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初期投資を抑えれば小規模自伐林業は成り立つ

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取材協力
中嶋 健造 NPO法人土佐の森・救援隊事務局長

資源は誰のものか(2)―『環境会議』2013年春号より

土佐の森・薪倶楽部

会員数が163名に増えた土佐の森・薪倶楽部(2012.12.7現在)。月間15トンほどの薪が生産・消費されている。

国産資源の有効活用の観点から、森林や林業の再生への関心が高まっている。林野庁が2009年に発表した「森林・林業再生プラン」では、森林面積を集約し、作業道を整備、高性能な機械で作業効率を高めることで、単位当たりの経費を圧縮する大規模林業を志向している。

これに対し、高知県のNPO法人「土佐の森・救援隊」(以下、「土佐の森」)は、独自の地域通貨券「モリ券」や森林ボランティアを活用しながら、小規模な林家(山林の所有者)が共同で山林を維持・管理する副業型小規模自伐林業を推進している。

地域通貨やボランティアを活用

「土佐の森方式」と呼ばれるこの方式の仕組みは、次の通りだ。まず、林家と「土佐の森」が森林整備協定を結ぶ。林家は、他の林家や森林ボランティアと共同で間伐や材木の搬出を行う。搬出した間伐材は、建築用材になるA材、合板用材や木工用材向けのB材、端尺材や枝葉などの林地残材のC材に分類される。A材、B材の売り上げは、作業にかかる経費を引いた後、山林の所有者に支払われる。一方、作業に従事した所有者以外の人には、C材の売り上げが分配される。

従来、C材は、収益化が難しいため活用されてこなかったが、「土佐の森方式」ではこれを薪にして販売する。ただし、薪はトン当たり3000円程度と価格が低い。そこで登場するのが、地域通貨「モリ券」だ。「モリ券」は、「土佐の森」の活動に賛同した地元企業の協賛金や森林環境税、排出権取引収入、自治体の地域振興費などを原資に「土佐の森」が発行している地域通貨で、地元の商店などで商品と交換できる。

作業従事者には、C材の売上金の分配に加え、この「モリ券」が配布される。生計が立てられるほどの額ではないが、副業収入にはなることから、小規模でも副業としてなら林業を継続できるというわけだ。

「土佐の森」の事務局長、中嶋健造氏は言う。「大規模林業は、経済性を優先するので、大型の機械で皆伐し、高く売れるものだけを売り、残材は山に放置するため、環境破壊につながる。また、木材がある山を求めて転々とするため、地元の雇用や地域経済への貢献も期待できない。

一方、大規模林業に比べ小規模林業は、非効率で単位面積当たりの収益が少ないというが、土佐の森方式なら、大規模林業のような大型機械も必要ないので、初期投資も抑えられる。本業が無理でも、副業であれば、十分成り立つ。しかも、『モリ券』で地域産業の振興もできる」

「こうち森林救援隊」

緊張しながらもチェーンソーで木を切っていく作業に取組む「こうち森林救援隊」のメンバー。

加工しない薪なら重油より安い

「土佐の森方式」が機能するためには、C材の利用促進が重要になる。そこで、「土佐の森」では、森林ボランティアの活動の一つとして「薪倶楽部」を立ち上げた。「薪倶楽部」は、薪用の原木の伐採から、加工・乾燥、販売、利用促進のイベント、薪の宅配まで行う。さらに、地域の旅館や温浴施設、老人施設などにも薪の利用を促している。

木質バイオマスは、重油や灯油に比べ割高なイメージがあるが、中嶋氏によれば、ペレットなどに加工しなければ、重油より安いという。実際、重油ボイラーから薪ボイラーに替えた温泉旅館では、年間1200万円かかっていた燃料費を4分の1程度に減らすことができたそうだ。しかも、環境負荷も軽減できる。こうした利用促進の取り組みを通じて、月間約15トンの薪が生産・消費されているという。

このほか、「土佐の森」では、限界集落に住む高齢者に、薪を1コイン(500円)で提供している。中山間地の高齢者は、風呂や暖房に薪を使っている人が多く、薪の調達ができなくなると家を離れるケースが多い。これを防ぐために、無償に近い形で薪を提供しているのだ。

このように、地域の山林で生まれる廃棄物を地域のエネルギー資源に活用することで、山林の維持管理に役立つだけでなく、温暖化対策や地域住民の燃料費削減、さらに過疎対策にも一役買っており、効率を追求するだけの大規模林業では得られない複合的なメリットがある。

国土の3分の2を森林が占める日本で、「土佐の森方式」に取り組む地域が増えれば、山林の再生につながると同時に地域の再生にもつながる。こうした観点から、「土佐の森方式」を導入する地域も増えており、同団体の動向が注目される。

土佐の森・救援隊(中嶋氏)

中嶋健造氏(NPO 法人土佐の森・救援隊事務局長)
昭和37年高知生まれ、高知県いの町在住。愛媛大学大学院農学研究科(生物資源学専攻)修了。IT会社、経営コンサルタント、自然環境コンサルタント会社を経てフリーに。平成15年、NPO 法人土佐の森・救援隊設立に参画し、現在事務局長。地域に根ざした脱温暖化・環境共生型林業が自伐林業であることを確信し、「自伐林業+シンプルなバイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立させ、真の森林・林業再生、山村再生、地域雇用拡大等のために、自伐林業及び土佐の森方式の全国普及にまい進している。

『環境会議2013年春号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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