“料理は見るもの”という認識を変えた 味の素の「音でみるレシピ」 カンヌ受賞の裏側

料理を誰もが楽しめる体験に

「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」は、味の素が料理のインクルーシビティを向上させるべく、2025年2月に開始した取り組み。世の中の一般的なレシピは、「きつね色になるまで」「透明になるまで」といった、目が見えることを前提とした視覚的な表現が多数使われている。そこで見えない人も見える人も料理をより楽しめるようにと、音声読み上げ機能に最適化したレシピサイトを構築した。

企画の狙いを味の素 コミュニケーションデザイン部の篠田大輔さんは「誰もが料理を別の感覚で楽しめる、新しい体験をつくること。そして“料理は見るもの”という思い込みを変えることがこの企画の狙いです。視覚障害のある方だけのためのサービスを目指したのではありません」と話す。

具体的には、料理の工程を「ジュワジュワという音が少し落ち着いたら」「木べらで触れて軽く動くようになったら」などと、視覚以外の実際の調理で頼りになる感覚へと言葉を置き換えている。

「企画の初期段階から、料理が大好きな全盲のみきさんにご参加いただき、実際に調理しながら、どんな音や言葉なら迷わないのか何度も検証しました。制作を通して私たちが学んだのは、料理は“見える人のためのもの”ではなく、誰もが楽しめる体験だということ。その考え方自体を形にできたことが、このプロジェクトで最も大切にした点です」。

カンヌ応募時に提出した、味の素の「音でみるレシピ SOUNDFUL RECIPE」の資料。企画制作には、電通、ダダビ、IE3、米、TYOなどが携わった。

「Voice」に込めた2つの意図

同社はこの取り組みを、カンヌライオンズを含む7つの海外アワードに応募。うちADFESTとSpikes Asia、The One Showではシルバーを、D&ADではグラファイトを受賞している。海外賞に応募した理由は、この取り組みを海外でも知ってもらえる良い機会だと考えたためだ。

応募の際、プロジェクト名を「VOICE OF FOOD」に変えて応募した。その狙いを篠田さんは「単に“音声レシピ”という機能を評価してもらうのではなく、このプロジェクトが社会に届けた価値を伝えたいと考えたため」だと明かす。「この名称には2つの意味を込めています。ひとつは料理そのものが持つ音や香り、触感などを伝える『食べものの声(Voice of Food)』。もうひとつは、視覚障害のある方々の声(Voice)です。これまで十分に届いていなかった料理を楽しみたいという思いと、レシピの潜在的な課題を社会に届ける意図で、この言葉を選びました」。

受賞の理由については、「応募時には“アクセシビリティの事例”として閉じないことを意識していました。誰かのための特別なサービスではなく、ひとりの課題を起点に料理体験そのものをより豊かにするイノベーションであることが共感を得られた一因だと考えています」と振り返っている。

さらに今回、味の素では篠田さんらチームメンバーがカンヌに赴いた。「カンヌは広告表現だけでなく、ブランドが社会課題にどう向き合い、どのような変化を生み出したかが評価される場へと進化していると感じています。ブランドにとっても、自社の事業や強みを通じて社会にどんな価値を提供できるのかを世界と共有し、学び合える貴重な機会だと思います」。

カンヌライオンズ現地での様子。

avatar
篠田大輔さん

味の素
コミュニケーションデザイン部
クリエイティブグループ
シニアマネージャー

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事