マーケターは「AIという同僚」を得て飛躍できるか アドビCMOが語る、次世代のパーソナライゼーションと組織変革

AIは「業務効率化ツール」から、マーケティング戦略をともに実行する「同僚(パートナー)」へと進化しつつある。では、企業がAIエージェントを実務のコアに組み込むとき、マーケターの役割や組織のあり方はどう変わるのか。そして、急激なパラダイムシフトの中で、企業の競争力を左右する鍵とは何か。

AI時代におけるマーケティングの未来と、CMOが今すべき意思決定とは。マーケターやクリエイターの業務を支援するアドビのエンタープライズビジネス担当 最高マーケティング責任者(CMO)、レイチェル・ソーントン氏に話を聞いた。

データ×AIでマーケティング施策の精緻化が進む

━━マーケティングにおけるAI活用の現在について、米国をはじめ先進企業の状況を教えてください。

AIの存在は、マーケターが手がける業務のスピードと規模をかつてないレベルへと引き上げました。強固なデータ基盤とAIを掛け合わせることで、顧客一人ひとりの好みを正確に理解できるようになり、これまでは不可能だったパーソナライゼーションが実現可能になりました。単なる「顧客セグメント」ではなく、「個人」に向けて高度にカスタマイズされたカスタマージャーニーを設計できるようになっています。

私がマーケターとしてのキャリアをスタートした当時は、特定のセグメントに向けてキャンペーンのメッセージやクリエイティブを制作していました。その際、キャンペーンの投資対効果に見合うよう、そのセグメントはある程度「大きな集団」である必要がありました。しかし今では、究極的には「たった一人の個人」にまで絞り込むことができるようになっています。

レイチェル・ソーントン氏
アドビ エンタープライズビジネス 最高マーケティング責任者(CMO)。Amazon/AWS、Salesforce、シスコ、Microsoftなどを経て現職。エンタープライズマーケティングの構築と拡大、顧客獲得と収益成長の推進、フィールドマーケティング、広告、スポーツマーケティング、イベントにわたる市場投入戦略を主導する。BtoBテクノロジー領域のマーケティングで25年以上の経験を持つ。

━━先進企業を中心に活用が進む一方で、AI活用のメリットが「コスト削減」の視点で語られることも多い印象です。

確かに、AIをコスト削減のために利用する企業もあるでしょう。しかし、私が対話する多くの企業やCMOたちは、マーケティングチームの能力を拡張し、より優れた広告やキャンペーンを設計するためにAIを使っています。つまり、コンテンツやクリエイティブをあらゆるチャネルで大規模に展開し、多言語へ瞬時にローカライズし、カスタマージャーニーや顧客体験をリアルタイムで調整・洗練させていくということです。

AIを単にコスト削減ツールとしてのみ捉えてしまうと、このようなAIが持つ真のポテンシャルを取り逃がしてしまうことになると考えています。

パートナーシップの重要性は変わらない

━━AIの進化は、業務プロセスにも大きな変革をもたらしています。広告会社やマーケターの役割はどのように変わっていくのでしょうか。

AIはブランド側(広告主)と広告会社の双方にとって、ワークフローを改善し、プロセスを進化させ、規模を拡大する助けになると考えています。

CMOやマーケティングチームは、ペイド(有料広告)、アーンド(SNSや口コミ)、オウンド(自社メディア)の全方位でキャンペーンやメディア展開を考えます。企業やビジネスの規模、チームのサイズに応じて、自社ですべての活動を行う場合もあれば、広告会社などのパートナーと協働する場合もありますよね。AIの時代においても、ブランドと広告会社は強力なパートナーシップを保ちながらともに進化し続けていくことが求められるでしょう。

確かに、AIはキャンペーンやコンテンツのサプライチェーンに破壊的変革をもたらしました。しかし、このコンテンツ制作における変革を深く理解し、そのメリットを活かして「より早く、より大規模に」展開できるようになった広告会社やマーケターこそが、これからの時代に成功を収めると確信しています。

ブランドとしての価値判断を行うのはマーケター

━━アドビは、AIがマーケターの「アシスタント」から、目標を共有して自律的に動く「同僚」へ変わると説明しています。AIが同僚になり自律的に動くようになったとき、マーケターの役割はどうなるのでしょうか。

まず「同僚」としてのAIについて説明します。これからのAIエージェントは、人間が設定したタスクをますます自律的に実行できるようになります。

例えば、私たちが美容製品のセールキャンペーンを展開しているとします。そして夜中、競合他社が突然価格を下げたとしましょう。もしマーケティングチームのメンバーが寝ていたり、営業時間外だったりしても、同僚であるAIエージェントはソーシャルチャネルからのシグナルを検知し、「競合が価格競争を仕掛けてきた」と理解します。そして瞬時に価格変更のキャンペーンアセットを組み立て、準備が整った段階で人間のマーケターに承認を求めるアラートを送ることができるのです。

では、人間のマーケターの役割はどうなるのか。

マーケターにとって非常に重要な仕事になるのは、「AIエージェントやエージェント型のワークフローをオーケストレーション(指揮・統合管理)すること」です。キャンペーンの構築などの実務的なタスクはエージェントが行います。しかし、高度な価値判断や、重要な意思決定には、依然として「人間のマーケター」が不可欠です。

例えば、ブランドの精神や美学を守り抜くこと。また、発信されるすべてのコンテンツが、本当にそのブランドらしいか、ブランドの価値を損なっていないかを判断し、統制を効かせること。これらはまさに人間にしかできない重要な役割なのです。

「成果」と「ワークフロー」への深い理解が不可欠

━━AI活用が「成果につながっている企業」と「実証実験の段階から先に進めない企業」では、何が違うのでしょうか。

成功のためには、大きく3つの要素が重要です。

1つ目は、「強力なデータ基盤」があること。どんなに優秀なエージェント型AIであっても、それを支える質の高いデータプラットフォームがなければ機能しません。当社の調査では、AIに対応できるデータ基盤を整備できている企業は、まだ全体のわずか39%にとどまっています。

2つ目は、「ユースケースを明確に特定し、体系化・数値化していること」。

そして3つ目、私が最も重要だと考えるのは「AIは導入するだけでは成功しない」ということです。

AIを成功裏に活用するには、まず自分たちの「ワークフロー」と、達成したい「成果」を深く理解していなければなりません。その上で、テクノロジーをただくっつけるのではなく、いかにプロセスの中に効果的に「統合」するかが問われます。

━━それができる企業とそうでない企業の差は、リーダーの資質でしょうか、それとも企業文化によるものでしょうか。

両方だと思います。リーダーシップ、つまり自ら身を乗り出してテクノロジーを理解しようとする姿勢は不可欠です。しかしそれ以上に重要なのは、「ビジネスとしてどのような成果を推進しようとしているのか」を明確に理解していることです。

さらに言えば、リーダーだけでなく、「自分たちは何を達成しようとしているのか」「そのためにAIをどう使いたいのか」を、チーム全体にしっかりと理解させること。この組織内の目線合わせが、AIの導入を実証実験からビジネスの成果へと引き上げる決定的な要因になります。

あらゆる企業にとっての「OS」でありたい

━━アドビは、自社製品だけで完結するのではなく、他社のAIやシステムとも連携するオープンなエコシステムを掲げています。マルチエージェント時代に向け、アドビはどのような役割を担おうとしているのでしょうか。

私たちアドビは、「創造性」「マーケティング」「AI」が交差する領域でビジネスを展開していることに誇りを持っています。それはつまり、私たちがマーケターやクリエイティブチームにとっての「システム・オブ・レコード(System of record:信頼できる唯一のデータ基盤)」でありたいということです。

私たちがGoogle、OpenAI、Anthropicといった企業と強力なパートナーシップを結んでいることからもお分りいただけるように、マーケターやクリエイティブチームの業務がどのように進められているかを深く理解するということは、「彼らが他のパートナー(外部のAI)を使いたいと考えた時でも、その業務をより良く支援できる」ということを意味します。

彼らが日常の仕事を進める中で、アドビはあらゆるパートナー企業のテクノロジーを引き出し、統合的に活用するための「オペレーティングシステム(OS)」、あるいは先ほど申し上げた「システム・オブ・レコード」になることを目指しているのです。

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アドビ株式会社

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