シューズのレンタルが実売にも波及
――ソーシャルメディアを運用して手応えを感じた事例はありますか。
津毛 1つのよい事例は「クツカス」です。これはWeb上でアディダスのシューズをレンタルし、自宅で実際に試着できるというサービスを靴業界として初めて実施したのですが、おかげさまで非常に評判がよく、お客様から直筆の手紙がサポートセンターに届くほど喜んでいただけました。このクツカスのキャンペーンはソーシャルにフィードが流れる仕組みを導入していたのですが、ツイッターの反応が非常によかったですね。広告などを出したわけでなく、ハッシュタグを設定した程度なのですが、ツイッターでは非常に大きな反響がありました。
津毛 クツカスは業界初の試みで、自信はあるものの実際にお客さまに受け入れてもらえるかは「やってみなければわからない」というところがありました。そのためいきなり大きなメディア展開は難しかったのですが、ソーシャルメディアを通じて集まったファンの方々の反応がよかったことが結果としてPR露出につながり、最終的により多くの方に利用していただくことができました。レンタルと同時にクーポンを発行することで、実売へのコンバージョンにも繋がっています。こうしたデジタルを活用したコミュニケーションのきっかけを全国展開で作れたというのは、1つの成果として証明できたと思います。
――クツカスはWebだけでなく店頭も含めた施策ですが、こうしたさまざまな部署がからむような施策はどのように行っているのでしょうか。
津毛 デジタルに関係した部署は他にeコマース部もありますが、我々はアディダスのブランドに関するデジタルのコミュニケーション全般を統率しています。それだけにとどまらず、直営店への誘導施策やオンラインでの集客などに関しても、部署間の壁を越えて、我々デジタルチームが積極的に出向いて一緒に企画するようにしています。そうした社内コミュニケーションの頻度を上げていることが、部署を越えた施策を行う時に役立っています。
――ソーシャルメディア運用で苦労したことや課題はありますか?
津毛 運用自体は先ほども申しあげたとおり、デジタル専任の担当がいることもあって大きな苦労はありません。会員数や「いいね!」の数なども順調に伸びているのですが、課題に感じているのはソーシャルアプリの活用ですね。特にコマース関連やチェックインといったアプリの動きがまだまだ遅く、今年はもう少し活用していきたいと思います。コミュニケーションの活用用途だけでなく、消費者目線でベネフィットが伝わる仕組みを研究してみたいと思っています。
店舗の後方支援が今後のテーマ
――ソーシャルメディアでユーザーからコメントがあった場合の対応は?
津毛 ポジティブな意見だけでなくネガティブな意見もいただくのですが、基本的に削除するということはありません。ただ、すべてに対してコメントを返すというフローは正直実現できていません。お客さまとのコミュニケーションを高めるためには、ソーシャル上のインタラクションは非常にいいことだと感じているので、挑戦したい課題ですね。
――今後進めていきたいテーマはありますか。
津毛 店舗との連動も図っていきたいですね。最近ではお店で靴を履いてはみるものの、その場では買わずに他のお店やネットで買ってしまう、なんていう話も頻繁に聞くようになり、こうした問題は会社として真剣に考えていくべきだと思います。アディダスとして販売店に卸している立場からも、店舗とはアディダスブランドとして最大限協力していきたいと思っていますし、デジタルのコミュニケーションを店舗につなぐような施策を考えていく必要もあると思います。
また、最近では販売店でもEコマースを立ち上げていますので、そうした店舗で買うことのメリットを打ち出す必要もあります。たとえば靴を自分好みにカスタマイズできるような仕組みであれば、価格競争にはならないユニークさを発揮することができますし、ポイント還元といったロイヤリティをつける方法もあるでしょう。デジタルコミュニケーションを通じて消費者に響くベネフィットを考え、販売に結び付けることは今後非常に重要だと感じています。
――インタビュー雑感
ソーシャルメディアに対する企業の取り組みは、まずはできる範囲で試しながら少しずつ拡大していく、という流れが多い中、「ソーシャルメディアは必要なコミュニケーション」と信じ、最初から体制を整えてソーシャルメディアに取り組むアディダスの姿勢には驚かされました。今後は物販との連動も取り組んでいくとのことで、コミュニケーションやブランド認知だけでなく、製品販売へつなげるというアディダスの今後に期待したいと思います。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当:AMN 甲斐祐樹
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