2日間にわたる「AdverTimes DAYS 2013」で、最初のパネルディスカッションは、ロングセラーブランドを築き上げ、世代を超えたファンを有する老舗企業の代表として、オリンパス、大正製薬、明治の宣伝・マーケティング責任者が登壇。
時代とともに変化を遂げるメディアや消費者意識を捉えつつ、今後どのような施策を展開しようとしているのかなどについて意見を交わした。
<登壇者>
■オリンパス コーポレートセンター 経営企画本部 ブランド宣伝部 部長 増田 孝 氏
■大正製薬 理事 ブランドコミュニケーション部長 船橋 誠 氏
■明治 マーケティング推進本部 宣伝部 媒体グループ長 堀 淳理 氏
現在どのような課題に取り組んでいるのでしょうか。
増田:私の所属するブランド宣伝部は、ブランド戦略室と宣伝部という2つの部門を1つに統合した部門です。事業の売上や収益に貢献する宣伝と、ブランドの価値を上げるコミュニケーション、その2つを実現するのが現在のミッションです。
船橋:今年、大正製薬は創業100周年、主力商品の「リポビタンD」は発売50周年を迎えます。リポビタンDでは、この50年間ずっと変わらずに、「疲れた体と頑張る気持ちを応援します」というコンセプトのもとでテレビCMなどを展開してきました。
そのコンセプトがお客さまにも根づいているのは、50年の蓄積効果と言えるでしょう。しかし、昨今は、「失われた20年」と言われ、成長することを前提として前向きに物事を考えることが難しい時代です。その中で、「頑張る」というメッセージがどうあるべきなのか。これを見極めることが、今のテーマの1つです。
堀:当社は、代表商品である「明治ミルクチョコレート」をはじめ、二世代、三世代にわたって愛され続けるロングセラーブランドを扱っています。広く万人に受け入れられる広告が最良ではありますが、強い表現になるほど、ターゲットを絞り込んでコミュニケーションしなければ、なかなか機能しません。
生活環境が変化した昨今では、CMなどによって刺激されたお客さまが、自分なりの解釈をしてから店頭に来店されている印象があります。当社の商品をお客さまに手に取っていただくためには、どのように情報を伝えて、共感を求めていけば良いのか、というのが現在の重要な課題です。
時代の変遷の中で、メディアの選択や考え方に変化はありますか。
増田:主力商品では、マスメディアでCMを流して認知を獲得し、Webで詳細な情報を見ていただいて、店頭へ誘導してクロージングする。この一連の流れが、費用対効果から見て一番良いと感じます。
当社はさまざまな商品を抱えていますが、マーケティング・コミュニケーション予算が潤沢にあるわけではありません。主力商品に予算の重点を置く一方で、予算があまりつかない商品もたくさんあります。そうした予算のつかない商品でも、現在は、Webをはじめとする新しいデジタルメディアを活用することで、低コストで情報発信ができるようになりました。幅広いカテゴリーの商品情報をお客さまに伝達できる機会が与えられたという点では、メディアの変化によるメリットは非常に大きいと思います。
船橋:コミュニケーション戦略の構築にあたり、ID-POSデータに注目しています。これまでAIDMA理論に従った展開をしてきましたが、それではどうも上手くいかない状況が増えてきました。それが、ID-POSの活用により、私たちの想定とは違うところにお客さまがいたり、予測もしていなかった理由により商品を購入いただいていることが分かってきたのです。
薬局や薬店では、6割くらいが店頭で商品を選択しているというデータもあり、顧客の購買行動を知ることが、コミュニケーションの重要な位置づけになってきたと考えます。
堀:デジタルの台頭、さらにスマートフォンの浸透で、一人ひとりのお客さまの嗜好性の違いがより明確になっている印象を受けます。同じ商品でもお客さまによって異なる捉えられ方をするのが今の時代。商品や広告・コミュニケーションに対する解釈が多様化している中で、発信側としてどのようなコミュニケーションを図っていくのか。これは非常に難儀な課題です。
ロングセラーブランドを扱う上で、意識している点を教えてください。
増田:ブランド特性を一貫して維持することと、常に市場を活性化させるため、コミュニケーションを工夫することです。当社のミラーレス一眼のプロダクトブランド「PEN」を例にとると、もともとフィルムカメラ時代の「PEN」は小型・軽量というイノベーティブなブランド特性を持っていて、それまで限られた人たちの持ち物だったカメラを一般層に広げた功績がありました。
デジタルカメラとなった今でも「これまでにない小型・軽量デジタルカメラ」というイメージを演出し、市場がなかなか大きくならなかった女性層をターゲットに市場導入して成功しました。ターゲットを意識したクリエイティブでテレビCMから店頭への展開を統一したのはもちろんのこと、コミュニティサイトや女性限定のカメラ教室なども重層的に絡ませて、市場を開拓していきました。
船橋:いかに魅力的で、元気のあるブランドに見えるようにするか。コミュニケーション活動において常に考えておきたいのは、ブランドの鮮度を維持することですね。ブランドとしての一貫性を保ちながらも、ブランドの多様性をメディア特性に合わせた文脈で伝えることが大事だと考えています。
堀:ロングセラー商品を扱う場合、若い世代にもメッセージを発信していかないと需要が減ってしまいますし、CMなどもその層を狙ったクリエイティブであれば、話題性が高まりやすいはずです。しかしながら、これまで食べ続けてくれた方たちも大事にしたいと、個人的には考えています。ブランドの新鮮さを出しながら、それに加えて、お客さま一人ひとりの「私事」にどれだけマッチし、情報を自分事化していただけるかを意識して、対応していきたいと考えています。
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