頭でっかちなクリエイティブディレクション論【後編】いま必要なのは「傾聴力・整合力・生活力」

博報堂/SIXのクリエイティブディレクター/ストラテジストの藤平 達之(とうへい たつゆき)です。今回が「頭でっかちなクリエイティブディレクション論」の最終回です。

クリエイティブディレクションの「スタンス」について

前編では、クリエイティブディレクションの基礎となる「8割の型」の仮説を、続く中編では、“ここ掘れワンワン”をキーワードに、具体と抽象を掛け算して方針を定義する方法をご紹介しました。

イメージ 「頭でっかちなクリエイティブディレクション論」

今回は、表現や体験を作る「実装」と、商業クリエイティブの世界で重要なスタンス=「姿勢」のお話で、特に「姿勢」がメインです。

実装は「表現」と「体験」でできている

クリエイティブの手口が「広告」だけではなくなったいま、顧客体験(CX)をキーワードに、アプリ・プロダクト・配信コンテンツなど、(パーパスを起点に)さまざまな手口でアウトプットを作ることが増えました。バイブコーディングをすれば、プログラミングの経験がなくとも、あっという間にアプリを構築することもできるわけです。

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一方で、そうした時代だからこそ、生活者が触れる・感じる・体験するものが“お粗末”にならないように、コピー&アートとも称される、広告制作で培ってきた「表現」の重要性が高まっている気がします。

そんな「体験」と「表現」との向き合い方は、機会があればまたどこかでお話させていただくとして、いずれにせよ、いいものを生み出すために重要になるのは、ディレクションだけでなくファシリテーションだと思います。わかりやすいところでいえば、打ち合わせの進め方やフィードバックとの向き合い方です。

持論と異論から結論にたどり着くことを目指す「整合」

以下に、よくある仕事のステップをざっくりとまとめてみました。「能力は才能と努力の掛け算である」などと言われることもありますが、最終的なアウトプットの点数は「各プロセスの得点の掛け算である」と思います。

イメージ 「頭でっかちなクリエイティブディレクション論」

よいインプットがあり、よいブリーフの「もらい方」があり、「出し方」があり、打ち合わせ・企画書・プレゼンをよりよく仕上げ、フィードバックを踏まえてチューニングして⋯⋯と各プロセスで頑張り続けないと、世の中に出すものは一瞬でダメになるということです。始まりは最高のアイデアだとしても、掛け算次第では、散々なゴールになることもあります。

「頑張る」という精神論で終わらせないために、私が大事にしているのが、「整合(Alignment)」というスタンスです。個人的に「調整(Adjustment)」の対義語と定義しているのですが、言われたことを(ほぼ)そのまま反映していくのが調整(往々にしてだんだんと点数が下がりがち/迷走しがち)だとすると、整合は視点を掛け算して点数(価値)を上げるイメージです。

哲学(弁証法)でいう「アウフヘーベン」とも似ています。アウフヘーベンとは、矛盾しているものをより高い段階で統一して解決することで、その結果生まれるものがジンテーゼ(対立する意見を統合したより高次元の意見)だとされています。

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「Aというアイデアに対してBという指摘があった」際に、AとBのいいとこ取りをしてより素晴らしいCを生み出すのが整合で、「BっぽいA」にしてしまうのが調整と書くと、少しはわかりやすくなるでしょうか。これはフィードバックのみならず、打ち合わせで出た企画同士の整合、ヒアリングでの気付きと自分の仮説との整合など、あらゆる局面で大事になる姿勢です。

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