テクノロジーや社会の変化によって、仕事のかたちはこれから大きく変わっていくかもしれない。「空想ミライ仕事図鑑」は、まだ存在しないがいずれ生まれるかもしれない未来の職業を、ショートショートのかたちで描く連載企画だ。少し先の未来を舞台に、新しい役割を担う主人公たちの葛藤や挑戦を通して、仕事の本質を考える。空想からはじまる職業研究を、気軽に楽しんでほしい。前編はショートショート作家の田丸雅智氏の思考実験から始まり、後編はそこから物語を紡ぐ構成でお届けする。
エンタメやスポーツのかたちもまた、時代とともに進化する。まだ認められていない新しい競技を、どうすれば社会に根づかせられるのか。第4話では、熱狂をつくる側の視点から描く。
エンタメやスポーツの世界は、日々進化しています。これまでも、ARの登場によって映画やゲームの世界が自分の日常とリンクするようになったり。はたまた、ドローンレースのような新しい競技が出てきたり。
未来においては、どんな新しいエンタメやスポーツが生まれそうでしょうか。
たとえば、今の映像作品は視覚と聴覚が中心ですが、技術の進化で鑑賞中に味覚もリアルに感じられるようになるかもしれません。そうなると、鑑賞後に「今の映画、めっちゃおいしかったね!」「ね! 出汁がすごく効いてた!」などの会話が聞かれるようになるでしょうか。映画の味をしっかりあじわうために、映画館で売られるポップコーンに無味のものが加わったりも。
あるいは、未来では月に気軽に行けるようになり、月で野外音楽フェスが開かれるようになるかもしれません。その “ツキロック” には地球発のシャトルロケットに乗って参戦し、月に点在するドーム状の会場を、低重力のなかポーンと飛ぶように移動します。夜は仲間と頭上の地球を眺めながら音楽談義にふけったり。
ほかにも、水中ドローンを操って海の中でおこなうレースが生まれたらどうでしょうか。マグロ型の水中ドローンたちは猛スピードで海中を泳ぎ、突発的に発生する潮などにも対応しながらゴールを目指します。コースはあえて海洋ゴミの多いエリアに。これを機に、ゴミの撤去も進めます。
そんな中、今回ぼくが想像をふくらませてみたのが、自律型のアンドロイドたちが人と同じようにスポーツをするようになった未来の光景です。もし、アンドロイドたちがサッカーをする競技が生まれ、その業界をプロデュースする仕事があったら?
ということで、ここで一作。いつの日か、こんな未来が訪れる、かもしれません。
ミライの新職種「アンドロイドサッカー・プロデューサー」
日本代表がピッチに入場してくる姿を関係者席で見守りながら、おれは胸が熱くなる。ワールドカップの準々決勝。満員のスタジアムはサポーターの声援で満ちている。
やがてホイッスルが鳴り渡り、選手たちがボールを軽快に回しはじめる。日の丸を背負った、アンドロイドの選手たちが──。
今でこそ日本でもメジャーになったアンドロイドによるスポーツも、誕生した当初は「こんなものはスポーツじゃない」とさんざんな言われようだった。それはアンドロイドサッカーも同じで、サポーターも少数だった。そんな状況を変えるため、おれはチェアマンから依頼を受けて業界全体を盛り上げるためのプロデューサーに就任した。
そうして最初に着手したのが、国内リーグ全体のレベルアップだった。各クラブが切磋琢磨しながら開発しているアンドロイドの水準を上げるため、技術者たちを海外に派遣して学んでもらった。
次に、人々に興味を持ってもらうため、選手が感じていることをリアルタイムで体感できる最新システムの導入を決めた。サポーターはディスプレイやセンサーを装着すれば、プレイ中の選手の視点からの映像はもちろん、ボールを蹴る感覚や、ぶつかったときの衝撃なども感じられるといった具合だ。
発信面では、技術者の奮闘にフォーカスをあてた動画を積極的に投稿した。きっかけになったのは、SNSで見た「アンドロイドは何の努力もしてないからつまらない」というコメントだった。その瞬間、そうか、と考えた。だったら、技術者の奮闘を知ってもらおう──。
ほかにも、子供たちと選手や技術者の交流イベントを企画したり。人間プレイヤーによる過去の名シーンをアンドロイド選手が完全再現してみせる親善試合を企画したり。それらには当然ながら資金が必要で、みずから先頭に立ってスポンサー集めに奔走した。プロデューサーとは盛り上げるための何でも屋だという持論を胸に、やるべきことはすべてやった。
さらに各クラブの努力も相まって人気は徐々に高まっていき、今では多くの人が応援してくれるようになっている。
試合は開始から一進一退の攻防がつづき、おれも手に汗握りながら声援を送った。均衡が破れたのは後半だった。相手のコーナーキックからのヘディングシュートをキーパーが弾いた……まではよかったが、相手がこぼれ球に反応し、ゴールの隅に叩きこんだ。
おれたちは天を仰ぐも、ここからだ、と応援する。が、やがてホイッスルが鳴り渡り、日本の敗退が決まってしまった。試合後にロッカールームに足を運ぶと、技術者たちが泣き崩れていた。おれも視界がにじみつつ、ここまで連れてきてくれた全員に感謝の言葉を伝えていった。
そんな悔しい中でも報われるようなことが起きたのは、スタジアムの外に出たときだった。通りかかった少年の声が聞こえてきて、おれは熱いものがこみあげた。
「ぼくも将来、選手をつくる人になる!」少年はつづけた。「それで絶対、ワールドカップで優勝するんだ!」
(了)

