自社カルチャーを学習させAIを「組織の仲間」に
土屋鞄製造所でのデジタル戦略やShopifyの普及活動など、20年にわたりデジタルマーケティングの前線を牽引してきたXA Holdings 代表取締役/ CEOの河野貴伸氏。河野氏は「人に想起され、AIに語られるブランドのつくり方」をテーマに掲げ、広告中心の時代から脱却し、AIが検索や回答の入り口となる新たな市場環境に適応するための経営戦略を提示した。
背景にあるのは、生活者の情報行動における劇的な変化だ。GoogleのAIオーバービューやAppleのApple Intelligenceなどにより、AIに質問して回答を得る仕組みが急速に日常化している。この結果、ブランドの接点は従来の広告枠中心から、AIの回答や生活者によるUGCレビュー、接客ログへと拡散。双方向性を超え、社会の中で価値が増幅されていく構造に変化した。
ここで生じる最大のリスクは、中身が定義されていない曖昧なブランドが、AIによって曖昧なまま広く増幅されてしまう点にあると河野氏は説く。AIはハルシネーションを防ぐために明確なエビデンスを重視するため、企業側が「AIが読める言葉」と「確かな証拠」を提示しない限り、信頼を獲得して推薦されることは困難になる。
この課題を解決するため同社が提唱するのが、ブランドを進化し続ける知能基盤として捉え直す「ブランドOS(オペレーティングシステム)」という実装思想である。これは、AIを単なる「効率化の道具」ではなく、自社のカルチャーや思想を学習させて自律的に動く「組織の仲間」としてオンボーディングし、ブランドの思考を共有するための仕組みだ。
人間が人間らしい体験の追求に没入する時代へ
具体的には、5つの要素による強固な循環設計が鍵となる。まずはパーパスや顧客像だけでなく、AIの平均値に引っ張られないために「何を言わないか」「どの比較軸で戦わないか」という不作為の意思まで明確にする「コンパス」。どの瞬間に思い出されるかを人間ならではの視点で定義する「エクスペリエンス(体験設計)」。LLM(大規模言語モデル)にブランドを教える教科書となるマニュアルを整備する「ランゲージ(言語化)」。そして、過去の発信や専門家評価、FAQなどを客観的根拠として蓄積する「エビデンス(証拠)」。これら4つを揃えた上で、AIチャットボットやCRMなどの実業務へ適切に投入する「アクティベーション」へとつなげていく。
「AIは接客を代替するのではなく、ノウハウを教え込む部下のような存在。私たちの強みを人間が正しく伝えていけば、AIが代わりに世界へ届けてくれる」と河野氏は語り、この変化はブランドにとって大きなチャンスであると強調する。
「人間は人間らしい体験の追求とAIの教育に注力すべき。AIによる本格的な自動購入(エージェントコマース)の時代が訪れる前に、自社の“ブランドOS”を見直してほしい」と語った。
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