか、という観点がスタートになっていた。つまり人の管理、マネージするところから経営がマネジメントと訳されたのではないか、と。

その結果、いわゆる『ニッポン株式会社モデル』というような独特の経営体制が確立されてきたわけですが、そこでは決してマーケティングの力が貢献していたとは言い難い。では、もし高岡さんのようにマーケターが経営者になった場合、実際にその力を発揮できるのか、を皆で考えてみようということから議論がスタートしました。

ちなみに私の方で、経営に資する5つのマネジメント能力を「データマネジメント」「コンセプトマネジメント」「アイデアマネジメント」「コストマネジメント」「コミュニケーションマネジメント」と提示し、それぞれのマネジメントスキルをマーケターが有しているか否かといった観点から議論を進めてきました。今日は、そのなかから「コンセプト」と「アイデア」「コミュニケーション」の3つについて皆さんの考えを聞いていきたいと思います。

消費者のインサイトが基点 マーケターにとってのコンセプトの意味

立川麻理氏

立川:新商品やキャンペーンを開発する際、私は必ずコンセプトの設定から入ります。マーケティングの基本は、消費者を知ることから始まると考えていますので、私の場合のコンセプトとはお客さまのインサイトが基点になります。コンセプトとはお客さまにとってのベネフィットであり、それをサポートするReason To Believeを見つけること。そこから企画をスタートさせるよう意識しています。

佐々木:私がコンセプトについて感じているのは、どうしても抽象的でふわっとしたものになりがちだということ。そこで、コンセプトをどう現場の具体的な行動にブレイクダウンできるかが鍵だと考えています。

青谷:ミーティングの時に、佐々木さんが「Have A Good Cashless」というスローガンが記されたTシャツを着てましたね。あれも会社として重要なコンセプトのひとつですよね。

佐々木:当社では今、「Have A Good Cashless」をコーポレートブランドのキーメッセージとして掲げています。日本においてもキャッシュレス化が進み、私たちの企業も大きな変革期にあるなかで、改めて目指すべき方向性を定めたのが、このスローガンです。

ただ、先ほど話したように、こうしたコンセプチュアルなメッセージは、いかに現場の行動に落とし込めるような発信ができるかが大事だと考えています。Tシャツをつくることがどう貢献しているかわかりませんが、社風の変革を目指して服装の自由化も進めていたので、そのタイミングでTシャツをつくって配りました。

青谷:ちなみに河合さんからは社長として「常にシンプルに皆が動きやすい方針の示し方を重視している」というメッセージをいただいています。加えて、従業員に発信すべきコンセプトを判断するために必要な社内の情報が集約できる仕組みも必要だと考えているそうです。

佐々木:どうしても経営層になると、自分の視点で物事を判断しがちです。しかし、河合さんが大事にしているように自分とは違う視点の意見をどう解釈して受け入れるかは重要なことだと思います。これは「アイデアマネジメント」と言えるかもしれませんが。

青谷:確かに過去の経験値が、通用することばかりではありませんからね。

立川:そうですね。いろいろな業界でのマーケティングを経験するなかで、感じているのは業界ごとの固定概念をあまり強く持ちすぎないようにする、ということです。成功体験、業界慣習に縛られると、新しいアイデアは生まれてきませんよね。

消費者理解のスキルを従業員コミュニケーションに生かす

青谷:次は「コミュニケーションマネジメント」について考えていきましょう。私が副社長になった時に従業員とのコミュニケーションの大切さを感じました。どうしても従業員とダイレクトに話す機会が少なくなるので。佐々木さんとは部下とのコミュニケーションでどのようなことを意識していますか。

佐々木:なるべく、新しい企画のアイデアを部下から聞く機会を設けるようにしています。

立川:役員になってくると、ますます「コミュニケーションマネジメント」のスキルは求められますよね。特に大切なのが「Empathy(エンパシー)」。ですね。相手の価値観を受け入れて、適切な距離の縮め方があるな、と。

結論!「マーケターは経営者になり得るか?」

青谷:最後に今日のテーマ「マーケターは経営者になり得るか?」という問いに対する考えを聞かせてください。

佐々木:私の答えは「YES」です。マーケティングはお客さまの気持ちを理解して、その気持ちに応えるアクションを考えて実行する仕事。経営は数値をもとに意志決定する機会が増えるだけに、お客さまをはじめとする人の気持ちを理解するスキルは、経営においてとても重要だと思います。

立川:私は社会人のスタート時から、望んでマーケティング部門でキャリアをスタートさせました。その時の上司たちに言われたのが、「経営者を目指さないのならマーケターになるな」ということ。マーケティングはすべてを見なければならない仕事。ブランドをマネジメントするとは、経営とほぼ同義。なので、私の答えも「YES」ですが、そこには、多くの人がマーケターにこそ経営者を目指してもらいたいと思ってもらえるようになりたいという想いも込めています。

河合:途中から参加したので場のノリが分からないのですが…。私はオーナー企業の経営者ですが、そこではマーケティング部門で培った経験が非常に生きています。そして経営者になった今も、マーケティングの思考を持ち続けることが必要だと考えています。ただ顧客第一のマーケティング思考を、従業員をはじめとする多様なステークホルダーの幸せを考えなければならない経営者の仕事において実践するのは難しさもあります。それでも私は、経営者はマーケターであるべきですし、マーケターは経営者を目指すべきと考えています。

青谷:「マーケターは経営者になり得るか?」という問いに対する皆さんの答えは「YES」でした。付加価値をつくるすべてのプロセスがマーケティングであり、そう考えると経営はマネジメントではなく、マーケティングと言い換えられるのかもしれませんね。