【短期集中連載】カンヌ・あの傑作の舞台裏――第3回AMERICAN ROM(KANDIA DULCE)

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『ブレーン』9月号のカンヌ特集では各部門から注目の受賞作をピックアップし、掲載しています。「AdverTimes.」では、誌面に載せきれなかったクリエイターのインタビューを紹介していきます。

第3回は、チタニウム・ライオンをはじめ、ダイレクト部門・プロモ&アクティベート部門グランプリを獲得した、ルーマニアのチョコレートバー「ROM」による「AMERICAN ROM」キャンペーンです。

同国国旗をモチーフにしたパッケージで50年近く親しまれてきた商品ですが、近年ではメーンターゲットである若年層の心が離れてしまっていました。そこで「ROM」はシンボルであるルーマニア国旗を星条旗に変更。結果、単なるPRに終わらず、国内世論を形成するまでに至りました。消費者の行動を促した同施策にはどのような背景があったのでしょうか。エグゼクティブ・クリエイティブディレクターのエイドリアン・ボタンさん(Mccann Romania)に聞きました。

ルーマニア国旗のパッケージが復活したことを告げるグラフィック。星条旗版パッケージ発売時には「TRY NEW ROM PATRIOTISM WON'T FEED YOU」といったコピーを添えた広告なども展開された。――「新しくなったROMをどうぞ。でも、愛国心で食べる気にならないかも」といった挑発的な内容だ。

――この企画が生まれた背景は?
ルーマニアのチョコレートバー「ROM」がこの度実施したキャンペーンの目的は、商品ターゲットの若年層を巻き込み、彼らと関係を築くことです。このブランドは1964年――共産党政権時代に生まれました。パッケージにルーマニア国旗をあしらっているだけでなく、当時唯一の甘いお菓子でしたから、壮年世代にとっては郷愁と愛国心を抱かせる商品なのです。
けれど、現代の若者が同じ思いかというと、必ずしもそうではありません。今ではグローバルブランドのスニッカーズやマーズが流通していますので。私たちの仕事は、こうした競合製品に対抗して、若い消費者が「ROM」を手にとるように促すことです。

では今、ルーマニアの若者の心のうちを占めるのは何かというと、それは同国の将来に対する諦めと冷ややかな態度です。ある調査によると、80%以上の若者が国外脱出を考えていて、自国に愛着を持つ層は12%に過ぎないといいます。不況や政治不信、それに伴う失業率の高さがその原因です。こうした国内の危機が若者たちの視線を、よりいっそう海外に向けさせているんです。

私たちは目的達成のために、彼らに改めて自国の価値について見つめ直し、公共の場で意見を交わしてもらおうと考えました。それも、国を代表するブランド「ROM」を通じて。そのためのアイデアが、パッケージのルーマニア国旗を星条旗に差し替えることでした。キャンペーン名は「AMERICAN ROM」です。

彼らの愛国心は、私たちの挑戦に見事応えてくれました。新パッケージの「ROM」発売から数時間で、インターネット上で何千件もの議論が巻き起こり、あっという間にメディアの主流を占める話題となりました。ルーマニアの真の価値とルーマニア人のプライドについての議論に火がついたんです。

――企画中で困難だったこと、実施による成果について教えてください。
ただし、本当の挑戦はここからでした。消費者がブランドに対して、パッケージ変更の意図に対する意見や質問を次々に投げかけてくるからです。私たちは透明性に注意しながら、彼らと対話を続けました。私たちは社内に「作戦司令室」と名付けたチームを立ち上げ、クライアントのコミュニケーション担当者らを含め、キャンペーンに携わるすべてのスタッフを集めたんです。「作戦司令室」は毎日24時間不休で動きました。

また人々の反応をモニターすることも大切な仕事となりました。ルーマニア人には、自らを悲観的に見る側面があるので、それを助長するほど苛烈な表現にならないよう、そして国粋主義者による話題の乗っ取りが起きないように注視を続け、さらにオピニオンリーダーのハンドリングを行っていきました。それだけ今回掲げたテーマは繊細で、本来の目的から脱線しやすいものだからです。下手すれば、ブランドを損ねるばかりか、国としての価値を損ねるリスクすらありました。

「ROM」のパッケージをきっかけとして議論が広まった結果、今回のキャンペーンは国民の67%に届き、30万ユーロ相当のパブリシティを獲得しました。開始から6日間で「ROM」のWebサイトは7万5000人のユニークユーザーが訪れ、さらにフェースブックのファン数は3倍に上ったんです。また消費者は自ら、フェースブック上に、パッケージを元に戻す訴えるページを10以上開設しました。その内、最も人気のあるものは週に2万人近くのメンバーを得ています。これは国営高速道路建設に関するページが年間で集めたメンバーより、ずっと多い数です。

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